救急車が病院に到着した。男子高校生のためにストレッチャーが用意されたが、彼にそれは不要だった。ま、最終的にはそれに乗せられ病院に入って行ったが。
オレも彼に続いて病院の中に入ろうとしたが、そのときふいに背後から声がかかった。
「あなた、なんてことしてくれたの?」
振り返ると、そこには最初に出会った死神が立っていた。
「おいおい、地球の裏側まで飛んでったんじゃないのか?」
「あんなインチキな呪文で私を飛ばせると思うの? 飛んで行ったとしても、せいぜい5キロメートルよ!」
なんだよ、やっぱちゃんとした呪文じゃないといけないのかよ・・・
「それより、あなた、自分が今何やったのか、わかってんの? 私、言ったよね。枕元に死神が立っていたらおしまいだって!」
「それがなんだってゆーんだよ? おまえこそ、ウソ言ったんじゃないのか? 死神が枕元に立ってても、呪文を唱えたら、死神は消えちまったじゃんか!」
「それがいけないのよ! あなたが呪文を唱えたせいで、あなたの命とあの子の命が入れ替わったの!」
ええっ? てことは・・・
「いい、あなたの命はあと30分よ、あと30分もすればあなたはきれいさっぱり死ぬの!」
オレはその言葉を聞いてクラっときた。オレの命があと30分だなんて、ほ、ほんとうかよ・・・
「オ、オレ、まだ死にたくないよ。どうすりゃいいんだよ・・・」
「知らないわよ。すべてはノートを返さなかったあなたの自業自得よ!
あなた、勘違いしてるみたいだけど、ノートは一回触れただけで一生死神を見ることができたし、魔法の呪文も一生使えたし! 別にノートがなくったって、全部できたの!」
そ、そんな秘密の設定があったなんて・・・
「な、なんだよ、それ? ふざけんなよ! あんたがあのとき説明しなかったからいけないんだろ! なんとかしろよ!」
「説明しようにも、あなた、あのとき、私を地球の裏側へ飛ばしちゃったじゃん!」
そうだ。あのときオレは、こいつを地球の裏側に飛ばしちまったんだ。な、なんとかしないと・・・ そうだ、ノートだ! オレはカバンからノートを取り出し、かわいい死神に突き付けた。
「これ、返すからさぁ、オレの命、助けてくれよ!」
「バカ、今更何やったって遅いわよ!」
な、なんだとーっ! オレは両手でノートを引きちぎるポーズを見せてやった。
「じゃ、このノート、破ってやるよ!」
「ちょ、ちよっと待って!」
さすがにこの行為は死神を慌てさせたようだ。
「わ、わかった。来て」
死神は振り返ると、歩き始めた。オレはそのあとを追いかけることにした。
歩いた距離は300メートルくらいか。かわいい死神はひとけがまったくない雑居ビルの前に立った。このビルにいったい何があるんだ?
死神は裏木戸のようなアルミのドアを開けた。中には地下に伸びる階段があった。死神は振り返り、オレの眼を見た。一緒に階段を降りろと言ってるようだ。死神は階段を降り、オレは彼女に続いた。
階段の周りはコンクリートで覆われていた、はずだった。あるところからゴツゴツとした岩肌に変わったのだ。ほんの一瞬の出来事だった。まるで海岸にある洞窟みたいな感じ。振り返ると、真後ろもずーっとゴツゴツとした岩肌だった。今降りてきたコンクリート製の階段は完全に消えていたのだ。
下には無数のろうそくが輝いていた。ここは黄泉の国か? さすが死神、雑居ビルの地下室と黄泉の国をつなげやがったよ。
オレと死神は地下の平らなところに到達した。見るとろうそくの長さは大小バラバラだった。中にはオレの背丈と同じくらいのろうそくもあったし、もう少しで燃え尽きそうなろうそくもあった。ろうそくは太さもバラバラで、直径20cmくらいのものもあれば、3cmくらいのもあった。オレは直感でわかった。このろうそく1本1本は、人の命そのものなんだと。
死神はここでようやく口を開いた。
「このろうそく、なんだかわかるよね?」
「人の命だろ?」
死神はニヤっと笑った。ああ、じれったいなあ。
「おい、オレのろうそくはどれだよ?」
死神は再びニコっとして、そしてしゃがんだ。ヤツの目の前にはもう燃え尽きそうなろうそくがあった。
「これよ。おやおや、想像以上に燃えてるじゃん。燃え尽きるまであと5分ってところかな?」
ご、5分って・・・ しかし、こいつ、心底笑ってやがるなあ。むかつく・・・
「おい、代わりのろうそくはないのかよ?」
と、死神はいつの間にか1本のろうそくを握っており、それをオレに見せた。長さ60cm、太さ10cmくらいのろうそくだ。
「新品はあげられないけど、これくらいならいいかな」
「よこせ!」
オレはそのろうそくを奪い取るように受け取ると、燃え尽きそうになってるろうそくの火をそれに移した。と同時に古いろうそくは燃え尽きた。ふーっ、助かったあ!
