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不登校問題の真実 その2 第1章「なぜ、子どもたちは学校に行けなくなるのか」

2024-01-08 13:33:08 | 考察

第1章 なぜ、子どもたちは学校に行けなくなるのか

 

1.資料で見る不登校の理由やきっかけ

 なぜ、子どもたちは学校に行かなくなったのか。なぜ、学校に行けなくなったのか。

まず、章末に掲載している資料1、資料4の「問題行動等調査」と「実態調査」の「不登校の要因」に目を通してください。

 

いかがでしたか。資料を見ただけで、子どもたちが学校に行けなくなるのには様々な理由があることに気付くでしょう。そして、学校に行けなくなった子どもたちの思いが伝わってくる来たのではないでしょうか。

また、二つの調査結果の違いにも気づかれたのではないでしょうか。

学校に行けない、行かない子どもたちが25万人近くいます(2021年)。こんなにたくさんの子どもたちが学校に行けなくなっています。

“ともだち たくさんできるかな” “べんきょう がんばるぞ” 胸躍らせ、ワクワクしながら小学校の入学式を迎えたはずの子どもたちが、どうして学校に行けなくなったのでしょう。いっしょに考えていきましょう。

 

2.子どもと先生では、不登校への認識がちがっている

(1)「問題行動等調査」

・・・不登校の子どもたちに対する先生たちの認識・・・

 「問題行動等調査」を見ると、子どもたちが不登校になるのは子ども自身にその原因があるようです。

小学生が不登校になる要因の第1位は「無気力・不安」(49.7%)です。また、「生活リズムの乱れ」も13.1%と大きな要因になっています。不登校の小学生の6割です。

小学生の不登校の要因の第3位は「親子の関わり方」(13.2%)です。その他、「家庭内の不和」や「家庭の生活環境の急激な変化」などを合わせると、「家庭」を要因とする不登校は23.0%を占めています。

これらを合わせると85.8%です。小学生の不登校のほとんどは、子ども自身と家庭を要因としていることが分かります。

中学生はどうでしょう。中学生の不登校の要因は、小学生と同様に、第1位は生徒の「無気力・不安」で、これも49.7%です。「生活リズムの乱れ」は11.0%で第3位です。これら二つを合わせると60.7%で、中学生も6割が本人自身に不登校の原因があることが分かります。また、「家庭」を要因とする不登校は9.5%です。これらを合わせると70.2%で、中学生の不登校も、本人と家庭を原因に起こっていることが分かります。

では、本人や家庭以外の要因はどうでしょう。小学生では、「いじめを除く友人関係をめぐる問題」(第4位で6.1%)と「学業の不振」(第6位で3.2%)が続きます。中学生では第1位の本人の「無気力・不安」の次に「いじめを除く友人関係をめぐる問題」(第2位、11.5%)、「学業の不振」(第3位、6.2%)が続きます。

友人関係というと、社会的にも問題となっている「いじめ」が思い浮かびますが、「問題行動等調査」を見るかぎり、小学生で106人(0.3%)、中学生で271人(0.2%)に過ぎず、ほとんど不登校の原因になっていません。また、「教職員との関係をめぐる問題」も、小学生で1.9%、中学生で0.8%です。

 「問題行動等調査」から分かることは、不登校のほとんどは、子ども自身と家庭、そして、いじめ以外の友達関係を原因として起こっているようです。。

“何事にもやる気が見られず、いつも何か心配事や不安を抱えていて、落ち着かない様子の子。遊びやゲームに夢中になったり、非行に走ったりして生活リズムを乱し、朝、起きられずに、学校を休みがちになる子。また、親に反抗したり、言うことを聞かなかったり、親子関係がうまく築けていない子ども。” そんな子どもたちが不登校になっていることが、「問題行動等調査」から分かります。

 

(2)「実態調査」

・・・不登校の子どもたちの認識・・・

次に、「実態調査」を見てみましょう。

「実態調査」は当てはまることがらを複数回答することが可能です。ですから、「不登校のきっかけ」も、当事者(子どもたち)の思いを反映してるのか、突出したことがらがない代わりに、多岐にわたっているようです。多い方から、挙げてみます。

