やぎの宇宙ブログ

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はやぶさ回収サンプルの研究成果~サイエンス誌アブストラクト翻訳

2011-08-27 03:20:04 | はやぶさ関連
探査機はやぶさが小惑星イトカワから持ち帰ったサンプルの分析結果が、米科学雑誌Scienceに掲載されました。
今週号ははやぶさ特集です!
成果は6本の論文にまとめられています。
当サイトでは詳しく内容を解説していこうと思いますが、まずは論文のアブストラクトを翻訳してみました。
不適切な表現があるかもしれないので、原文を確認して下さい。

2005年11月に2度のタッチダウンを成功させ、イトカワの地表の粒子を採取することに成功したはやぶさは、数々の困難を乗り越えて、2010年6月13日に地球に帰還し、回収されたカプセルからイトカワ由来の粒子が数多く発見されました。
分析はまだまだ今後も続けられています。
思えば、サンプルの詳細な分析結果が発表されたのは今年3月10日のことでした。
東日本大震災はサンプルの分析にも少なからず影響を与えましたが、研究者の方々の努力により多くの画期的成果が論文にまとめられました。

今回6本の論文が発表されたわけですが、主な内容を自分なりにまとめてみました。
(1)S型小惑星であるイトカワの粒子は、普通コンドライト、特にLLコンドライトの特徴と一致していた
(2)イトカワは、大型の小惑星が破壊されてできた破片が再び集まってできた天体であった
(3)イトカワの粒子の金属組成は、太陽系が誕生した頃の歴史をとどめていた
(4)イトカワの粒子の表面に、宇宙風化作用を受けた証拠が発見された
(5)イトカワ表層物質は、少しずつ宇宙空間へと失われつつあることがわかった
それではアブストラクト翻訳です。


小惑星イトカワの微粒子:S型小惑星と普通コンドライト隕石を直接結び付ける物的証拠
中村智樹(東北大)他

探査機はやぶさは、地球近傍小惑星(25143)イトカワの表面から塵の粒子を回収し、持ち帰ることに成功した。シンクロトロン放射X線回析と透過型・走査型電子顕微鏡解析によって、イトカワの塵粒子の鉱物組成と化学組成が、熱変成を受けたLLコンドライトの特徴と一致することが明らかになった。我々の分析結果は、地球上で発見される最もありふれた隕石である普通コンドライトが、S型小惑星由来であることを直接証明するものである。化学組成の分析によって、レゴリス表面の粒子の大部分が長期間の熱アニーリングとその後の衝突ショックを受けていることが分かった。このことは、かつて存在したより大型の小惑星が破壊され、その内側部分を構成していた破片が再び集まって、現在のイトカワが形成されたことを示唆している。

http://www.sciencemag.org/content/333/6046/1113.abstract



はやぶさミッションでイトカワから持ち帰った小惑星の物質の酸素同位体組成
圦本尚義(北海道大)他

これまでの隕石の研究によって、太陽系内の天体の酸素同位体組成は天体ごとに異なることが分かっている。最も原始的な隕石であるコンドライトの起源は小惑星であると考えられてきたが、これまで小惑星自体の酸素同位体組成は正確には分かっていなかった。我々は、探査機はやぶさが小惑星(25143)イトカワから持ち帰った岩石粒子を二次イオン質量分析計を使って調べ、酸素同位体組成を明らかにした。粒子の組成は地球上の物質に比べて酸素16に乏しく、このことはイトカワを含むS型小惑星が、LL及びLグループの平衡普通コンドライトの起源であることを示している。今回の酸素同位体組成の分析結果は、コンドライトと母天体である小惑星とを直接結び付けるものである。

