第3部 不登校施策を問う
1.はじめに
不登校が24万人を超えた。小学生の70人に1人、中学生の20人に1人、これは、もう、異常な状態だ。にもかかわらず、文科省は、これまでと同じ対策・施策に固執している。先日(2023年2月)、通常国会、衆議院予算委員会で与党(公明党)の議員が不登校施策について質問した。それは、“不登校の主な要因は「無気力不安」である。早期発見、早期対応が大事である。そのため、相談体制と特例校等学校外の学びの場の整備が大事だ。”というような内容であった。それに対して、文科大臣は、“子どもらに配布しているタブレットを活用や不登校特例校を増やすなどの施策を早期にまとめたい。”という旨の答弁をしていた。これは、「問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査」をもとにした文科省の不登校施策を後押しする質疑であった。
この調査が不登校の子どもたちの思いと全くかけ離れていることは、「第2章 不登校問題の元凶は学校である!」で指摘したとおりである。今、文科省は、従前の施策に加え、教育機会確保法による施策を推し進めようとしている。その基調は、「不登校の子どもたちは、学校以外の場で学んでもいい」というものである。学校にこだわらずに、学びの場を広く捉え推奨している。一見、斬新な考え方のようにも見えるが、何の裏付けも、保障もない絵空事である。
文科省が推奨する学校外での学びと言っても、その主なものは市町村教育委員会が設置している「教育支援センター(適応指導教室)」やフリースクール等の民間施設などである。これらの利用者は、不登校の子どもたち(小中学生)244,940人の内のわずか34,338人である(2021年度)。前年度より若干増えているとはいえ、全不登校者の1割強に過ぎない。残り9割の子どもたちには学校外の学びの場が保障されているとは言えない状況である。学習支援センターやフリースクールも質量ともに不十分である。この状態で、学校外での学びを推奨しても、実際は、放置そのものである。
学校に行けない子どもたちは、学校に行けなくなったその時点で、多くのリスクを背負い、学びの場さえ失っているのである。そのような子どもたちに、“相談する場所は作ってあるから利用して” “学校のほかにも学ぶ場があるから” と言っても、1割程度の子どもたちしか利用できない状況である。これが、不登校をなくすためのまともな対応、施策だろうか。
「第3章 不登校施策を問う」では、文科省の不登校施策が、①不登校の子どもたちの為に役立っているのか、②不登校問題を解決するために寄与しているのかどうか、文科省が行った2つ調査「問題行動等調査」と「実態調査」の資料を基に考察する。そして、③不登校をなくすための、不登校問題を解決するための道すじ、展望について考える。
2.文科省が行ってきた不登校施策
まず初めに、文科省が行っている不登校に関する施策について見てみる。
【文科省による不登校児童生徒への支援、施策】
(文科省の不登校施策(調査研究協力者会議への資料)
〇教育支援センター(適応指導教室)の設置の推進
・不登校児童生徒の社会的自立に向けた指導・支援を担う「教育支援センター(適応指導教室)の設置の推進
(令和元年度:1,527施設(H30:1449施設))
〇不登校児童生徒を対象とした学校の設置に係る教育課程の弾力化(不登校特例校)
・不登校児童生徒を対象として、その実態に配慮した特別の教育課程を編成する必要があると認められる場合、指定を受けた特定の学校において教育課程の基準によらずに特別の教育課程を編成
【特区措置を平成17年7月6日付け初等中等教育局長通知により全国化】
〇教育相談体制の充実
・不登校を含め様々な課題を抱える児童生徒への相談体制の強化に向け、スクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカーの配置やSNS等を活用した相談体制の構築を推進
〇指導要録上の出席扱いについての措置等
・小・中・高等学校の不登校児童生徒が教育支援センター(適応指導教室)や民間施設など学校外の機関で指導等を受ける場合や、自宅においてICT等を活用して行った学習活動について、一定の要件を満たすときは指導要録上「出席扱い」にできる
【令和元年10月25日付け初等中等教育局長通知(義務教育)】
