金属中毒

心体お金の健康を中心に。
あなたはあなたの専門家、私は私の専門家。

藤堂鏡志朗、愛を語る。

2009-03-04 17:22:21 | コードギアス

悪逆皇帝天誅の日から半年が過ぎた頃、藤堂は千葉と入籍した。式も無く華やかな宴も無い。それでも千葉は満足していた。ただ傍にいる。今の関係が自分達にはふさわしい。

「藤堂中佐」
「千葉」
結婚してからも二人はそう呼び合っている。だから彼らを知る者も、結婚したことに気が付かない者の方が多かった。
今日2人はかっての藤堂の道場の跡地にいた。道場そのものは跡形もなく消し飛んでいたが、小さな離れが無事残っていた。たった数日の休暇。
それでも入籍を知った扇がせいいっぱい手を回してようやく実現した。
「この大変なときに休暇など」
渋る藤堂に「少しでも2人だけの時間が女性には大事だから」と
半分命令のように休暇を押し付けた。
四聖剣1の剛の者などと言われた千葉だが、こうして2人きりになってふとした拍子に「きょうしろうさん」
少したどたどしく呼ぶ声に、(私の妻なのだ)とようやく実感する藤堂である。

さくら

2009-03-04 17:03:06 | コードギアス
桜を見ることができなかったな。
藤堂は言った。日本ではもう葉桜になっている
花どころではなかったですから。
神楽耶が言葉をつなぐ。経済会議がようやく終了して帰国便の時間まで後2時間である。
あの、もしよろしければ、ナナリーが日本語で言う。
離宮の庭に桜があります。ご一緒に見に行っていただけませんか。私も見るのは初めてなのです。
ナナリーは日本にエリア11に生きていたが、その間彼女の目は閉じられていた。
ご覧になりませんかではなく、見に行っていただけませんかというのは、皇帝としてではないナナリーの言葉。
みんなで見ればお花はもっときれいになるよ。
天子が少し丸い発音の日本語で一緒に行きましょうと言う。

離宮の庭に桜を30本植えさせたのは亡き姉ユーフェミア。ヴィ兄妹が死んだと聞いたとき、皇帝は国葬すらしなかった。せめて彼らにつながるものをと桜を植えさせたと。
あの国では桜は死者の魂を安らげると聞きました。
せめて魂だけでも安らかに。
祈りをこめて、ユーフェミアの手で植えられた若木は今はりっぱな成木になった。

わぁきれい。桃華園みたい。
本当に見事ですね。ブリタニアにこんなお庭があるとは存じませんでした。
ユフィ姉さまが私たちを偲んで、植えてくださった、そう言いかけてナナリーの言葉は止まる。
たとえ真実の事情を解ってくださっていても、やはり異母姉のユフィの名は日本人には不愉快なはずである。
花は植えた方の思いを抱きしめて育ちます。この花たちがこんなに美しいのは植えた方がとても優しい方だったからですね。
ナナリーの言葉が聞こえたかのように、でも聞こえなかったかのように神楽耶は答えた。

30本の中に1本だけ山桜があった。
省吾、お前の好きな
そういって藤堂は振り向く。いつも省吾のいた左側を。
そこに朝比奈は
いない。ただ、散り染めの花びらが1枚遊ぶだけ。
いつも藤堂を守るため利き腕とは逆の左側に立っていた。
しょうご
あの戦いから1年近く経った。ゼロに関わった者たちはそれぞれの立場で世界を安定させるために走り回った。神楽耶は日本の女天皇として。藤堂はその側近と軍事総官を兼職している。
過去を振り向く暇はなかった。
省吾、私はお前を思い出してもやれなかった。
藤堂の変化に最初に気が付いたのは神楽耶。次はナナリー。だが、二人は動かなかった。
いつも凛と背を伸ばしているあの男が泣いているから。
「お車の用意ができました」
侍従官が知らせを持ってくる。
すぐに行きますと神楽耶は答えた。しかし、藤堂を呼べない。
数分後侍従官はまたやって来た。
今度はナナリーが答えた。
待たしておきなさい。
しかし、長く待たしてはまたメディアが大国の不仲を騒ぎ立てるだろう。
天子は右を見て左を見た。
神楽耶もナナリーも動かない。山桜の方を見ると、藤堂が泣いている。
天子は胸ポケットのレースのハンカチを引っ張り出した。
てってっと走り出す。
そして藤堂の手にハンカチを握らせる。
桜を見上げていた藤堂の視線がふと下がる。
天子はその視線をしっかり見上げた。
あのね、泣きたいときは小さいものがあるといいの。私が一番小さいから一緒に行きましょう。
ようやく、藤堂は自分がまだ公的な場にいたことを思い出す。
レースのハンカチが数的の雨を吸った。

数日後、中華連邦にきれいに洗われたレースのハンカチとともに、桜の苗木が届いた。
事情を知らない星刻は天子個人に宛てられた、藤堂からの個人的贈り物となぜか藤堂の手に渡っていたレースのハンカチにさまざまなケースを想定してしまい、自分が男である事に深い自己嫌悪を感じた。