「更衣室〇番のロッカーで着替え、〇番のベッドでお待ちください」
スマホで通知が来たのでいよいよ更衣室に入り準備をします。ナプキンつきショーツ以外の荷物をすべてロッカーにいれ、衛生キャップを被ります。今日はスカートなので着替えの必要もなし。ただ下着はここで脱いでおきます。
更衣室の全身鏡にうつるこのキャップを被った姿のクマ子といったら・・・。前髪もすべてキャップにいれるので、おでこの狭さと一重の細めがクローズアップされて・・・。平安時代ならさぞかし美人だったでしょうに。
更衣室からベッドルームは中の扉でつながっていて、とにかく清潔できれい。各ベッドに間仕切りカーテンがついているので、プライバシーはしっかり確保されているので、なんとなく安心なんですよね。指定された番号のベッドに座っていると看護師さんが呼びにきてくれます。
名前を伝えると「さあ、いきましょう」と看護師さんが手術室まで案内してくれます。
ああ、いよいよ・・・。ここからは看護師さんも先生も胚培養士さんもドラマの手術シーンで見るような恰好をしているので、心臓が高鳴ります。
手術室にはいると看護師さん、担当の先生、胚培養士さん、全員に名前の確認をされます。徹底されているんですよ、本人確認が。これが面倒だと思う人もいるかも思いますが、クマ子はこれぐらいしてもらえる方が良いと思います。もし他人の卵を移植されるなんてことがあっては絶対いけませんから。
誰かが本人確認したからもういいだろう、という安直な考えでなくて一人一人が責任を持って患者の氏名を確認する―さすがです。
施術台に乗ると台が上がり、フラットになります。天井には内診室同様モニターが付いていて、移植の様子を見ることができるようになっているんです。
先生がまずエコーで子宮内を確認して、問題がなければ移植スタート。前回は全員女性看護師だったのですが、今回一番傍にいてくださるのは男性看護師!!おまたを見られるなんてなんかこっぱずかしい・・・。
「ではクマ子さん、少しお腹を押しますね」
クマ子が一人で勝手に照れていると、男性看護師さんがお腹をそっとおします。おしっこを我慢し続けたクマ子の膀胱は破裂寸前。押されるともう漏れちゃう・・・・!!早く終わってくれ~!!
気をそらそうとモニターを見るとクマ子の子宮に管が通っています。そして、先ほどコーディネーターさんが説明してくれた、クマ子の卵が2つ、、。
「クマ子さんの胚を移植します」
胚培養士さんの声がスピーカー越しに聞こえます。いよいよだ・・・。
クマ子の右隣には男性看護師さん、左側には女性看護師さんが座って一緒にモニターを見つめます。そしてここでも説明してくれるんですよ。
「クマ子さん、あそこみていてください。今から卵2個がはいっていきますから。今、通っています、見えますか?」
はい。
はい見えます。
なんて神秘的な瞬間なんだろう。肉眼で見えないような、こんな小さな細胞が、いずれは人の命となり、人となるなんて・・・。
前回もそうですが、今回もやはり涙がでそうになります。あまりにも生命が尊くて。
あなた達はどちらか私を母親に選んでくれるのかしら。
私はいつでも大歓迎。
いつだってあなたの誕生を心待ちにしているの。
私の子宮の居心地はどう?
ずっと冷やさないように、夏も冬もずっと温めていた子宮なの。
どうか、安心してここにいてね。
どうか、私をお母さんにしてね。
どうか、どうかお願い。