【平成21年3月12日付け初等中等教育局長通知(高等学校)】
【文科省通知 令和4年6月10日】
「不登校に関する調査研究協力者会議報告書~今後の不登校児童生徒への学習機会と
支援の在り方について~」について(通知)
「令和3年9月より、文部科学省において「不登校に関する調査研究協力者会議」を設置し、今後重点的に実施すべき施策に関する検討を行い、今般、その報告書が取りまとめられました。」
〇教育機会確保法及び基本指針の学校現場への周知・浸透
〇心の健康保持に関する教育の実施及び一人一台端末を活用した早期発見
〇不登校傾向にある児童生徒の早期発見及び支援ニーズの適切な把握のための、スクリ
ーニング及び「児童生徒理解・支援ノート」を活用したアセスメントの有機的な実施
〇不登校特例校設置の推進
〇学校内の居場所づくり(校内の別室を活用した支援策)
〇フリースクール等民間団体との連携
〇ICT等を活用した学習支援等を含めた教育支援センターの機能強化
〇教育相談の充実(オンラインカウンセリングを含む)
〇家庭教育の充実
〇その他
*学校外における学習活動や自宅におけるICTを活用した学習活動について、一定の要件の下、指導要録上の出席扱いとなる制度について、校長を含め教職員への理解が進むよう、研修等において周知徹底を図っていただくよう、お願いします。
以上、文科省の不登校施策(調査研究協力者会議への資料)と文科省通知(令和4年6月10日)から分かるように、文科省の不登校支援は、不登校の子どもたちへの相談・支援体制と教育保障体制の整備が大きな柱となっている。
これらの施策のデーターベースになっているのは、文科省が毎年行っている「問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査」である。
次の(3)「子どもたちの施策への反応は?」では、これらの施策を子どもたちがどのように利用し、どのように受け止めているかについて見ていきたい。
3.子どもたちの施策への反応は?(子どもたちの利用状況と反応)
(1)「問題行動等調査」 から
1)相談・指導を受けた学校内外の機関等
文科省が講じてきた種々の施策の利用状況を「問題行動等調査」で見てみる。
小学生(不登校者数 81,498人) |
利用者数(人) |
比率(%) |
1.教育支援センター(適応指導教室) |
7283 |
8.9 |
2.教育委員会及び教育センター等教育委員会所管の機関 |
8516 |
10.4 |
3.児童相談所.福祉事務所 |
4443 |
5.5 |
4.保健所.精神保健福祉センター |
592 |
0.7 |
5.病院.診療所 |
12302 |
15.1 |
6.民間団体.民間施設 |
4021 |
4.9 |
7,上記以外の機関 |
1943 |
2.4 |
8.養護教諭による専門的な指導 |
15051 |
18.5 |
9.スクールカウンセラー、相談員などによる指導等 |
30716 |
37.7 |
10. 相談・指導を受けていない |
26934 |
33.0 |
中学生(不登校者数 163,442人) |
利用者数(人) |
比率(%) |
1.教育支援センター(適応指導教室) |
17926 |
10.1 |
2.教育委員会及び教育センター等教育委員会所管の機関 |
9237 |
5.7 |
3.児童相談所.福祉事務所 |
6530 |
4.0 |
4.保健所.精神保健福祉センター |
744 |
0.5 |
5.病院.診療所 |
21981 |
13.4 |
6.民間団体.民間施設 |
5108 |
3.1 |
7,上記以外の機関 |
2810 |
1.7 |
8.養護教諭による専門的な指導 |
28476 |
17.4 |
9.スクールカウンセラー、相談員などによる指導等 |
54700 |
33.5 |
10. 相談・指導を受けていない |
61997 |
37.9 |
この表は、相談・指導を行っている機関の利用状況を表している。
それぞれの機関ごとに、その果たす役割や子どもたちとのかかわり方がある。施設・機関の役割を整理すると次のようになる。
〇学校外の施設・機関
支援施設・機関・・・「教育支援センター(適応指導教室)」、「民間団体・民間施設」
相談施設・機関・・・「教育委員会及び教育センター等教育委員会所管の機関」
