来やがったな。
操縦桿を握るファルコの腕に、小さな震えが走った。
落ち着くんだ。何とかしてレーダーの圏外に出る。あとは、死角に入ってやり過ごす・・と行きたいところだが、周囲は青い海に青い空。
隠れるところなんざ無ぇか。とすりゃああの曲芸を、もう一度やるしかない。
今度は、前とは違う。相手も網を張ってきてる。うまくやれるか?
わからねえ。悪くすると……死ぬ。
死ぬなら、空だ。監獄の中でエサの世話をされるなんざ、笑えねぇ。
カゴの鳥はごめんだぜ。『鳥のように自由に』だ。最後までな。
ファルコの機体には、コーネリアの重力を突破する力はない。
限りなく宇宙に近い空を飛べはするが、それもこの惑星の衛星軌道を、引力にあらがいながら周回するだけだ。
コーネリアの都市には、すでにこの機体のデータが――もしかするとファルコ個人のデータも――伝えられているだろう。都市に立ち寄って、食料や燃料を調達することはできない。
かといって、仲間の元にも戻れない――すでにアジトは、軍の手入れが入ったあとだ。
これじゃあ、ほんまもんの根無し草だ。
じぶんの心に暗い影が押し寄せてくるのを感じて、ファルコはあざけるように笑う。
血の昂りにまかせて、家族と家業をほっぽり出して……自分と似たようなやつらとつるんでは、楽しくやってきた。けれどそいつらも、俺が自分から切り離しちまった。
いまさら「一人ぽっちが怖い。家族や、仲間と呼べるものがほしい」だなんて、あんまり勝手だぜ。ファルコ・ランバルディ。
と、そのとき。海面すれすれに飛ぶファルコ機の視界のなかに、真正面から接近するひとつの機体が現れた。