第4章 不登校問題解決への道すじ
1.調査資料から分かる子どもたちの思い
見て来たように、施策と無縁の子どもたちが多くいます。しかし、調査資料からは、次のような子どもたちの様子や思いが伝わってきます。それは、不登校問題を解決していくための参考になるのではないでしょうか。
一つは、不登校になりかけた時、困った時、子どもたちは身近な人に相談しています。それは、家族、親であり、友だちであり、先生です。(しかし、先生の存在が他の人たちより薄いのが気に懸かりますが)
二つは、身近な人の声かけや働き掛けが子どもたちにとっては大きな支えや励ましになっているということ。
三つは、子どもたちは、勉強がしたい、勉強が分かりたいという思いを持っていること。
四つは、子どもたちは、友だちと一緒に楽しく活動したいという気持を持っているということ。
五つは、子どもたちは、学校に行けなくなるまで、我慢し、自分を追い詰めているということ。
六つは、子どもたちは、自らの状況(不登校)を受け入れざるを得ず、また、どのような施策も当てにできない状況に置かれているということ。
そして、七つは、不登校を経験した子どもたちは、いつまでも同じ状況に留まっていないということ。
2.自らの道を切り開く子どもたち
次の資料は、2022年の問題行動等調査の中の「不登校児童生徒への指導結果状況」状況です。
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小学生 |
中学生 |
計 |
不登校児童生徒数 |
81.498人 |
163.442人 |
244.940人 |
指導の結果登校する又はできるようになった児童生徒 |
22.119人 |
45.925人 |
68.044人 |
指導中の児童生徒 |
59.379人 |
117.517人 |
176.896人 |
不登校の子どもたちが、小・中学生の時に学校に戻ることや再登校することができるのは、三割にも満ちません。多くの子どもが不登校のまま義務教育を終えているようです。
しかし、その後の就学・就業状況を見ると、子どもたちの多くが進学したり働いていたりすることが分かります。次のページの資料「不登校生徒の進学・就学・就業状況について」を見てください。
資料(実態調査、2011年)
■平成18年度不登校生徒の進学・就学・就業状況について※( )内は前回調査
①中学3年生時の高校進学率
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今回調査 |
全国平均 |
高校進学率 |
85.1% (65.3%) |
98.0% |
高校中退率 |
14.0% (37.9%) |
1.9% |
※高校進学率の全国平均は、平成19年度学校基本調査、中退率の全国平均は、平成19年~21年度問題行動調査による。
- 20歳現在の就学・就業の状況
|
今回調査 |
全国平均 |
就学している |
47.4% (23.5%) |
59.0% |
就業している |
54.1% (63.0%) |
44.7% |
(参考)就学・就業の詳細
| 就学している | 就学していない |
|
今回調査 |
全国 |
今回調査 |
全国 |
就学している |
19.6% (9.3%) |
16.4% |
34.5% (53.7% |
28.3% |
就業している |
27.8% (14.2%) |
42.6% |
18.1% (22.8%) |
8.6% |
※全国平均は、2010年国勢調査による。
- 20歳現在の就学状況
|
今回調査 |
全国平均 |
高等学校 |
9.0% (6.5%) |
1.3% |
専門学校・各種学校等 大学、短大、高専 |
37.7% (*16.5%)
|
58.8% |
【今回調査の内、専門学校・各種学校等は14.9% (8.0%)、大学・短大・高専は22.8% (*8.5%)】
※全国平均は、2010年国勢調査による。*前回調査は、高専を含まず。
- 20歳現在の就業の状況
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今回調査 |
正社員 |
9.3% (22.5%) |
パート・アルバイト |
32.2% (30.7%) |
小学校や中学校の時期に学校に行っていなくても、働いたり勉強したりしているのです。
学校に行っていなくても、自らの進路を開いているって、すごいことです。それを、不登校の子どもたちはやっているのです。先生からは「無気力」だと思われていた子どもたちが、そんな力を持っているのです。不登校の中でも、子どもは育ち、成長しているのです。それが子どもたちの持っている力であり、可能性なのです。