小学生では、「先生のこと」29.7%。「身体の不調」26.5%。「生活リズムの乱れ」25.7%。「きっかけが自分でもよくわからない」25.5%。「友達のこと」(いやがらせやいじめ)25.2%。「勉強が分からない」22.0%。「友達のこと」(いじめ以外)21.7%と並びます。どれも20%以上を数えます。

中学生ではどうでしょう。中学生では、「身体の不調」32.6%。「勉強が分からない」27.6%。「先生のこと」27.5%。「友達のこと」(いじめ以外)25.6%。「「生活リズムの乱れ」25.5%。「友達のこと」(いじめ)25.5%。「きっかけが何か自分でもよくわからない」22.9%です。

小・中学生ともに、子どもたちが「先生のこと」、「勉強が分からない」、そして、「いじめやいやがらせ」を不登校の要因として挙げていることが分かります。

また、「身体の不調」や「きっかけが自分でもよく分からない」といったきっかけや原因がはっきりしないまま不登校になっている子どもたちが多くいることが「実態調査」から浮かび上がってきます。

“先生とうまくいかなかったから、先生が怖かったから、体罰があったから、学校へ行けなかった。” “授業がおもしろくない、勉強が分からない。だから、学校へ行くのが辛くなって、学校を休むようになった。” “友だちからいやがらせをされたり、いじめられたりするから、学校に行くのが嫌になった。”

さらに、“朝、起きられない。お母さんが起こしに来ても体が動かず、起きられない。”

“学校に行こうとすると、おなかが痛くなり、吐き気がしたり、体調が悪くなって休んでしまった。”

子どもたちのこのような様子が、「実態調査」から伝わってきます。

 

(3)相反する二つの調査結果

二つの調査から、子どもたちが学校に行けなくなる、あるいは行かなくなるのには、いろんな理由やきっかけがあることが分かります。「生活リズムの乱れ」は、どちらの調査でも不登校の主な要因に挙がっていますが、それ以外の要因では、二つの調査はまったく相反していることが分かります。

「問題行動等調査」では、不登校のほとんどは、子ども自身と家庭、そして、いじめ以外の友達関係を原因として起こっています。

しかし、「実態調査」では、「問題行動等調査」では大きな比率を示していた「無気力・不安」や「親のこと」、「家族関係」といった本人や家庭に関わる要因は、それほど高くありません。「実態調査」では、「本人」や「家庭」よりも「先生のこと」、「友達のこと」(いじめ)、「勉強が分からない」など「学校・学校生活」により大きな要因があることを示しています。

二つの調査は、ともに、不登校の要因を示していますが、調査対象や調査方法に違いがあるので単純比較はできません。しかし、結果が大きく違っていることは明確です。なぜ、このような違いが生まれたのでしょう。思いつくのは二つの調査の回答者です。「問題行動等調査」の回答者は学校(先生)です。それに対して「実態調査」の回答者は子ども自身です。

先生たちの目には、“不登校は、子ども自身と家庭にその主な要因がある。と映っているようです。しかし、子どもたちは、「先生のこと」、「友達のこと(いじめ)」、「勉強が分からない」など「学校・学校生活」に大きな要因があると感じている。この相反する認識が、二つの調査の違い(乖離)として表れたのでしょう。(このことについては第2章で考えます。)

 

3.学校に行けない子どもたちの思い

 「問題行動等調査」と「実態調査」では、結果に大きな食い違いが見られます。幸い、この二つの調査以外にも、子どもたちが学校に行けなくなる理由を調べた調査があります。民間の公益社団法人「日本財団」が実施した「財団調査」と文科省が「不登校に関する追跡調査研究会」を立ち上げ実施した「不登校に関する追跡調査」です。それらの調査も見てみましょう。

  • 財団調査と追跡調査から分かる子どもたちの思い
  • 財団調査

「財団調査」は、公益財団法人日本財団が2018(平成30)年に、中学生6500

人を対象に、不登校傾向にある子どもたちの学校に馴染めない原因、背景を知るために実施された調査です。

 調査の対象者は、12歳から15歳で中学生の年代の6500人です。不登校の子もいれば学校に馴染んでいる子どももいます。その中で不登校の子どもは318人、4.9%です。教室外登校や部分登校など不登校傾向の子どもたちも8.9%います。