「私ねぇ、やっぱ人間に格下げだって。さっき連絡があったんだ。あと3時間もすれば、私はもう人間よ」
死神がぽつりと言った。オレは自分の命が助かった安心感で、その言葉にはあまり興味を持てなかった。が、続く言葉、いや、脅迫には反応してしまった。
「人間になったらあなたに憑りついてやるからね! 100年憑りついてやる! あなたの一生をぐちゃぐちゃにしてやるから!」
こりゃあ完全に怒ってるな。オレは何か言い返そうと思ったが、いい言葉がみつからなかった。と、ここで死神は急に声色を変えた。
「ところでさあ、ここ、どこだかわかる?」
「え?、ここは命のろうそくが・・・」
「あははははは、バカねぇ! 地球には今70億を超える人口があるのよ。ここにあるろうそくって何本だと思ってんの? 命のろうそくなんて真っ赤なウソよ!」
おいおい、こいつ、オレを騙してたのかよ。
「ねぇねぇ、あなたが今握ってるもの、なんだと思う?」
オレは自分が握っているろうそくを見た。これ、どう見てもろうそくなのだが・・・
「それ、ダイナマイトよ。もう爆発するんじゃないかな」
ええっ?
「バイバイ」
と言うと、死神はふっと消えてしまった。冗談じゃねーよ! オレはろうそくを投げ捨て、それとは真逆の方向に走り出した。が、遅かった。ピカっと光って、強烈な熱風が背後からオレの肉体を襲ってきた。ものすごい衝撃。身体が引きちぎられる感覚。無念。オレは爆死したようだ・・・
ジリジリジリジリ~ 目覚まし時計が鳴った。オレは手を伸ばして目覚まし時計を止めた。夢か。ああ、なんてリアルな夢だったんだ・・・ ち、まだ眠いや。あと5分。オレは再び布団を被った。
トントントントントン。誰かがまな板で何かを切ってる音だ。いい音だ。いや、ちょっと待て。ここはオレしかいない部屋だろ? なんなんだよ、この音?
オレが今いるアパートの部屋は、外からドアを開けるとすぐに小さなDKがある。さらにその奥が、今オレが布団を被ってる部屋だ。今誰かがシステムキッチンで朝食を作ってるようだ。誰だよ、いったい?
オレは起き上がり、目の前の引き戸を開けた。そこには小学生と思われる女の子がいて、食事を作っていた。女の子がオレを見た。
「あ、お兄ちゃん、おはよう!」
ええ、お兄ちゃんって? オレ、一人っ子だぞ。誰だよ、こいつ?
が、その顔には見覚えがあった。服装はふつーの小学生だが、印象深いボブヘア。こ、こいつ、死神じゃんか! 夢の中に出てきた死神だよ! あれは夢じゃなかったのかよ?