それなのに、そんな子どもたちが行けなくなる学校っていったい何なのでしょう。子どもたちの声を聞いて、しっかりと受け止めて、誰もがいそいそと通え、大いに自分の力を伸ばせる学校を子どもたちは望んでいます。学校って、本来、そういうところのはずです。
3.【提言】不登校問題を解決ために
文科省は10年ごとに「不登校に関する調査研究協力者会議」を設置し不登校対策を検討してきました。今回(2022年)の「協力者会議」で露呈したように、不登校の子どもたちの思いとはかけ離れた不登校対策が行われています。不登校問題の本質を見ようともせず、いつまでも、不登校を子や親の責任、課題とした対策をとってきた結果、学校に行けない子どもの数は二五万人まで膨れ上がってしまいました。(2022年には30万人になりました。)それでも、なお、同じ対策を繰り返そうとしています。
これでは、不登校をなくすことも、不登校問題を解決することもできないでしょう。学校に行けない子どもたちをなくすためには、子どもたちが学校に行けない要因を取り除くことだと、誰でも考えるのではないでしょうか。子どもたちが挙げている不登校の主な要因は、①「勉強が分からない」 ②「いじめ」 ③「先生との関係」 の3点です。まずは、これらを取り除くことからはじめたらどうでしょう。そして、子どもたち一人ひとりが、いそいそと通える学校を作ることではないでしょうか。
提言1 まず、不登校に対する認識を改めよう
- 不登校は、子どもたちの「無気力・不安」から起こっているのではなく、この国の貧困な教育政策から生み出されているということ。
- 不登校は、子どもたちの成長・発達する権利、学習権の侵害です。
- 不登校の子どもたちは、支援や援助を受ける憐れまれる存在ではありません。
- 不登校の子どもたちは、困難な中でも自らの進路を切り開いている、成長・発達、学習、生活の主体者であり、主権者として尊重されるべき存在です。
提言2 子ども(当事者)の視点に立って考えよう
- 不登校問題がなぜ起こっているのかを、子どもの視点に立って明らかにしよう。
- 不登校の子どもたちの学びや発達に対する要求を尊重しよう。
- 不登校を乗り越えた子どもたちから学ぼう。
提言3 今日の学校教育、制度を改めましょう(教育課程・学習指導要領の見直し)
- 子どもたちの学びたい分かりたいという思いを大切にしよう。
- どの子にも確かな学力を保障しよう。
- 子どもたちの主体性を大切にしよう。
- 子どもの全面発達を保障しよう。
- 先生が教育に専念できる環境を保障しよう。
- 子どもと先生が触れ合える時間を保障しよう。
提言4 子どもを権利の主体とした新しい子ども観・教育論を確立しよう
- 子どもを権利の主体として尊重しよう。
- 子どもを権利の主体とした教育活動、教育実践を家庭、地域で展開しよう。
- 子どもが学校、地域、家庭で伸び伸びと生活し、活動できる環境を作ろう。
しかし、これらが今すぐ実現するとは、到底望めません。今のような状況がこれからも続くことでしょう。では、私たちは、今をどのように生きていけばいいのでしょうか。今、できることを、気が付いた人から、はじめていきましょう。 一人ひとりが主体者として、主権者として!
提言5 誰にでもすぐに実行できること
〈子どもが学校へ行くのをいやがったら、学校へ行かなくなったら〉
- 学校へ行くか休むか、子どもの気持ちを尊重しましょう。
- 学校は休んでもいいんです。
- 家庭を子どもの居心地のいい居場所にしよう。
- 子どもことは子どもに任せましょう。
- 子どもの主体性を大切にしましょう。
- 家庭は、子どもが学び、成長できるところです。
- 家事はみんなでしましょう。子どもに頼りましょう。
- 親子で、散歩をしたり、食事をつくったり、楽しい取り組みをしましょう。
- 一緒に食事をしたり、散歩をしたり、楽しい取り組みをしましょう。
- 親の会に参加しましょう。なければ、親の会を作りましょう。
- みんなで手を取り合い、学び合いましょう。
不登校の子どもたちは哲学者だと言った人がいます。ダラダラすることは人間の権利だと言った人もいます。何もしていない時って、実は、次は何をしようかなと考えている時なんですよ。学校に行かないと1日24時間を自分で考え工夫して過ごさなければなりません。何日も何日も。これって、すごいことですよ。安心して学校を休めると、子どもはいろんなことを始めますよ。学校へ行かなくても子どもは成長していきます。そんな子どもをたくさん見てきました。せっかく不登校になったんだから、不登校を楽しんでください。きっと子どものすばらしさを発見できますから。 2023年11月23日 野中博善
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