2度目の体外受精の結果を受けて、こんなにも悲しくてやるせない気持ちになるのか、と身をもってその辛さを味わっているクマ子です。妊娠判定日の翌日、夫を見送ってからクマ子はある人にメッセージをおくりました。
その人はクマ子のかつての同僚であり、今でも尊敬している先輩。15年前から海外の某企業にヘッドハンティングされ、そのままそこで結婚、長年日本には帰っていない超パワフルな女性です。
彼女は現在一児の母。それも今のクマ子の同じように海外で不妊治療を受けながらもバリバリ働き続けてた生粋のキャリアウーマンです。仕事ぶりは上司も彼女を一目置くほどで、目的を定めたら何が何でもそれを達成するという、ガッツの持ち主。常にポジティブな先輩の声をクマ子は無性にききたくなりました。
ほどなくしてメッセージがかえってきました。「Will call you later」
それから先輩から電話がかかってきたときの、安堵感といったら。自分がこんなにもいっぱいいっぱいになってるなんて。
「Hi,クマ子。何かあったの?もしかしてベイビーできた??」
ああ、先輩だ。相変わらずはきはきとした物言いにまた涙がでてしまう。
そして一気に話始めると、先輩はうんうんと話を聞いてくれました。一通り話を聞いた後、先輩は自分の体験談を話してくれました。海外で人工授精、体外受精をしてなかなか授からなかった先輩は、妊娠に良いと言われることはすべてしたそう。鍼にも通ったし糖質制限もしたし、マカを始めいろんなサプリを飲んだ、と。
「それでも授からなかったのよ。スーパーにいったらジャンクフードばっか食べてそうな女の人が何人も子供連れて買い物してるじゃない?見るたびになんであんな食生活なのにポンポン子供が産まれるのよ、私はこんなに頑張ってるのに、とかしょっちゅう思ってたわけ」
メンタルが鋼のように強靭な先輩でも、やっぱりそんなこと思ってたたんだ・・・・
「でもね、クマ子。Never give up。keep doingよ。続けるの。今あんたができることは諦めないこと。辛いのはわかる。でも今治療やめたら望みもなくなる。続けているうちは少なくとも可能性はある」
でも、もう辛くて苦しくて・・・。気持ちがおれてしまったことを伝えると
「子ども欲しいんでしょ?なら諦めがつくまで辛くても続けること。どんなことでも途中でやめてしまったらそれまでなのよ。仕事でもなんでも結果が出せる人は続ける努力を怠らなかった人。それにどんなに今辛くても、妊娠した時のあの喜びはそれまでの辛さなんか一瞬で吹き飛ぶから。」
「あと、変に『子どもができても着られるような服』とか選んじゃだめ。そんな期待を込めて生活しちゃだめ。今妊娠してないなら妊娠してないことを思いっきり楽しむの。もうすぐクリスマスでしょ、とびきりおしゃれなタイトドレス買って、メイクして出かけな。子供できたらおしゃれはぜんぜんできなくなるから、今のうちにヒールとドレスをenjoyするのよ。」
先輩は移植したあと、服を選ぶのに「もし妊娠しても着られるような服」を基準にしていたそう。だから残念な結果になるたび、むなしくなったんだとか。
「じゃあ、またね。いつでも電話してきなよ。See you」
そして切れた電話。
電話のあと、クマ子の気持ちはすっと軽くなった。
先輩の言う通りだ。今私ができることは諦めないこと。続けること。そしておしゃれを今のうちに楽しむこと。
一緒に働いている時から先輩の背中を追っていた。この人のように仕事がしたい、この人のようになりたい、と。目標を立てたらそれにむかってまっしぐら。先輩は仕事だけでなくて不妊治療でもそのパワーを発揮していたんだなあ。いつになっても追いつき追い越せる気がしない。
窓の外は曇り空。だけど雲の隙間から青空が顔をのぞかせている。
私の心も青空が見え始めた。