http://www.sciencemag.org/content/333/6046/1116.abstract



小惑星イトカワから回収された粒子の中性子放射化分析
海老原充(首都大東京)他

探査機はやぶさが持ち帰った粒子の一つ(重さ約3μg)の中性子放射化分析を行った。この粒子は主にかんらん石から成り、少量の斜長石やトロイライト、金属を含んでいる。我々の分析の結果、イトカワのサンプルの化学的性質(鉄/スカンジウム比とニッケル/コバルト比)はコンドライトに似ており、この粒子が地球外の天体由来のもので、原始的な化学組成を示すことが確認された。イトカワのサンプルに含まれる金属における、イリジウム/ニッケル比やイリジウム/コバルト比は、CI炭素質コンドライトと比べると5分の1程度であった。このようなイリジウムに乏しい組成は、普通コンドライトのコンドリュール金属の組成と似ている。これらの金属は、かつて星雲の中で濃縮・分離された難揮発性親鉄性元素が、さらに濃縮されたものだと考えられる。

http://www.sciencemag.org/content/333/6046/1119.abstract



イトカワ微粒子の表面に見られる初期の宇宙風化作用
土山 明(大阪大)他

最もありふれた隕石である普通コンドライトの反射スペクトルと、豊富に存在するS型小惑星(Sはsliceousにちなむ)の反射スペクトルとは異なっている。このような違いは宇宙風化作用によって生じると考えられている。宇宙風化作用とは、空気を持たない天体の表面が宇宙環境にさらされることによって起こる変化である。我々は、探査機はやぶさによって持ち帰られたS型小惑星(25143)イトカワの粒子が、宇宙風化作用を受けていたことを報告する。表面の変化は10個中5個の粒子で見つかっており、この違いは鉱物組成に依存する。硫黄を含み鉄に富むナノ粒子は、かんらん石や低Ca輝石、斜長石の表層(5~15nm)に存在し、蒸着したものと思われる。一方、硫黄を含まない鉄に富むナノ粒子は、鉄マグネシウムケイ酸塩の深い部分(60nm未満)に存在し、メタミクト化やFe2+の還元によって形成されると思われる。

http://www.sciencemag.org/content/333/6046/1121.abstract



はやぶさサンプルの3次元構造:イトカワ表面のレゴリスの起源と進化
野口高明(茨城大)他

はやぶさミッションによって、小惑星イトカワ表面のレゴリス粒子が発見された。X線マイクロトモグラフィを使って3次元構造やその他の特徴が明らかになり、レゴリスの形成過程を知る手がかりが得られた。鉱物組成や、高い密度(3.4g/cm3)、そして粒子の3次元構造は、粒子が平衡及び非平衡LLコンドライトの混合物であることを示していた。融解したことを示す証拠は何れの粒子でも得られなかった。いくつかの粒子は縁が丸みを帯びていた。全体として、粒子のサイズや形状は、月のレゴリス粒子とは異なっていた。レゴリス粒子は小惑星表面で隕石衝突によって形成され、その後平坦な地域で地震によって粒子が動かされて徐々に摩耗していったと考えられる。

http://www.sciencemag.org/content/333/6046/1125.abstract



ハヤブサ試料の希ガスからわかった、イトカワ表層物質の太陽風および宇宙線照射の歴史
長尾敬介(東京大)他

小惑星イトカワから回収された3個の岩石質粒子の希ガス同位体分析により、地表における宇宙線及び太陽風の照射の歴史が明らかになった。粒子内部の様々な場所に閉じ込められていた、太陽風由来のヘリウムやネオン、アルゴンが分析された。分析結果は、太陽風の照射によって粒子内部に入り込み、その後さらに宇宙風化作用を受けた粒子の縁の摩擦摩耗によってヘリウムが優先的に失われたという過程を示していた。宇宙線によって生成されるネオン21に基づいて推定すると、滞留時間は800万年未満と考えられる。我々の研究結果は、イトカワ表層物質が、百万年間で数十cmずつ宇宙空間へ失われていることを示している。イトカワの寿命は、太陽系の年齢よりもずっと短いに違いない。

http://www.sciencemag.org/content/333/6046/1128.abstract



尚、JAXAからも論文の要旨が解説されています。
こちらはアブストラクトそのままの翻訳ではないので参考にしてみて下さい。
http://www.jaxa.jp/press/2011/08/20110826_hayabusa_j.html

また、以前当サイトで特集した3月の月惑星科学会議の内容についてはこちらをご覧ください。
はやぶさ粒子分析結果を発表予定~アブストラクト全日本語訳
まもなく「はやぶさ」特別セッション!~タイトル&概要の日本語訳


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