突然の不可解な攻撃の意味のすべてを、ファルコが瞬時に理解できたわけではない。だが彼もプラズマエンジンの基本構造くらいは知っていたし、敵が自分の機動力を奪おうとしていることは分った。
(あまり、時間が無いかもしれねぇな)
今受けた攻撃が、どれほどの効果を持っているのか……時間が経つとともに効果を発揮するのか、それとも効果が薄れてゆくのか? 自分に知る術はない。
(俺の趣味じゃないが、なコト言ってる場合じゃねぇな!)
スリッピー機より発射された2発のプラズマ冷却弾が、ファルコ機の進路上に向け飛んでゆく。
ファルコの羽毛が逆立ち、クチバシの両側にびりびりと刺激が走った。全身に血液が駆けめぐり熱を帯びる一方で、感覚は研ぎ澄まされてゆく。両眼はレーダーよりも正確に2発の弾丸を捉え、飛来する弾丸も、周囲の景色もスローモーションのごとくゆっくりとして認識された。
もうこれ以上、攻撃を喰うわけにはいかない。
翼もつ身体の奥深くに根付いた、驚異的な能力で、ファルコは機を操った。機体はキリのように回転しながら急降下し、弾丸の間をすり抜ける!
「うっそぉお!??」
身を乗り出して、スリッピーは叫んだ。自分の目が信じられないとはこのことだ。
「速度は落ちているというのに。なんとまあ……恐ろしいやつだわい」
感心するというより、あきれ返るといった調子で、ペッピーはぼやいた。
間髪入れず機体を立て直すと、ファルコは頭上の小さなパネルを開き、内部に並んだスイッチ類をすばやく操作した。
ファルコ機には、武器は搭載されていない――。
先刻ぺッピーの言ったことは、コーネリア軍部に残された映像を解析し、さらにファルコ達が暴走族として惑星間連絡航路近くにたびたび出没していた時分のデータとも照合して得られた結論であり、けして不正解ではない。
その通り、いまファルコ機を中心に発生した重力場は、武器ではない。
G-ディフューザーシステムに少々手を加え、自機周囲に重力場を発生させる。そのままの状態で、お目当てのものをかすめるようにすれ違えば……磁石がクリップを引きつけるように、目当てのものは重力場にとらえられる。あとは安全な場所まで運んでゆき、着陸して回収するという寸法だ。
ファルコ達が、物資を調達する(拾得する、発見する、あるいはかっぱらう……)際には常套としていた手段である。
暴走族仲間の連中はどうあれ、ファルコがこの重力場を武器として使ったことは一度もない。(コーネリア軍部もその存在を知らなかったことからわかるように)もちろん先日の騒ぎの最中にも、である。