「児童相談所、福祉事務所」、「保健所、精神保健福祉センター」
医療機関・・・・・・「病院、診療所」
〇学校内の施設・機関
相談施設・機関・・・「養護教諭」、「スクールカウンセラー」
1の「教育支援センター(適応指導教室)」は、不登校の子どもたちの受け皿として自治体の教育委員会が設置している公的な機関である。 2の「教育委員会及び教育センター等教育委員会所管の機関」とは、主に教職員の研修のための施設であるが、業務の一環として不登校の子どもや親に対する相談活動を行っている。 3の児童相談所、福祉センター、 4の保健所、精神保健センターも公的な機関で、業務の一つとして相談活動を行っている。 5の病院.診療所は文字通り医療機関である。心身の不調や不安の診察、診療を行っている。 6の民間団体.民間施設は、フリースクールや親の会、あるいは塾などをいう。 7の上記以外の機関は不明である。
8の養護教諭と 9のスクールカウンセラー・相談員は、それぞれ学校に配置されている。
2)施設・機関の利用状況
- 相談施設・機関の利用
文科省の不登校施策の大きな柱である相談体制について見てみる。
- どの相談施設・機関にも相談していない小・中学生が88,931人(36.3%)もいる。
- 次に、「病院、診療所」の利用も多い。小・中学生の利用は34,283人(14%)である。
- 上記①②と「教育支援センター(適応指導教室)」を除く相談施設・機関に相談した人数は、小学生58,561人、中学生102,497人、合計161,058人である。この中で突出しているのが、養護教諭とスクールカウンセラーである。両者を小・中学生の123,943人(相談者の77%)が利用している。
このことから、不登校の子どもの多く、特に中学生はどの施設や機関にも相談していないこと。そして、相談する場合は、専ら学校に配置されている養護教諭やスクールカウンセラーである。一方、親は子どもの不登校は心身の不調にあるのではないかと医療機関を頼っていることが分かる。
- 支援施設・機関の利用
文科省が特に力を入れて進めている学校以外の学びの場利用について見る。
- 教育支援センター(適応指導教室)の利用は、小学生7283人(8.9%)、中学生17,926人(10.1%)、小中学生合わせて25,209人が利用している。小中学生の10.3%である。
- 民間団体、民間施設の利用は、小学生4021人(4.9%)、中学生5,108人(3.1%)、小中学生合わせて9,129人で、3.7%である。
- ④⑤の支援施設・機関を利用している子どもは小中学生34,338人で、全体の14%である。
上記のことから、不登校の子どもの大半にあたる86%の子ども(210,602人)は、支援施設・機関を利用していない、または、利用できていないことが分かる。
(2)「実態調査」から
「実態調査」にも、もう一つ興味深い調査がある。子どもたちが休みはじめた頃に誰に相談し、どのような施設などを利用したがわかる。さらに、どんな支援があれば学校に戻れたかというものもある。次に表示する。
1)相談した相手
相談した相手 |
小学生% |
中学生% |
学校の先生 |
13.3 |
15.0 |
保健室の先生 |
7.7 |
6.9 |
学校にいるカウンセラー |
8 |
7.4 |
友達 |
7.6 |
10.6 |
家族 |
53.4 |
45.0 |
電話相談やSNS相談の相談員 |
0.4 |
1.4 |
その他 |
3.2 |
3.2 |
誰にも相談しなかった |
35.9 |
41.7 |
無回答 |
2.7 |
3.6 |
不登校になりかけた時、子どもたちの相談相手は、
- 「家族(小学生53.4%、中学生45%)」が圧倒的に多い。半数を超える。
- 次に、「誰にも相談しなかった〈小学生35.9%、中学生41.7%〉」が続く。
- その後、「学校の先生(小学生13.3%、中学生15.0%)」
- 「友達(小学生7.6%、中学生10.6%)」
- 「学校にいるカウンセラー(小学生8%、中学生7.4%)」
- 「保健室の先生(小学生7.7%、中学生6.9%)」となっている。
不登校になりかけた時、子どもたちが相談するのは、身近な人たちである。親であり、友だちであり、担任の先生や養護の先生、カウンセラーである。このことは、以下の項目でも共通している。身近な人たちの存在、身近な人たちとのかかわりが不登校の子どもたちにとって重要な意味を持っていると言える。
