あ、見つけた。
そう思って、目指す文庫に手を伸ばす。すると隣から伸びてきたその手と、緒邑古都の手が交差し思わず爪で引っ掻いてしまう。
「ごめんさない」
そう謝りながら顔を上げると同じ学校の有名人、小城乃洸が立っていた。
面白いもので知っている人間だと判断が入ると、こういう場合、まじまじと相手の顔を眺めてしまう。
最後の一冊というわけではなかったので、彼は何も発することなく本を取るとレジに向かって歩いて行ってしまった。
古都は、そこで漸く我に返る。
「あ!先輩。手、大丈夫ですか?」
同じ平積みから一冊取ってレジに向かう。
「君、誰?」
あ~、やっぱりそういう反応ですか。制服見えてないのかな。
「同じ高校の後輩です。さっき、爪で…」
右手の甲を見せながらそこまで言うと、彼は納得したように手を眺め大丈夫だと言って去って行った。
さっすが校内屈指の人気者。
それにしても掴みどころの無い人だよね。
確か、親が医者で豪邸に住んでて可愛い妹がいて、あと何だっけ…
ま、どうでもいいか。
古都は同じ文庫をレジに差し出し、Suicaをカードリーダーにかざして清算した。
「古都~! 古都、古都、古都ってば――」
「うるさいよ。私は何かの叩き売りか」
「そんなこと、どうでもいい。古都ってさ、昨日、小城乃先輩と会ってたんだって!?」
微妙に違う空気を感じながら、嫌な予感を覚える。
「駅前の本屋で、偶然ね」
真実を正確に伝えるには、短い言葉で簡潔にだ。
しかし、これで終わると思いきや、次はその本屋は何処だと聞く。
「地元の本屋さんだよ。由起子も知ってるでしょ」
「え? あのじいさんがやってる、汚いとこ!?」
そこまで言うと失礼でしょうが。
「何で、そこに小城乃先輩が?」
そんなこと知るわけないでしょ、と古都が言う前に、由起子の方が考えこんでしまっている。
「まさかと思うけど、古都って先輩と知り合いだったの?」
「まさか。生徒会に入ってるから顔は知ってるけど、それだけだよ」
そう言うと、そうだよね~と由起子も不思議がっている。
「ね~。どんなに潰れかけとはいえ本屋さんなんだからさ、先輩がいても変じゃないでしょ」
「だって先輩の家って、真逆だよ」
ふ~ん。
もうどうでもよくなって、それからは誰が来ても、適当に返事をして繋いだ。だって面倒だったもん。同じ質問を繰り返され、うんざりしていたのも事実だし。
翌朝、三年の女子から“お呼び出し”を受け、初めて失敗したと感じる古都だった。
今更思っても遅いよね。
さて、どうやって逃げようかな…
そんなことを思っていると、体育館倉庫の扉が開いた。
「何をしている」
体育教師の岩谷が仁王立ちに立ち塞がる。
すかさず先生を突き飛ばし三年の女子五人は逃げて行き、残された古都は縛られたまま、石灰にまみれた床に転がり落ちた。
岩谷が誰かに向かって手を貸すように声をかけている。その言葉を聞きながら助かったと思った。そしてその安堵感からか、古都は意識を失った。
To be continued
そう思って、目指す文庫に手を伸ばす。すると隣から伸びてきたその手と、緒邑古都の手が交差し思わず爪で引っ掻いてしまう。
「ごめんさない」
そう謝りながら顔を上げると同じ学校の有名人、小城乃洸が立っていた。
面白いもので知っている人間だと判断が入ると、こういう場合、まじまじと相手の顔を眺めてしまう。
最後の一冊というわけではなかったので、彼は何も発することなく本を取るとレジに向かって歩いて行ってしまった。
古都は、そこで漸く我に返る。
「あ!先輩。手、大丈夫ですか?」
同じ平積みから一冊取ってレジに向かう。
「君、誰?」
あ~、やっぱりそういう反応ですか。制服見えてないのかな。
「同じ高校の後輩です。さっき、爪で…」
右手の甲を見せながらそこまで言うと、彼は納得したように手を眺め大丈夫だと言って去って行った。
さっすが校内屈指の人気者。
それにしても掴みどころの無い人だよね。
確か、親が医者で豪邸に住んでて可愛い妹がいて、あと何だっけ…
ま、どうでもいいか。
古都は同じ文庫をレジに差し出し、Suicaをカードリーダーにかざして清算した。
「古都~! 古都、古都、古都ってば――」
「うるさいよ。私は何かの叩き売りか」
「そんなこと、どうでもいい。古都ってさ、昨日、小城乃先輩と会ってたんだって!?」
微妙に違う空気を感じながら、嫌な予感を覚える。
「駅前の本屋で、偶然ね」
真実を正確に伝えるには、短い言葉で簡潔にだ。
しかし、これで終わると思いきや、次はその本屋は何処だと聞く。
「地元の本屋さんだよ。由起子も知ってるでしょ」
「え? あのじいさんがやってる、汚いとこ!?」
そこまで言うと失礼でしょうが。
「何で、そこに小城乃先輩が?」
そんなこと知るわけないでしょ、と古都が言う前に、由起子の方が考えこんでしまっている。
「まさかと思うけど、古都って先輩と知り合いだったの?」
「まさか。生徒会に入ってるから顔は知ってるけど、それだけだよ」
そう言うと、そうだよね~と由起子も不思議がっている。
「ね~。どんなに潰れかけとはいえ本屋さんなんだからさ、先輩がいても変じゃないでしょ」
「だって先輩の家って、真逆だよ」
ふ~ん。
もうどうでもよくなって、それからは誰が来ても、適当に返事をして繋いだ。だって面倒だったもん。同じ質問を繰り返され、うんざりしていたのも事実だし。
翌朝、三年の女子から“お呼び出し”を受け、初めて失敗したと感じる古都だった。
今更思っても遅いよね。
さて、どうやって逃げようかな…
そんなことを思っていると、体育館倉庫の扉が開いた。
「何をしている」
体育教師の岩谷が仁王立ちに立ち塞がる。
すかさず先生を突き飛ばし三年の女子五人は逃げて行き、残された古都は縛られたまま、石灰にまみれた床に転がり落ちた。
岩谷が誰かに向かって手を貸すように声をかけている。その言葉を聞きながら助かったと思った。そしてその安堵感からか、古都は意識を失った。
To be continued