limited express NANKI-1号の独り言

折々の話題や国内外の出来事・自身の過去について、語り綴ります。
たまに、写真も掲載中。本日、天気晴朗ナレドモ波高シ

DB 外伝 マイちゃんの記憶 ②

2018年11月06日 14時11分18秒 | 日記
「〇ッシー、今日はどうだった?」朝食後に喫煙コーナーの“定位置”に腰を下ろすと、マイちゃんが真顔で聞く。「ああ、2日振りの開通だったよ」私が答えると「ずるーい!あたしもう4日も宿ったまま!何で出ないんだろう?!」彼女は地団駄を踏んだ。暫くすると、いつものメンバーが三々五々集まり始める。「ねえ、みんな今日は開通した?」マイちゃんが聞く。「ダメー!」「あたし、5日も宿ったまま!」「うんともすんとも言いっこなし!サイアクだわ!」女性陣は口々に言う。まあ、クスリの副作用の1つが“便秘”なのだからやむを得ない側面はあるが、何故、彼女達は“開通”出来ないのか?「寝る前にあれだけ下剤飲んでもダメか・・・、女性は男性に比べて腸が長いらしいから、余程の事をやらないと出ないのかなー?」私が言うと、マイちゃんは「余程の事って何?!」とタバコを吹かしながら鋭い視線を向ける。「まぁー・・・その、浣腸とか?!」私がしどろもどろに言うと「それは、最後の手段!〇ッシー、真面目に考えてよ!」マイちゃんが透かさず注文を付ける。

この手の「無茶振り」は、日常茶飯事だった。彼女達にして見れば“深刻かつ重大”な事象だからだ。これ以外にも「病棟医が言う事を聞いてくれない」とか「睡眠薬が効かない」とか「ご飯がマズイ」等々、色々な“問題”が持ち込まれたものだ。「お悩み相談所」まがいの事を日々こなしていると、段々と“個々の問題”も降って来る様になる。私は“医療行為”は出来ないが、話だけは聞く事が出来た。「話せるオッサン」として、マイちゃん達に珍重されてしまうのに左程の時間は掛からなかった。さて、今日の「お題」は“便秘解消”だ。これは、厄介な事になりそうだ。

「じゃあ、みんなどの位、水分補給をしているの?」私が問うと「大体、給茶機のお茶は熱すぎて飲みづらいから、売店で買ってくるペットボトル2本ぐらいかな?」と反応が返って来る。うーん、1ℓでは厳しい。最低でも2ℓ前後は必要だ。彼女達は、寝る前に下剤を服用していた。錠剤+液体で5滴前後。食事で摂取する水分を足しても、明らかに“水不足”だ。病棟に居る以上、原則運動は厳禁だから「腸を刺激する何か」を考えなくてはならない。季節は夏の終わり、だとすると「アイスにブラックコーヒーで、お腹を刺激してみますか?」と私は言った。「ケーキじゃダメな訳?」と言うので「牛乳由来のモノは、下剤を効かなくするから、氷とコーヒーで対抗するのさ」と答えた。「うーん、取り敢えず売店か。歩けばお腹も刺激されるし、冷たいモノを入れれば開通する可能性はゼロじゃないわね!〇ッシー、付き合ってくれるよね?!」マイちゃんが食いついて来た。「ああ、お供しますよ」と言うと「じゃあ、売店が開いたら早速行動開始!宿ったままを解消するためなら、アイスでもブラックコーヒーでも食べて、飲んでやろう!何としても追い出してやる!」マイちゃん達は力を込めて気勢を上げた。「でもさぁ、〇ッシー。水分摂らないと何で出ない訳?」マイちゃんが真顔で聞く。「大腸付近では水分を吸収しているから、固形物から水分が無くなれば、宿る原因にはなるよ。日に日に圧縮されて固くなれば、出にくくもなるさ。人は1日2~3ℓの水分を摂らないとダメみたいだよ」と私が答えると「〇ッシーは、そういう事をどこで調べてる訳?」と更に問い詰められる。「“家庭の医学”なんかを調べれば書いてありますよ。入院時にも説明されていませんか?」私がかわしにかかると「よく覚えてるね?!あたし、もう記憶の片隅にも無いわ。まあ、出入りが多いからしょうがないか・・・、それに、あたし活字が苦手だから“家庭の医学”なんて開いただけで寝ちゃいそう」マイちゃんが半ば笑って言った。こうして彼女達の“便秘解消”は改善方向へ向かった。

マイちゃんは、自身の事は殆ど語らずに居たが、ポツリポツリと言う時もあった。私がある日の午後“指定席”で自動車雑誌を読んでいた時「〇ッシーは、カメラ屋さんだったよね?あたし、一応は教員なの。マイ先生だよ!」と突然話始めた。「マイ先生の教える教科は?」私が問うと「英語。見えないでしょ!みんなに言われる!」と自慢げに言った。「じゃあ、休職中ってヤツ?」「うん、そういう訳。教え子達どうしてるかなー?」と言うと遠い目をしてタバコを吹かした。「近くの学校?」「結構、南の方。1人暮らししてたんだよ。クルマも持ってるし。でも、運転ヘタクソだったから、前と後ボコボコにしてしまった!今は、たまにお母さんが乗ってる」と言うと私の雑誌を取り上げる。「男の人にとって車は“おもちゃ”みたいなもんだよね。〇ッシーは、これからどんな車に乗りたい?」と無邪気にマイちゃんが聞く。「ランサー・エボリューションⅣだな!」と言うと「いつか乗っけてよ。みんなで温泉にでも行きたいからさ。折角知り合えたんだから、何か楽しい事しようよ!」「そーだな、悪くない。」「絶対に行こうよ!思いっきり遊びたいから!」ランサー・エボリューションⅣは手に入らなかったが、後々マイちゃん達とは「泊りがけ」で数回出掛ける事になる。その下敷きは、こうした何気ない会話から発展していったのだ。

マイちゃんは、女性患者の中心的存在だった。通算の在院歴も長く、顔も広い。私も、看護師さん然り、先生然り、様々な人々と色々な形で関わって行くことになるのだが、中には“ちょっと困った女性達”も含まれていた。中でもSKさんは“要注意人物”だった。取り巻きが増えていく過程で、「SKさんはちょっと・・・」という方も出て来た。女性患者の中でも評判が悪いし、甘え癖が強かった。しかし、SKさんは、人懐っこく付きまとう様になって行った。「〇ッシーなら上手く足らえるでしょ!みんなだけって訳には行かないし、アカラサマな否定も無理。バランス取って相手が出来そうなのは、〇ッシーだけだと思う。難しいのは百も承知。でも、何とかしてくれない?」マイちゃんも困惑気味に言う。「まあ、マイちゃんの頼みなら、何とかするか。それにしても、頭脳戦を要求されとはね・・・。ナケナシノの知恵を絞ってみるか!」私は、必死になって知略を練り難局を回避して行った。無論、私1人では無理だ。女性患者達の中から“援護”を貰えそうな方々をピックアップして協力を仰いだ。マイちゃんも可能な限り“援護”してくれた。“談話室”と化した喫煙所の秩序の維持は、中々骨の折れる作業だった。