河合隼雄(1928-2007)『ユング心理学と仏教』岩波現代文庫(2010)
アメリカでの講演の内容が基となっている。河合隼雄の臨床心理家としての経験が語られ、仏教の考えからヒントを得て臨床に生かされる過程が描かれる。末木文美士の解説にもあるように、専門家からすると物足りないであろうが、その理屈は魅力的であり、あくまで臨床心理家としての観点からの理解である。
河合隼雄は、視点が広くまた絶えず柔軟である。「そこで、われわれとしては、人間を全体として理解するための新しい科学が必要だと考えます。(p.202)」という提案は、興味深いものである。仏教(華厳)の「縁起」の考えなどを考慮に入れることで、それは成されるのだろうが、あくまで可能性としてとしか触れられてはいない。しかし、クライアントの訴えは禅の公案のようなもの、などの一連の記述やその姿勢に一々共感させられるのである。