2)どのようなことがあれば休まなかったと思うか
|
小学生% |
中学生% |
学校の先生からの声かけ |
11.4 |
8.7 |
学校にいるカウンセラーと話をすること |
4.8 |
6.2 |
友達からの声かけ |
15.1 |
17.4 |
家族からの声かけ |
8.6 |
6.7 |
学校以外の相談窓口(市の相談センターなど)に行くこと |
2.7 |
1.5 |
学校以外の相談窓口に電話やSNSで相談すること |
1.4 |
1.7 |
クラスとしての活動、文化祭、運動会などに参加すること |
5.0 |
4.8 |
部活動などに参加すること |
2.2 |
4.3 |
個別で勉強を教えてもらえること(学校以外も含む) |
9.3 |
9.1 |
自分以外の家族への働きかけや手助け |
2.5 |
2.5 |
その他 |
8.4 |
9.9 |
特になし |
55.7 |
56.8 |
無回答 |
4.1 |
3.5 |
不登校になりかけた時、どのような働きかけや支援があったら学校に通えたかとい質問である。
- 第1位は、「特になし」である。小学生55.7%、中学生56.8%、小中学生ともに半数以上の子どもたちが「特になし」と答えている。圧倒的である。
- つづいて注目すべきは、「〇〇からの働きかけ」である。「友達からの働きかけ(小学生15.1%、中学生17.4%)。
- 「先生からの働きかけ(小学生11.4%、中学生8.7%)。
- 「家族からの声かけ(小学生8.6%、中学生6.7%)」。②③④を合わせると小学生35.1%、中学生32.8%である。
- 「特になし」に次ぐ2番目は、「個別で勉強を教えてもらえること(小学生9.3%、中学生9.1%)である。注目すべきことである。
「特になし」とは、何らかの支援や働き掛けがあったとしても、不登校になっていただろう、不登校になるのを防ぐ術、手立てはなかっただろうということをいっているのだろう。
だが、一方で、少なくない子どもたちが、家族、友だち、先生など、身近な人たちからの働きかけや「個別で勉強を教えてもらえること」を期待し、拠り所としていることが分かる。
3)学校に戻りやすいと思う対応
【小学生】
先生の家庭訪問 |
4.2% |
先生とインターネットや電話で話すこと |
4.1% |
学校にいるカウンセラーと話をすること |
5.0% |
友達からの声かけ |
17.1% |
家族からの声かけ |
8.3% |
学校以外の相談窓口(市の相談センター等)に行くこと |
2.4% |
学校以外の相談窓口に電話やSNSで相談すること |
1.1% |
個別で勉強を教えてもらえること(学校以外も含む) |
10.7% |
自分以外の家族への働きかけや手助け |
2.7% |
その他 |
5.2% |
特になし |
57.1% |
無回答 |
5.9% |
【中学生】
先生の家庭訪問 |
6.2% |
先生とインターネットや電話で話すこと |
3.9% |
学校にいるカウンセラーと話をすること |
7.1% |
友達からの声かけ |
20.7% |
家族からの声かけ |
7.5% |
学校以外の相談窓口(市の相談センター等)に行くこと |
1.4% |
学校以外の相談窓口に電話やSNSで相談すること |
1.9% |
個別で勉強を教えてもらえること(学校以外も含む) |
13.4% |
自分以外の家族への働きかけや手助け |
2.7% |
その他 |
5.1% |
特になし |
54.4% |
無回答 |
5.6% |
この項目は、不登校の状態にある子どもたちに、どういう支援や働き掛けがあれば、学校へ戻れるか、を尋ねている。調査結果を見て分かるように、「2)どのようなことがあれば学校を休まなかったか」と同じ傾向を示している。
- ここでも「特になし」が突出している。小学生57.1%、中学生54.4%で半数以上を占める。
- そして、「友達からの声かけ(小学生17.1%、中学生20.7%)」
- 「家族からの声かけ(小学生8.3%、中学生7.5%)」
- 先生やカウンセラーとの関わりも大事であることが分かる。
- 「先生の家庭訪問(小学生4.2%、中学生6.2%)」
- 「先生と話すこと(小学生4.1%、中学生3.9%)」
