「どうして借りようと思ったんですか?」
お巡りさんが優しく聞いてくれた。
始まりは… そう、あの日。偶然見かけた、夫の姿…
彼との生活は嫌ではなかった。若い女の肩を抱き、夫が夜のホテル街へと消えるまでは…
「何もかも嫌になって、いっぱい買い物して全部見なかったことにしようと思って…」
でも、お金が続くわけがない。カードの支払いに困って借金。返済額は瞬く間に膨れ上がった。
「それで旦那さんに知られて喧嘩になって、刺しちゃったの?」
「そう、刺したの。あの女に渡したくなくて」
だから死んでくれたらいい。
そうすれば夫の子を孕む、あの女の処へなんか行けないから――。
【終わり】
著作:紫草