ミルチャ・エリアーデ(1907-1986)の『イメージとシンボル』(1952)。
ルーマニア出身の宗教学者、エリアーデによる論考である。「エリアーデが宗教史を通して成し遂げた人間精神への素晴らしい寄与のひとつは、西洋の伝統的な思考領域を踏み出て、異質な文化とのコミュニケーションの場に身を据え、非合理なものにまで立ち入りユマニスムの拡大を図ったことにある。(あとがき 訳者前田耕作)」と、あるように、キリスト教だけでなく、インド、アジア、オーストラリア、北アメリカ、アフリカなど、その考察範囲は広範に渉る。エリアーデより前の世代のタイラーやフレイザーなどのがらくた主義的立場を乗り越えた立場で考察は行われる。「その象徴そのものが≪限界状況≫の意識化の表現である(p.226)」と認識する立場のものである。序論、第1章≪中心≫のシンボリズム、第2章時間と永遠性のインド的シンボリズム、第3章≪縛(いまし)める神≫と結び目のシンボリズム、第4章貝殻のシンボリズムについての考察、第5章シンボリズムの歴史、がその目次であり、主に民族学的な物事を宗教的機能の観点から論述していく。
「自然発生的に伝播し、発見されたシンボル、神話、儀礼はいずれも常に人間の限界状況を顕示しているのであって、単に歴史的状況だけを表しているのではないということを確かめるためには、その問題を少し骨折って研究してみさえすればよい。ここでいう限界状況とは人間が大宇宙の中で己れの占める場所を意識化することによって見出だす状況のことにほかならない。宗教史家が自己の課題を課し、深層心理学および哲学さえ含めた学問の諸成果を再統合するのは、なによりもこれらの限界状況を解明するときなのである。(p.47-48)」
という部分が印象に残った著作である。