どうやって、生き抜けばいいの?
絵本で「戦争体験」を伝えるのは、とても難しい。その体験の「悲惨さ」「残酷さ」が前面に押し出されてしまうと、 ーそれがリアルであればあるほどー 戦争を全く体験したことのない世代の人間にとっては、「ただただ恐ろしい、悲しい話」で終わってしまう。そこで思考停止してしまい、「どれも同じ話」に見えてしまう。
しかし、子どもたちが本当に知りたいのは、その悲惨さの中で「私は、どうやって、生き抜いたらいいの?」ということ。あるいは「あの子たちは、どうやったら、生き延びられるの?」ということなのだと思う。
この二冊は、そんな疑問にいくつもの答えを用意してくれている。幼い兄弟が、戦火の迫る町から逃げ出すところから、物語は始まる。
「ぼくは弟とあるいた」(2002年発行)のカバーの隅には、小さくこう書かれている。
「この絵本はカスカス地方(注:コーカサス地方)とバルカン半島を舞台に描きました。いま、世界中どこにでもあるお話です」
発行から20年を経た今年、2022年5月。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は、「紛争や暴力、迫害によって避難を強いられた人の数が1億人を超えた」と発表した。言うまでもなく、ロシアによるウクライナ侵攻がこの数字に拍車をかけたのだ。世界の78人に1人、全世界人口の1%以上が故郷を追われていると言う。
続編「ぼくと弟はあるきつづける」の最後の頁には、見事に生き抜いた二人の姿。
その後ろ姿が、素晴らしいのです。どのように素晴らしいか、ここに記してしまってはこれから読まれる方に申し訳ないのでガマンしますが、作者の深い人生観がにじみ出るラストシーンになっています。
悲惨さの奥に目を凝らし、暗闇の向こうに光を探す。
光があると信じ、その光に向かって、自分よりも弱い誰かの手を握って歩き続ける。
そんな兄弟の旅の軌跡(=奇跡)が、子どもたちへの力強い答えになっている。そう、思うのです。