一語一会 ～ 阿久 悠さんを偲ぶ

もう２０年近く前の話になるが、
企業の広報の仕事をしていた私は一度だけ
阿久　悠さんにお会いする機会があった。

それまで企業のトップの方などにお会いして
記事を書くことが多かった私は
はじめていわゆる「芸能関係」の方とお会いするということで
緊張とともに少し怖いような気持ちで
当時、六本木にあったオフィスを訪ねた。

そんな気持ちとは裏腹に
阿久　悠さんはとても照れくさそうでありながらも
にこやかに応対してくださった。

阿久さんの口から
紡いで出てくる言葉は驚くほど美しく、
お話を伺えば伺うほど、仕事ということを忘れ
なんとも“たおやかな気持ち”になっている自分がいた。

この人はほんとうに
「コトバの魔術師」なんだ。・・・・そう思ったことを覚えている。


お話をすすめていくうちに阿久さんはこんなことをおっしゃった。


「山を見て育った人間は上を目指す。
　海を見て育った人間は前を目指す。

　僕は瀬戸内の海を見て育ったので
　どこまでも水平思考なんですよ。

　競いあうのは好きじゃないんです。」


・・・意外だった。
競争の激しい世界で地位を得ている方なのに
こんなふうに考えていらっしゃるなんて・・・。

まだ２０代だった私は、
ただ仕事に振り回されるだけで立ち止まってばかりだった。

阿久さんのその言葉に
目の前がパァーっと広がっていくのを感じた。

「心にいつも花束を」

対談の最後に阿久さんがおっしゃった言葉である。

一期一会で一語一会。

すばらしい時間と言葉をプレゼントしてくださった阿久 悠さん。
ほんとうにありがとうございました。
ご冥福をお祈りいたします。







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