「お兄ちゃん、もう起きて。学校遅れるよ」
死神はニコっと笑った。本来ならかわいい微笑みなんだろうけど、オレからしてみりゃ、超薄気味悪い笑いだ。
こいつ、本当にオレに憑りつきやがった。オレ、こんなやつと一緒に暮らすのか? 最低だ、なんて最低なんだ・・・ くっそーっ・・・
オレも彼に続いて病院の中に入ろうとしたが、そのときふいに背後から声がかかった。
「あなた、なんてことしてくれたの?」
振り返ると、そこには最初に出会った死神が立っていた。
「おいおい、地球の裏側まで飛んでったんじゃないのか?」
「あんなインチキな呪文で私を飛ばせると思うの? 飛んで行ったとしても、せいぜい5キロメートルよ!」
なんだよ、やっぱちゃんとした呪文じゃないといけないのかよ・・・
「それより、あなた、自分が今何やったのか、わかってんの? 私、言ったよね。枕元に死神が立っていたらおしまいだって!」
「それがなんだってゆーんだよ? おまえこそ、ウソ言ったんじゃないのか? 死神が枕元に立ってても、呪文を唱えたら、死神は消えちまったじゃんか!」
「それがいけないのよ! あなたが呪文を唱えたせいで、あなたの命とあの子の命が入れ替わったの!」
ええっ? てことは・・・
「いい、あなたの命はあと30分よ、あと30分もすればあなたはきれいさっぱり死ぬの!」
オレはその言葉を聞いてクラっときた。オレの命があと30分だなんて、ほ、ほんとうかよ・・・
「オ、オレ、まだ死にたくないよ。どうすりゃいいんだよ・・・」
「知らないわよ。すべてはノートを返さなかったあなたの自業自得よ!
あなた、勘違いしてるみたいだけど、ノートは一回触れただけで一生死神を見ることができたし、魔法の呪文も一生使えたし! 別にノートがなくったって、全部できたの!」
そ、そんな秘密の設定があったなんて・・・
「な、なんだよ、それ? ふざけんなよ! あんたがあのとき説明しなかったからいけないんだろ! なんとかしろよ!」
「説明しようにも、あなた、あのとき、私を地球の裏側へ飛ばしちゃったじゃん!」
そうだ。あのときオレは、こいつを地球の裏側に飛ばしちまったんだ。な、なんとかしないと・・・ そうだ、ノートだ! オレはカバンからノートを取り出し、かわいい死神に突き付けた。
「これ、返すからさぁ、オレの命、助けてくれよ!」
「バカ、今更何やったって遅いわよ!」
な、なんだとーっ! オレは両手でノートを引きちぎるポーズを見せてやった。
「じゃ、このノート、破ってやるよ!」
「ちょ、ちよっと待って!」
さすがにこの行為は死神を慌てさせたようだ。
「わ、わかった。来て」
死神は振り返ると、歩き始めた。オレはそのあとを追いかけることにした。
歩いた距離は300メートルくらいか。かわいい死神はひとけがまったくない雑居ビルの前に立った。このビルにいったい何があるんだ?
死神は裏木戸のようなアルミのドアを開けた。中には地下に伸びる階段があった。死神は振り返り、オレの眼を見た。一緒に階段を降りろと言ってるようだ。死神は階段を降り、オレは彼女に続いた。
階段の周りはコンクリートで覆われていた、はずだった。あるところからゴツゴツとした岩肌に変わったのだ。ほんの一瞬の出来事だった。まるで海岸にある洞窟みたいな感じ。振り返ると、真後ろもずーっとゴツゴツとした岩肌だった。今降りてきたコンクリート製の階段は完全に消えていたのだ。
下には無数のろうそくが輝いていた。ここは黄泉の国か? さすが死神、雑居ビルの地下室と黄泉の国をつなげやがったよ。
オレと死神は地下の平らなところに到達した。見るとろうそくの長さは大小バラバラだった。中にはオレの背丈と同じくらいのろうそくもあったし、もう少しで燃え尽きそうなろうそくもあった。ろうそくは太さもバラバラで、直径20cmくらいのものもあれば、3cmくらいのもあった。オレは直感でわかった。このろうそく1本1本は、人の命そのものなんだと。
死神はここでようやく口を開いた。
「このろうそく、なんだかわかるよね?」
「人の命だろ?」
死神はニヤっと笑った。ああ、じれったいなあ。
「おい、オレのろうそくはどれだよ?」
死神は再びニコっとして、そしてしゃがんだ。ヤツの目の前にはもう燃え尽きそうなろうそくがあった。
「これよ。おやおや、想像以上に燃えてるじゃん。燃え尽きるまであと5分ってところかな?」
ご、5分って・・・ しかし、こいつ、心底笑ってやがるなあ。むかつく・・・
「おい、代わりのろうそくはないのかよ?」
と、死神はいつの間にか1本のろうそくを握っており、それをオレに見せた。長さ60cm、太さ10cmくらいのろうそくだ。
「新品はあげられないけど、これくらいならいいかな」
「よこせ!」
オレはそのろうそくを奪い取るように受け取ると、燃え尽きそうになってるろうそくの火をそれに移した。と同時に古いろうそくは燃え尽きた。ふーっ、助かったあ!