 回答は、質問項目に対して当てはまることがらを選び、複数回答も可です。子どもたちの思いを幅広く捉えることができるのではないかと思えます。

 まずは、財団調査の概要と調査資料をご覧ください。(P13~P14)

  • 不登校の子どもたち(1A・1B)

「不登校」(1A)の子どもたちが挙げている不登校の原因や理由を比率の大きい順に並べてみると、次のようになります。

  • 「朝起きられない」(59.5%) 
  • 「疲れる」(58.2%) 
  • 「学校に行こうとすると体調が悪くなる」(52.9%) 
  • 「授業がよく分からない、ついていけない」(49.9%)
  • 「学校は居心地が悪い」(46.1%)
  • 「友達とうまくいかない」(46.1%)
  • 「先生とうまくいかない、頼れない」(38.0%)

 この調査結果を見てどう思われますか。「不登校」(1A)の子どもたちは、30日以上学校に行っていない子どもたちです。その子どもたちが挙げている不登校の原因や理由は、「問題行動等調査」とはかなりかけ離れています。むしろ、どちらかというと「実態調査」に近い傾向を示しています。  

  • 「朝起きられない」②「疲れる」は、「問題行動等調査」の「無気力・不安」、「生活

リズムの乱れ」に当たるのかと思えなくはありません。しかし、②「疲れる」は、「学校に行くと疲れる」の意味でしょう。また、③「学校に行こうとすると体調が悪くなる」は、不登校の初期に多くの子どもか経験することで、これは、学校へ「行かなければ」という気持と「行きたくない」という思いとの間での葛藤の極限状態で起こっているもので、自らの心身を護るための表れと言えるのではないでしょうか。病院に行くと「起立性調節障害」「自律神経失調症」などと診断される場合もあります。⑤「学校は居心地が悪い」(46.1%)と併せて考えると、学校に行くこと、学校に居ることが子どもにとって大きな精神的な負担になっているようです。

そして、④「授業がよく分からない、ついていけない」ことは、学校に行けなくなるほど子どもにとっては重要なことことなのです。

加えて「友達とうまくいかない」「先生とうまくいかない、頼れない」となれば、子どもたちにとって、学校が安心して居られるところではないということです。

次に、不登校(1B)を見ると、それぞれの要因の割合は20から30%台へと下がります。そして、順位は多少入れ替わっています。これは、不登校(1A)は、「30日以上学校に行っていない」(ほとんど学校に行けていない)子どもたちで、不登校(1B)は、「一定程度学校に行っていない」(ある程度は学校に行けている)子どもたちとの、いわば、不登校の程度の違いからくるのかもしれません。しかし、不登校の原因・や理由は同じ傾向にあります。

 「財団調査」は、不登校の子どもたちだけでなく、学校には行っているが「教室外登校」の子どもや、教室に入っているが学校が嫌、行きたくないと思っている不登校傾向にある子どもたちも調査の対象になっています。そうした子どもたち2~4(教室外登校・部分登校・仮面登校A)、5(仮面登校B)の学校に行きたくない原因や理由について見てみましょう。

 

  • 不登校傾向の子どもたち(2~4,5)

 不登校傾向の子どもたちは、教室には入れないが学校には行っている子、教室に入ってはいるが学校に行きたくない、学校が嫌だと感じている子どもたちです。

 「学校に行きたくない理由」は、先の不登校の子どもと同じ傾向を示しています。「疲れる」、「朝、起きられない」は上位にあります。「友達とうまくいかない」、「先生とうまくいかない」、「授業がよく分からない、ついていけない」も大きな理由の一つになっています。

 不登校傾向の子どもたちだけが挙げている理由に「小学校の時と比べて、つまらない」があります。中学校の状況を理解する上で、大事な視点かも知れません。また、1A以外の三つのタイプに挙がっている理由に「テストを受けたくない」があります。「小学校の時と比べてよい成績が取れない」と併せて成績の評価が子どもたちの負担になっていると思われます。

 「財団調査」からは、子どもたちが「学校に行きたくない理由」として、①「授業がよく分からない」②「友達とうまくいかない」③「先生とうまくいかない」ことの三つほかに、「学校は居心地が悪い」、「小学校の時と比べてつまらない」、「学校に行く意味が分からない」など、学校の在り方そのものが学校に行けなくなる理由になってることが分かります。

