第6話-15

　「自分が死ぬんだってわかるのは気持ちいいか？いいわけないよな？」
　「私は看護士だったの。人の死に立ち会ったことは何度もあったわ」
　「お前のことなんかどうでもいいんだ。死ぬのは恐いだろ？恐ければ、何でもするから助けてって言ってみろよ」
　「助けてって私が言ったら？」

　田村は振り返り、藍原を睨み付けて大声で言った。「僕に質問するな。聞いてるのは僕だ」

　藍原はほほ笑んだ。
　「死ぬのは恐いです。でも、あなたに協力するのも嫌です」

　「女ってのはな、男に逆らわないでただ尽くせばいいんだよ。お前が生きる望みはほとんど消えたな」
　田村は藍原のほほ笑みを、ふてぶてしいととらえた。記者会見で父の不正を認めた時の母の涙と同じだ。悪いのはすべて男で、悪の道から救えなかったけれど自分は正しいと思っていやがる。

　「僕は母のようなデブ女は大嫌いだけど、母やお前みたいに偉そうなことを言う女はもっと嫌いだ！」

　田村の顔の筋肉が引きつっている。頬の辺りがピクピクと震え出した。

　「助けて」
　藍原は田村の顔を見ながら、声にならないように強く念じた。田村に対してではない。レンジャーズがそばにいる気がした。
　ＬＯＥの病院勤務だった頃、「頼れる時は頼っていいのよ」と士長はよく言ってくれた。