エドワード・サピア(1884-1939)『言語』(1921)
「サピアは、アメリカおよびカナダのインディアン諸語の共時的・通時的研究に膨大な業績を残し、また、インド・ヨーロッパ語、セム諸語、シナ・チベット語など、多数の言語に通じた天才的な言語学者であった。(解説p.419)」
個人的に、ひとの思考様式はその言語習慣によって規定されるとする、サピア-ウォーフの仮説を支持したいのですが、後年のチョムスキーの影響もあろうし理論は変遷しているようである。
本書は、論文を除いてサピアの生前に出版された唯一の書籍である。術語は避けられているし、専門的な記号はいっさい使用していない。また議論は英語の資料にもとづいている。それでも、言語という対象を包括的に取り扱い、その内容が普遍性を得る形にまで広くまた深く論じられているといえるのは確かではないだろうか。
「言語は、ひとえに、現実に使用されるかぎりで存在するーーつまり、話されたり聞かれたり、書かれたり読まれたりするかぎりにおいて存在する。言語に起こる重要な変化はすべて、まず最初は個人的変異として存在しなければならない。これは、完全に真である。しかし、だからといって、言語の一般的な偏流は、こういう変異のみをあますところなく記述的に研究すれば理解できる、ということには断じてならない。個人的変異そのものは、あてどもなく上げ潮につれて前後にゆらぐ海の波のように、でたらめな現象なのである。(p.266)」