 

  • 追跡調査

次に、文科省が2001年と2011年に行った「追跡調査」を見てみましょう。200

1(平成13)年に1993(平成5)年度に中学3年生だった不登校生徒への追跡調査、2011(平成23)年には2006(平成18)年度に不登校だった不登校生徒への追跡調査を、調査研究会を設けて準備し実施しました。

この調査は、先に見た文科省が2020年に行った「実態調査」と同じような内容の調査

ですが、不登校のきっかけ、理由の項目に「体調の不調」が入っていません。また、2001年の調査には「生活リズムの乱れ」が入っていません。比較する場合にはこの点に留意する必要があります。

二回の「追跡調査」の結果は「実態調査」と同じような傾向を示していることが分かりま

す。比較するために「実態調査」も中学三年生のものを使ってみました。次のようになります。

 

質問項目

実態調査

H18追跡調査

H5追跡調査

友達との関係

51,0%

53.7%

44,5%

勉強が分からない

27,6%

31,6%

27,6%

先生との関係

27,5%

26,6%

20,8%

生活リズムの乱れ

25,5%

34,7%

 

 

 

 

 

 

このように「追跡調査」からも「実態調査」同様に、「友達との関係」が不登校の理由の最も大きな割合を占めていることが分かります。また、「勉強が分からない」、「先生との関係」も不登校の要因になっていることが分かります。

 不登校の当事者を対象とした調査である「実態調査」と「追跡調査」は、その対象が少し異なっていますが、ほぼ10年の間隔で三回実施されています。それは、30年間の不登校の要因の推移が分かる資料であると言えます。そこから分かることは、「友達との関係」「勉強が分からない」「先生との関係」が、不登校の主要な要因だということです。

 

4.だれでも不登校になる可能性がある

これまで、「問題行動等調査」、「実態調査」、「財団調査」、「追跡調査」の四つの調査について見てきました。

子どもたちが不登校になるのには、さまざまな理由、きっかけがあることが分かります。そして、子どもたち一人ひとりに、その子なりの理由やきっかけがあります。。

それも、決して、特別な理由やきっかけではなく、ごく身近な、日常的なことがらがきっかけや理由になっているようです。勉強が分からないから、学校に行けなくなることがあるのです。友達から嫌がらせをされるから学校に行きたくないと思うことだってあるのです。先生が怖いから学校に行けなくなる子もいるのです。「生活リズムの乱れ」、「体調の不調」、「朝起きられないなど」、「環境の変化」など、誰もが経験したことがあるようなことを原因やきっかけにして、多くの子どもたちが不登校になっているのです。

「財団調査」よると、多くの子(86.7%)が学校に馴染めているようです。しかし、少なくない子どもたち(13.3%)が、学校に馴染めていません。学校に行けていない不登校の子どもたち(4.9%)のほかに、学校に行っていても教室に入れない子、教室に入っていても心ここにあらずという子、学校に行きたくないという子(8.4%)という子もいます。

「不登校については、特定の子どもに特有の問題があることによって起こることではなく、どの子にも起こりうる」と、かつて文科省が言ったように、だれがいつ不登校になってもおかしくない状況に子どもたちが置かれているということが、四つの調査から分かります。

ただ、「問題行動等調査」と他の三つの調査では調査結果について大きな違い(乖離)があります。

「問題行動等調査」では、子どもの「無気力・不安」、「生活リズムの乱れ」、「親子の関わり方」、「いじめを除く友人関係」など、「本人」や「家庭・親子関係」に不登校の主要な要因となっています。

一方、他の三つの調査では、「先生との関係」「いじめ・いやがらせなどの友達関係」、「勉強が分からない」などが不登校の大きな原因きっかけになっています。

子どもに「やる気がないから」、「親子関係がうまくいっていないから」不登校になったというのが「問題行動等調査」で、「先生が怖いから」、「いじめがあるから」、「勉強が分からないから」不登校になったというのがその他の調査です。

「問題行動等調査」は文科省の不登校対策の基になっている調査ですので、この違い(乖離)は気がかりです。この点については、第3章で考えたいと思います。



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