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絵本の楽屋   by 夏野いばら

「ぼうし」                         せがわやすお:作 福音館書店

「ぼうし」の下での時間

小学生の頃に好きだったファンタジー物語の中では、「ぼうし」が魔法の力をくれる道具だった。その特別な帽子をかぶっている間は、不思議な力が発揮できる、という話だった。

確かに、帽子をかぶった途端、世界は変わる。見慣れた景色が変わる。同時に、普段は触れられることのない頭が圧迫され、体全体の感覚、つまり意識も変わる。実は魔法の道具としては、ホウキや杖や指輪より、「ぼうし」の方が、ずっと優れモノかもしれない。

この絵本は、そんな「ぼうし」をかぶった時の、世界のすてきな変化を思い出させてくれる。

幼いとき、帽子の下で過ごした時間。帽子の下で思っていたこと。帽子の下で、やってみたくなったこと。誰からも見られたくなくて、誰からも話しかけられたくない、初めての自分だけの時間。まだその意味もよく知らぬまま、初めて体験する秘密の時間。(実は周りの大人たちからは、その愛らしい姿は、丸見えなんだけど…笑)

初版1987年のこの絵本。縦31センチ、横20センチもある大型本なのですが、色彩、動静、緩急、濃淡、大少、余白…。文句なしの芸術作品です。子どもを子ども扱いしない、ふつうの本棚には収まりきらない、破格の絵本です。

大人になってしまった私は、手に取って、表紙をながめただけで、芸術性の高さに、もう「脱帽」しそうになります。が、そこはコラえて! 「いつまでも、かぶっていたい」のです。



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