クロード・レヴィ=ストロース(1908-2009)『野生の思考』(1962)
なんと美しい著書であろうか。コンパクトに書かれた一冊の中に、レヴィ=ストロースの知性の深みが炸裂するようである。20世紀の世界の学問の方向性を決定付ける、実証的な語りと詩情の結晶を見よ。カッシーラーの学問のさらに天空を往く印象である。レヴィ=ストロースの生涯に亘る仕事の序説といえるだろう。
この本に一貫しているのは、西洋文化全体の一般的偏見に対して、それらを否定する観点である。野生の思考を導入し、情報検索理論と同一平面上にその益を説くのである。多様性が求められる今世紀の認識のパラダイムにも、それは適合している。
「野生の思考を規定するものは、人類がもはやその後は絶えて経験したことのないほど激しい象徴意欲であり…(p.263)」
「現在わかっている限りでは、大きさとしては二千という数字が、いわば一つの能力の限界に対応しているように思われる。口頭伝承に基づく民族動物学や民族植物学では、記憶能力、定義能力の限界がそのあたりに位置するのであろう。この限界値が、情報理論の観点から見てなにか意味のある性質をもつものかどうかを知ることができれば面白いと思う。(p.184)」
「私は、マルクスがほんの少し素描をしただけのこの上部構造の理論の確立に貢献したいと思っている。(p.154)」
敬愛するレヴィ=ストロースの仕事を、私が論じることは、畏れ多い。愛すべきその仕事の数々を、今後、個人の楽しみのために取っておきたいのである。