- 「カウンセラーと話すこと(小学生5.0%、中学生7.1%)」。
- そして、ここでも、「個別で勉強を教えてもらえること」が「特になし」に次いで多い。(小学生10.7%、中学生13.4%である。
この項目でも、「特になし」が突出しているが、身近な人たちとの関係(働き掛けや対話など)や「個別で勉強を教えてもらえること」が不登校の子どもたちが大きな期待を寄せていることが分かる。
4)学校を多く休んだことに対する感想
小学生
もっと登校すればよかったと思っている |
25.2% |
登校しなかったことは、自分にとって良かったと思う |
12.8% |
しかたがなかったと思う |
16.8% |
何も思わない |
18.1% |
分からない |
21.2% |
無回答 |
5.9% |
中学生
もっと登校すればよかったと思っている |
30.3% |
登校しなかったことは、自分にとって良かったと思う |
10.3% |
しかたがなかったと思う |
15.3% |
何も思わない |
15.2% |
分からない |
22.6% |
無回答 |
6.4% |
この項目では、不登校の子どもたちが学校を休んだことをどう受け止めているか、を尋ねている。
この問いに答えているのは、不登校只中の子どもたちであるが、教育支援センター(適応指導教室)に通える子どもである。(相談もできず支援も受けられていない子どもに比して)不登校の状態としては良好な状況にあると言えるのではないか。そのことを念頭に置いて調査結果と向き合うのが肝要と思える。
ここに表れた子どもたちの思いをどう理解するかは難しい。その傾向だけを示しておく。
- 「もっと登校すればよかったと思っている」と不登校を懐疑的に捉えているのは、小学生25.2%、中学生30.3%である。約3割である。
- これに対して「登校しなかったことは、自分にとって良かったと思う」と不登校を肯定的に捉えているのは、小学生12.8%、中学生10.3%である。
- また、「しかたがなかったと思う」というように不登校になったのは必然であったと捉えている子ども(小学生16.8%、中学生15.3%)を合わせると、小学生29.6%、中学生25.6%と3割近くになる。
- この先がどのようになるか分からない中で、不登校の是非を判断できない状況の中で「分からない」という回答は、子どもたちの心情を率直に表しているのかもしれない。「分からない」は小学生21.2%、中学生22.6%である。
4.子どもたちの状況に合っていない不登校施策
以上、不登校の子どもたちの不登校施策の利用状況を見てきた。そこから分かることは、不登校施策が子どもたちの状況にあっていないということである。それは、次の諸点から分かる。
- どの相談施設・機関にも相談していない小・中学生が88,931人(36.3%)もいる(問題行動等調査)こと。これは、「実態調査」の「誰にも相談しなかった〈小学生35.9%、中学生41.7%〉」に符合する。
- ア「どのようなことがあれば休まなかったと思うか」イ「学校に戻りやすいと思う対応」(実態調査)に対して、半数以上の子どもたち(アは小学生55.7%、中学生56.8%、イは小学生57.1%、中学生54.4%)が「特になし」と答えている。
- 学校以外の学びの場である「教育支援センター(適応指導教室)」の利用は、小学生7283人(8.9%)、中学生17,926人(10.1%)、小中学生合わせて25,209人(小中学生の10.3%)である。
- 民間団体、民間施設の利用は、小学生4021人(4.9%)、中学生5,108人(3.1%)、小中学生合わせて9,129人で、3.7%である。
学校以外の支援施設・機関を利用している子どもは小中学生34,338人で、全体の14%である。
さらに、文科省が近年、特に力を入れて推進している「不登校特例校」ついて見ると、次の状況にある。
- 夜間中学校や不登校特例校の設置は、文科省が力を入れて進めている施策である。夜間中学校は、学び直しの場として、中学校を卒業した後も利用することができる。
不登校特例校は、不登校経験者を対象とした小学校、中学校、高校である。現在、
全国で10自治体にあり、21校が指定されている。うち公立が12校、私立が9校
である。(2022年5月、小学校1,中学校15、高校3、その他2)である。利