「私ねぇ、やっぱ人間に格下げだって。さっき連絡があったんだ。あと3時間もすれば、私はもう人間よ」
死神がぽつりと言った。オレは自分の命が助かった安心感で、その言葉にはあまり興味を持てなかった。が、続く言葉、いや、脅迫には反応してしまった。
「人間になったらあなたに憑りついてやるからね! 100年憑りついてやる! あなたの一生をぐちゃぐちゃにしてやるから!」
こりゃあ完全に怒ってるな。オレは何か言い返そうと思ったが、いい言葉がみつからなかった。と、ここで死神は急に声色を変えた。
「ところでさあ、ここ、どこだかわかる?」
「え?、ここは命のろうそくが・・・」
「あははははは、バカねぇ! 地球には今70億を超える人口があるのよ。ここにあるろうそくって何本だと思ってんの? 命のろうそくなんて真っ赤なウソよ!」
おいおい、こいつ、オレを騙してたのかよ。
「ねぇねぇ、あなたが今握ってるもの、なんだと思う?」
オレは自分が握っているろうそくを見た。これ、どう見てもろうそくなのだが・・・
「それ、ダイナマイトよ。もう爆発するんじゃないかな」
ええっ?
「バイバイ」
と言うと、死神はふっと消えてしまった。冗談じゃねーよ! オレはろうそくを投げ捨て、それとは真逆の方向に走り出した。が、遅かった。ピカっと光って、強烈な熱風が背後からオレの肉体を襲ってきた。ものすごい衝撃。身体が引きちぎられる感覚。無念。オレは爆死したようだ・・・
ジリジリジリジリ~ 目覚まし時計が鳴った。オレは手を伸ばして目覚まし時計を止めた。夢か。ああ、なんてリアルな夢だったんだ・・・ ち、まだ眠いや。あと5分。オレは再び布団を被った。
トントントントントン。誰かがまな板で何かを切ってる音だ。いい音だ。いや、ちょっと待て。ここはオレしかいない部屋だろ? なんなんだよ、この音?
オレが今いるアパートの部屋は、外からドアを開けるとすぐに小さなDKがある。さらにその奥が、今オレが布団を被ってる部屋だ。今誰かがシステムキッチンで朝食を作ってるようだ。誰だよ、いったい?
オレは起き上がり、目の前の引き戸を開けた。そこには小学生と思われる女の子がいて、食事を作っていた。女の子がオレを見た。
「あ、お兄ちゃん、おはよう!」
ええ、お兄ちゃんって? オレ、一人っ子だぞ。誰だよ、こいつ?
が、その顔には見覚えがあった。服装はふつーの小学生だが、印象深いボブヘア。こ、こいつ、死神じゃんか! 夢の中に出てきた死神だよ! あれは夢じゃなかったのかよ?
「お兄ちゃん、もう起きて。学校遅れるよ」
死神はニコっと笑った。本来ならかわいい微笑みなんだろうけど、オレからしてみりゃ、超薄気味悪い笑いだ。
こいつ、本当にオレに憑りつきやがった。オレ、こんなやつと一緒に暮らすのか? 最低だ、なんて最低なんだ・・・ くっそーっ・・・