
煙草が止められない。しかし、あともう少しで止めるだろうとは思っている。値上げばかりだし。
リチャード・クライン、太田晋・谷岡健彦訳『煙草は崇高である』太田出版(1997)
煙草を哲学するような本である。否定的(消極的)な経験をその契機として含むような美的満足、というカントの崇高の定義を煙草に当てはめて、煙草の美は崇高であるとする。どういう事かというと、例えばアルプスの自然の偉容や深淵と対峙して、自らの小ささや限界を感じ人は苦痛を感じる。そこから理性が想像力を励ますという葛藤をへて、やがてある快がもたらされる。これが苦痛を伴った「消極的快」であり、崇高の要素である。煙草は身体に悪いと分かっていても止められない。それを説き明かしてくれるのが煙草の崇高性だ、とのことである。
この本では、煙草との歴史、哲学や文学、映画、アメリカ政治の関係が多様に語られる。それにも関わらず「本書の更なる実用的価値は、この点にある。実をいえば、本書は禁煙のために執筆され、また供されているのである。(訳者あとがき)」
本書を読み、煙草を深く知る事で、逆説的に私は煙草を止められるだろうか。止めようとは思っている。