用者数の資料はない。(ちなみに、平成28年1月時点で、不登校特例校は、小・中
併設校2校、中学校6校、高等学校2校で、在籍者数は729人であった。在籍者
数も学校数に合わせて増えていると思える。)また、不登校特例校は、設置に積極的
な自治体や学校法人に集中しているようで、一般化しているとはいえる状況ではな
い。
- このほか、学校以外の学びの場としてフリースクールがある。令和元年の調査では、フリ―スクール252、親の会10,学習塾10、その他79。計351ある。(その他とは特色ある教育を行う施設などを言うらしい。)
- 教育委員会と連携のある民間の団体・施設は351ある。2021年度の「問題行動等調査」によれば、その利用者は、小学生4,021人、中学生5,108人、計9,129人で、小学生の4.9%、中学生の3.1%、小中学生全体の3.7%である。
もう1度、文科省の不登校施策を見てみよう。
〇教育機会確保法及び基本指針の学校現場への周知・浸透
〇心の健康保持に関する教育の実施及び一人一台端末を活用した早期発見
〇不登校傾向にある児童生徒の早期発見及び支援ニーズの適切な把握のための、スクリ
ーニング及び「児童生徒理解・支援ノート」を活用したアセスメントの有機的な実施
〇不登校特例校設置の推進
〇学校内の居場所づくり(校内の別室を活用した支援策)
〇フリースクール等民間団体との連携
〇ICT等を活用した学習支援等を含めた教育支援センターの機能強化
〇教育相談の充実(オンラインカウンセリングを含む)
〇家庭教育の充実
不登校の早期発見、相談体制の充実、学校内の居場所づくり、学校以外の学びの場の保障などなど、様々な施策が講じられている。
しかし、子どもたちの受け止めや施策の利用は、以上のように2つの調査資料を通して見て来たとおりで、多くの子どもたちが施策と無縁の状況にあることが分かる。
その結果が次の表、「不登校児童生徒への指導結果状況」である。
|
小学生 |
中学生 |
計 |
不登校児童生徒数 |
81,498人 |
163,442人 |
244,940人 |
指導の結果,登校する又はできるようになった児童生徒 |
22,119人(27.1%) |
45,925人(28.1%) |
68,044人(27.8%) |
指導中の児童生徒 |
59,379人(72.9%) |
117,517人(71.9%) |
176,896人72.2%) |
この状況は、数十年間、毎年、続いている。
しかし、多くの不登校の子どもたちは、施策と無縁の状況にある中で、多くの困難を抱えながらも自らの進路を切り開いて行っている。
2007年(平成18年)に不登校の子どもたちの就学、就職状況を調査した文科省の資料が下の表である。
2007(平成18)年度不登校生徒の進学・就学・就業状況について
( )内は1994(平成5)年度調査
中学3年生時の高校進学率
|
今回調査 |
全国平均 |
高校進学率 |
85.1% (65.3%) |
98% |
高校中退率 |
14.0% (37.9%) |
1.9% |
高校進学率全国平均はH19学校基本調査、中退率全国平均はH19~21問題行動調査
20歳現在の就学・就業の状況
|
今回調査 |
全国平均 |
就学している |
47.4% (23.5%) |
59.0% |
就業している |
54.1% (63.0%) |
44.7% |
全国平均は2010年国勢調査
20歳現在の就学の状況
|
今回調査 |
全国平均 |
高等学校 |
9.0% (6.5%) |
1.3% |
専門学校・各種学校等・大学・短大・高専 |
37.7% (*16.5%) |
58.8% |
全国平均は2010年国勢調査 *前回調査は高専を含まず
5.調査資料から分かる子どもたちの思い
以上のように、不登校に関して様々な施策が講じられている。しかし、子どもたちの受け止めや施策の利用は、調査資料を通して見て来たとおり、施策を利用できているのは限られた子どもたちであって、多くの子どもたちは施策と無縁の状況にあることが分かる。
よって、施策は有効でないと言える。しかし、調査資料からは、次のような子どもたちの様子や思いが分かる。それは、不登校問題を解決していくための参考になるかもしれない。
1つは、不登校になりかけた時、困った時、子どもは、身近な人に相談している。それは、家族、親であり、友だちであり、先生である。(しかし、先生の存在感が薄いのが気に懸かる。)
