水戸の定食屋
その店は、なんというか、奇妙な店でした。
いわゆる定食屋で大通りからちょっと横道に入った所にありますが、
とても人通りが多いので、水戸市内でも立地条件は良い方に入ると思います。
店の前にはショーケースが置かれ、ミックスグリル定食の食品サンプルが入っています。
入口は大きなガラス製の自動ドアで、中の様子が見えるのですが、
そこにも大きなショーケースが置かれ、たくさんの食品サンプルがあり、まるでデパートのファミリーレストランのようです。
(デパートのファミリーレストランと言っても、分からない人がいるかもしれないなぁ。)
その時点で、ちょっと変わってるかな、と思ったのですが、
なんせ私、定食好きなものですから、大いに期待して暖簾をくぐったのでありました。
すると、60代くらいのご婦人が出てきて、
「当店はメニュー表がありませんので、ショーケースの料理の中から選んで、こちらでご注文下さい。」
と言いました。
私、かなりとまどいましたが、とりあえず食べたいのは定食なので、
一番好きな「ハンバーグ生姜焼き肉定食」を注文しました。
はっきり言って、メニューを吟味している暇はなく、この定食屋にはどんなメニューがあるのか、さっぱり分かません。
もしかすると、店側には利があるのかもしれませんが、客側には、あまり良いシステムとは言えないかもしれません。
お会計は先払いで、レシートとして小さな食券をもらいます。
席につき、料理を待っていると、次から次へと男性客が入ってきます。
ただ、常連さんではなく、どうも近くのホテルに宿泊しているサラリーマンのようでして、
みなさん、この店の注文システムにとまどっています。
しかし、その度に、60代の女性店員は、とても柔らかい声で、
「申し訳ございません。よろしくお願いします。」
と言うので、嫌な気持ちはしません。
作る人も一人しかいないのか、料理が出てくるまでに、少々時間がかかりましたが、
やっと出てきた料理を見て、唖然としました。
なんと、非常に量が少ないのです。
ご飯は150gあるかどうか。
皿がなんとか隠れる程度にしか盛られていません。
副菜のワカメの酢のものも、すごーく小さい器に底が隠れる程しか盛られていません。
キャベツの千切りもちょっとしかありません。
肝心のハンバーグはと言うと、お世辞にもうまいとは言えないもので、モサモサしています。
味に関しては、うるさいことは普段から言わないようにしていますが、
結構大食いの私、量が少ないのはとても困ります。
(量が少ないのは、本当困るんですよねぇ。)
量も少なく、うまくない料理、変わった注文システムに、普段なら少し気を悪くしているかもしれません。
ところが、ちっともそんな気にならないのです。
なんせ、60代の女性店員が店の中を走り回って、一生懸命働いているからです。
メインの料理以外は、すべてその店員が用意しなければならないようで、
新しい客が来店しても気が付かない位、厨房と客席をぐるぐる回っています。
また、厨房の店員に怒鳴られてもいるのか、ちょっと悲しそうな声で
「はい。はい。」
と返事しているのが聞こえてきます。
それでいて、客には
「お待たせしてしまって、本当、すみませんねぇ。」
と、これまた申し訳なさそうに言うのです。
こうなると、この女性店員を困らせてはいけない、むしろ助けてあげなければ、という気持ち方のが強くなります。
私以外の客も、みんなそう思ったようで、自分でできそうなことは、女性店員にかわってやろうとします。
あっという間に食事を終え、女性店員に丁寧に挨拶をして、店を出ましたが、
何故か、その店の今後について、ひどく気になるのでした。
まぁ、無事にやって行けるなら、いいんじゃないですかねぇ。
でも、私は、もう行かないかなぁ。
だって、量が少なすぎるんだもの。
(ちなみに、その後、マックに行ってハンバーガーを食べました。)
世の中には、色んなお店があるんですね。