龍之介が芭蕉研究家でかつ「人間・芭蕉」に惚れ込んだ“俳句愛好者”だったことはよく分かった。が、彼自身の句作はどうだったんだろ。知りたくなった。彼は短い生涯に600句余りを遺したという。うち自選77句を「澄江堂句集」に収めたという。あいにく手元にないので、山本健吉著「現代俳句」から検索した。
蝶の舌ゼンマイに似る暑さかな
青蛙おのれもペンキ塗りたてか
苔づける百日紅や秋どなり
「発句は十七音を原則とし」「発句に季題は無用」だが「詩語はけっして無用ではない」「発句も既に詩であればおのずから調べを要する」という、自説通りの句作。諧謔性あり。現代的感覚。「蝶の舌」。舌をまく表現や。彼は、俳句を平易な俗語で、目と耳に美しく、しかも万国共有の文芸として光をあてている。俳句も短詩として国際化しつつある。
龍之介の師匠夏目漱石も正岡子規に触発されて俳句を2600句遺したという。
寝てくらす人もありけり夢の世に
秋風や坂を上れば山見ゆる
野分して蟷螂と窓に吹き入るる
暗喩もある。しかし平易に詠んでいる。ぼくはなかなか開眼できないが、気取らず愚直に「生涯の道の草」として俳句を楽しむこととしよう。
出窓より静かに曲の流星群 愚句
暗闇に楠重く初嵐 同
秋の蚊の幼き声や嵐の間 同