2つ目は、身近な人たちの声かけや働き掛けが子どもたちにとっては大きな支えや励ましになっていること。
3つ目は、子どもたちは、勉強がしたい、勉強がわかりたいという思いを持っていること。
4つ目は、子どもたちは、友だちと一緒に楽しく活動したいという気持でいること。
こうした思いは、子どもの最も基本的な欲求、要求である。
5つ目は、子どもたちは学校に行けなくなる状況まで自分を追い詰めていることである。その思いは、学校を休んだことに対する感想から伝わってくる。また、多くの子どもが何らの相談・支援も受けていないことからも分かる。
6つ目は、子どもたちは、自らの不登校の状態を受け入れざるを得ず、また、どのような施策をも当てにできない状況にあるということである。
そして、7つ目は、不登校を経験した子どもたちは、いつまでも同じ状況に留まっていないということ。例え、リスクを抱え、困難な状況にあっても、多くの子どもたちが前に向かって進み、そして、自らの進路を切り開いて行っている。
まとめ・・・不登校問題解決への道すじ・・・
では、なぜ、不登校施策が子どもたちに響いていないのか。それは、文科省の調査結果に表れた不登校問題の本質を見ようともせず、いつまでも、不登校を子や親の責任、課題としているからである。それについては、「第2章 不登校問題の元凶は学校である!」で明らかにした。
このレポートを書いている間にも、2月に、文科大臣は “子どもらに配布しているタブレットの活用による早期発見、不登校特例校を増やすなどの施策を早期にまとめたい。”と有識者会議に諮問し、また、3月には、中教審が、今後5年間で不登校特例校を300校に増やすと文科大臣に答申した。また、効果のない同じ施策が続く。
このような施策が、不登校の子どもたちに対してほとんど効果がないことをこのレポートで明らかにしてきた。不登校問題の深刻さが理解できていないようである。
まとめとして、24万人の子どもが学校へ行けない異常な状況を変え、不登校をなくし、不登校問題を根本的に解決するために何が必要なのか、考える。
不登校の子どもたちに寄り添い、問題を見つめれば、いろんな知恵が、考えがそして、方法が生まれてくるだろう。みんなで考えよう。
以下は、私からの提案です。
◎まず、不登校に対する認識を改めよう。
〇不登校は、子どもたちの「無気力・不安」から起こっているのではない。この国の貧
困な教育政策によって生み出されているということ。
〇不登校は、子どもたちの発達・成長する権利、学習権の侵害である。
〇不登校の子どもたちは、支援や援助を受ける憐れまれる存在ではない。
〇不登校の子どもたちは、成長・発達、学習、生活の主体であり、主権者として尊重さ
れるべき存在である。
◎不登校問題を子ども(当事者)の視点から考えよう
〇まず、不登校問題がなぜ起こっているのかを、子どもの視点に立って明らかにするこ
とである。そのヒントは、文科省が実施した「問題行動等調査」や「実態調査」、更
には、民間団体が行った調査を検証すればよい。
〇次に、不登校の子どもたちが示している発達や学びに対する要求を尊重すること。子
どもたちは、勉強が分かりたい、友だちと一緒に活動し成長したいという要求を訴え
ている。一人ひとりの子どもの確かな学力をはじめ全面発達が保障される教育内容を
整えること。
〇そして、誰もが伸び伸びと生活できる時間的空間的、そして、物理的環境を整備する
こと。
〇不登校を乗り越えた多くの子どもたちから学ぼう
◎このような視点で、今日の学校教育、制度を見直そう
〇子どもの学びたい、わかりたいという思いを大切にしよう。
○どの子にも確かな学力を保障しよう。
○子どもの主体性を大切にしよう。
○子どもの全面発達を保障しよう。
○先生が授業の準備や教材研究できる時間を保障しよう(午前中授業など)。
○子どもの表情が分かる教室を作ろう(25人学級など)。
◎子どもを権利の主体とした新しい子ども観・教育論を確立しよう
〇子どもが学校、地域、家庭でのびのびと生活できる環境を作ろう
〇子どもを人材としてではなく、権利の主体として尊重しよう
〇子どもを権利の主体とした教育活動・教育実践を家庭、地域で展開しよう。
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