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バレノス山脈の峰。かつて、私はそこに棲んでいる巨大ヒグマから、命からがら逃げ帰ったことがある。あの時は本当になすすべもないまま私の体力だけが消耗していき、ヒグマの目はいよいよ輝きを増していたように記憶している。
久しぶりにクロン城を見て回った私は、いつかは、と考えていたヒグマへの挑戦を実行に移した。
ゴブリンの石壁画から山に入り、ひたすら登り続け、そうして奴はいた。
他の生き物など、大型のエルクぐらいなものだった。それも、ヒグマの周りを避けているように、ぐるりと一定距離を保っていた。
私の殺気が以前と違うことに気づいたのだろうか、いきなり飛びかかってこようとはせず、むしろ気づいてないふりをしているように見える。
だが、奴の目は油断なく私の姿を捉えてるようだった。
私が軽く剣を振った。奴に掠るか掠らないか、威嚇のつもりだった。その瞬間、奴は文字通り獣の咆吼を上げ、猛然と私に向かってきた。
切って蹴って躱してぶつかって躱して突いていなして。その繰り返しだった。いくら私が英雄と評されても、それは自然の力の前にはあまり意味をなさないことだった。
そこらの魔物よりも、圧倒的に強い。
それでも、ヒグマの息づかいに乱れが生じ始めたのに気づくぐらいには、私の力も上がっているのだ。前の時はこんなことにすら気づかなかったというのに。
私も少なからず傷を負った。しかし目の前のヒグマは、毛が奴の血でぬらりと暗く光っていた。どちらの血で濡れたかもわからないが、地面に足をとられたこともあった。
奴の爪が私の顔を薙ぐ。とっさに身をひき体を回転させ、剣を下から上へ跳ね上げた。頬にピリッとした痛みと血がじわりと浮き出てくるのを感じ、そこで、私は自分が笑っていることに気づいた。
嬉しかった。ひりついた命のやりとりだけがそこにあった。過去にかなわなかった相手に、自分の実力だけで対等に相対すことができているのだ。奴に、私が、生存をかけられるほどの敵なのだと、思わせたのだ。
奴が吠える、その迫力はしかし、最初の咆吼には及びもつかくなっていた。
そして剣を振り抜いた瞬間、終わった、と感じた。それまで感じていた抵抗が、消えたのだ。ドスンと重い響きに振り返ると、奴の体は草むらに倒れ、最期まで鋭かった目から火が消えていった。
しばらくそのままじっとしていた。血を拭った剣をしまい、空を見上げた。
あのときと変わらず、青い空が硬い風を抱いていた。ひとしきり髪がもてあそばれるのを感じたあと、奴の骸を一瞥し、私は山を下りた。
一抹の寂しさが、胸の内側を、撫でた。
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はい、黒い砂漠日記です。
リベンジ回です。丸半年たって、ここまで来ることができました。こっちのレベルが上がったとは言え、カーマスリビアの黒豹もそうですが、やはり野生の動物は強いです。
これとは全く関係ないですが、なぜかベリア村周辺の探索拠点接続が切れていまして、拠点の登録からやり直してたら、元々少なかった貢献度が0近くまで落ち込みまして、ちょっとどうしようか途方に暮れています…(´・ω・`)
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