金属中毒

心体お金の健康を中心に。
あなたはあなたの専門家、私は私の専門家。

プロポーズ小作戦11

2009-03-29 17:47:40 | コードギアス
プロポーズ小作戦11
星刻はこの1ヶ月ほどは地下のルートを使って公館を出入りしていた。体調不調を理由に朱禁城に出仕しない身が、堂々と街中をうろついているのはまずいという配慮である。星刻は体調不調という理由を世界に対して隠さなかった。下手に隠すよりむしろ「何か目的があって朱禁城から消えているのでは?」そう思わすほうがいいからだ。
つまりは天子だけがそういう推測からも無縁で《私は星刻に嫌われたの?》とかわいい心配をしているわけである。

一応目立つ長髪を隠して変装しているが、やはり尾行されている。
いま星刻が着ているのはごく普通のビジネススーツで、官庁街ではどこにでもいる役人の一人にしか見えないはずだが。いかんせん星刻は役人にしては姿勢がよすぎ、また何よりも美形過ぎた。すれ違うほとんどの女が吸い寄せられたかのように振り返る。中には大司馬であることに気が付いたらしく口をぱくつかせる者もいる。それに星刻はいたずらを見つかった子供のような邪気の無い微笑を見せて、唇に指を当てる。ないしょだよと瞳が語る。
この微笑に頷かない女はいない。
星刻が訪ねたのは天子の室内履きを作る高級工房。あらかじめ注文しておいたナナリー皇帝の室内履きを受け取りに来たのだ。仕様はリハビリ用シューズで有名なイタリアのデル工房に合わせてある。
宝玉を磨いて作られたビーズの花飾りが靴を彩る。
同じデザインで天子と日本の神楽耶のも作らせている。
天子に電話で「おそろいを履きたいの」と言わせるためである。

プロポーズ小作戦10

2009-03-29 12:05:44 | コードギアス
プロポーズ小作戦10
リフレインを覚えておられるだろうか。エリア11と呼ばれていた日本で、はびこっていた麻薬である。
悪逆皇帝が倒された後、世界はまた混迷と混乱の時代に逆戻りした。しかし、ことリフレインに関してだけは世界中が足並みをそろえ撲滅を誓った。というのもリフレインはおもに日本をターゲットにしていたが、調査によると汚染は世界各国に広がっていた。地域により名を変え、販売ルートを変え、世界的な麻薬組織が生産から販売まで関わっている事はほぼ間違いない。
どこの国も自国がリフレインの本拠地と言われたくは無い。軍隊を使い売人や流通ルートを厳しく取り締まった。なお、リフレイン中毒者に対しては各国で対応が違った。

そんな中で唯一リフレイン撲滅条約に調印していない国、それが中華である。
と言っても、野放しにしているとか認めているという事ではない。むしろ、エリア11時代も含め、どこの国よりも厳しく規制している。売人は有無を言わさず即処刑。そして、リフレイン中毒者は、これも即処刑である。
参考までに日本では売人は逮捕、中毒者は専門の病院送りである。
扇総理の言葉を借りると、「リフレインの中毒者は国のゆがみの犠牲者であり、国が保護是正する義務がある」。
扇の言葉に一番ほっとしたのはカレンかもしれない。母は退院したとはいえリフレイン中毒だった。国によっては中毒者も罪人になる。なお中華における中毒者の罪状は《国家に損害を与えた罪》である。

大宦官の中核であった高亥が生きていた頃、星刻はこの《国家に損害を与えた罪》を、法律から失くそうと努力していた。生前の高亥は、いまだ少年の面を強く残した星刻を哂った。
『星刻。いずれお前にもわかる。国家にとってこれこそは最高の法文だとのぉ』
当時、何の力も無かった《同世代に比べれば出世は早いが、星刻の目的のためには権力が不足していた》星刻はただ、「おそれいります」と意味の無い返答をした。

少なくともこれだけは認めざるを居ない。
星刻は大司馬の公館となったインテリジェンスビルの専用エレベーターで一人思う。
高亥は建築にかけては天才だった。
そして、建築とは国家を造ることに似ている。歴史を見てもピラミッドやベルサイユ宮など、優れた指導者が残した名建築は多い。
高亥が生きていれば、このビルは宦官王とも呼ぶべき彼の王宮と呼ばれただろう。
地上部文は3階、地下は5階、つまり地下のほうが広い。世間に知られているのは地上1階部分だけである。
今は大司馬公館となったこのビルには24時間、世界中の情報が集まってくる。
情報とは単に優れた情報機器を備えればいいというものではない。むしろ古典的ではあるが、人、それも性に関わるものが最も有効だ。高亥はそういう点でも天才と言えた。世界中の要人の3割近くに、高亥のハニートラップが仕掛けられている。
そこからもたらされる情報は小さいところでは飼い猫の恋愛から、大きいところではあのEU割譲まで。
最近では皇帝ナナリーの靴のメーカーが変わった事まで星刻は報告されていた。
(歩行訓練を始めのか)
亡くなったナナリーの兄が聞くことができたなら、どれほど喜ぶか。
そう考えて星刻は自分も甘くなったと自戒する。
天子様を通じてご回復の祝意を伝えてもいいと星刻は思う。それは中華が情報戦において優れていることをさりげなく示す事にもなる。