第5話-27

　「登る時って必死で登っちゃうけど、逆に下りるのって緊張するんだよね。俺は登ってきたんだから下りられると思って下りるけど」
　隣りのビルの屋上で、ヘリコプターから吊り下げられた緑川を見て、青山が呟いた。「ヘリからいきなりロープで下りるなんて、緑川さん、すげえ」
　「その後のことを考えると、俺はデカすぎて潜入なんて無理だけど、緑川は訓練を受けたらしいし、自分も命を投げ出して誰かを守る仕事をしてきた男だ。だから、相手がパイロットだろうがロープだろうが、自分を守ってくれると絶対に信用しているんだと思うよ。あとは自分を信じるだけだろ」
　村崎も勇猛果敢な緑川を見つめて言った。

　房総銀行の屋上に下り立った緑川は、空調ダクトのメンテナンス出入り口から建物の中に入る。屋内放送のスピーカーに外部から放送できるように配線するのが第一の任務だ。

　藍原は警察が用意したマイクの前で、それとはわからないように行内の客に呼び掛ける録音を行っている。
　「南国の海岸を思い浮かべて下さい。気持ちのいい風が吹いていて、暑すぎることはありません。その楽園に行くにはしっかりした資金計画が必要です。房総銀行では皆様のために様々なご提案を用意しています」
　藍原の声は、現在唯一外部から映像や音声を流せる行内のテレビから流される。