旅人・山下景秋
モナコ付近で宿探しが難航した。それでもあきらめず、ニース付近まで戻って探した結果、Villefranche-sur-Merという場所の道沿いの3つ星ホテルが見つかった。
ホテル「La Flore」。218ユーロ、朝食を入れて230ユーロだ。
部屋は広い。しかも眺めは抜群だ。部屋の2面には大きな窓があり、地中海の入り江がゆるやかに下の方に望める。対岸の丘には別荘が点在しており、入り江には大きな白いヨットが停泊している。
何しろこの景色は、午前中にモナコに行くとき、突然眼前に広がり、驚嘆した景色だ。
入り江の青緑色の海には大きな白いヨットが数艘浮かんでいる。入り江を囲む緑の傾斜地には世界のブルジョワの別荘群。入り江の背後の急な崖の先端は白い岩肌だ。
あくまでも突き抜けた青い空。そして静かな地中海。
このVillefranche-sur-Merという場所は、コートダジュールの中でも際立つ高級別荘地だ。
詩人・作家のジャン・コクトーや、作家のオルダス・ハックスリー、サマセット・モームの自宅があった。また、歌手のティナ・ターナーやザ・ローリング・ストーンズのキース・リチャードの自宅があり、有名な富豪ロスチャイルド家の豪華な別荘もある。
映画『めぐり逢い』のロケ地にもなった風光明媚な場所だ。(アランドロンが最も美しい姿で登場した映画『太陽がいっぱい』で、彼が白いヨットを操縦するその青い海は、地中海に面した南仏のコートダジュールだと思い込んでいたが、実際はナポリの沖合の島々だった)
とんだブルジョワの街に紛れ込んでしまったものだ。身分不相応だが、たまにはブルジョワの住人の雰囲気を感じるのもいい経験だろう。
夜は、くねった坂を海岸まで下り、入り江に面したカフェで食べることにした。
路上の座席には小さなランタンが手元と顔を照らしている。
ギャルソンにお勧めを聞いた。
最初に出てきた魚のスープは味が濃厚でとてもおいしい。次に出てきた地元で取れた魚は弾力があって、これもおいしい。
9個の生牡蠣を注文した。殻が厚いカキだ。これもうまかった。
背後にはシャンソンの生演奏。路上では体操の床運動よろしく飛び跳ねるパフォーマンス。
別荘のブルジョワと観光客がカフェのお客だ。カフェの支配人は重厚な声で問いかける、おいしいかと。もちろんトレボンだ。
これが地中海、コートダジュール最後の夜だった。
ホテルに戻り、白いテラスで猫とじゃれる。
テラスの左下には、薄い青色のホテルの小さなプール。
眼前には、入り江が闇の中に沈む。白いヨットが薄くその姿を見せている。
対岸には別荘の明かり、入り江にはその明かりが映る。右手には灯台が夜のしじまに光を送る。
夜の星たちは、この入り江の明かりの周りを回るだろう。
私がいつかこの世界から消えても、この風景は続くだろう。
白い椅子の上に体を丸めた猫は、そんなことはおかまいなしに眠るだけ。
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