恩師と申しますのは、やはり直接教えを受けた師を指す言葉でしょうか?
だとすると、私は直接教えを受けた訳ではないので、
恩師と申し上げるのは不適切なのですが、それしか言葉を思いつかないので失礼つかまつる。
私の料理の恩師は、故土井勝先生でございます。
テレビを見ないっ子だった私が、唯一食い入るように見ておりましたのが、
当時、恐らく毎日放送されていた、先生のお料理番組でございました。
家庭料理の基本中の基本を判り易く解説して下さる穏やかな口調は、今も耳に残ります。
他の子が漫画に見入るように、先生のお手元を食い入るように拝見しておりました。
その後の私は、同じく先生の弟子?であり、料理好きだった母の妨害にもめげず、
次第に実家の台所を占拠することになったのです。
私がのらりくらりと生きております間に、土井家は代替わりをされておりました。
先生のご子息である土井善晴先生を、先日テレビのお料理番組で拝見いたしまして、
何故か胸が熱くなった私でございます。
お父上同様、穏やかな笑顔で素晴らしいお料理をご紹介になっておられました。
私は、レシピ丸写しで料理をするということをあまりいたしません。
理由は、こちらでは手に入らない食材があったり、
同じ食材であっても調理法を変える必要があることが多々有るからです。
本日のお料理も、若先生が紹介しておられた『芋煮汁』の手順から、
”肉と味噌を焼き付ける”というキモの部分だけを使わせて頂き、後は私流でございます。
本日は、こんにゃくの下処理から。
このように、出来損ないの盃(そんなものをお持ちでなければコップでも)を使い、
こんにゃくを一口大に切ります。金物を当てないことで味の染み込みが良くなります。
サッと茹でるのではなく、延々と15分程茹で続けます。
一旦お湯を切り、再度鍋に戻して炒り付けます。
独特のちりちりとした音がしますが、焦げませんので執拗に炒ります。
加減は、表面を触って、水気を感じなくなるまででございます。
この処理は、非常に効果があります。こんにゃくが、とにかく美味しくなるのです。
その他の材料は、里芋、ニンジン、笹がきゴボウ、豚ひき肉。
ちなみに若先生は、すき焼き用の牛薄切り肉をお使いになっておられました。
鍋に油を引かずにひき肉を平らに入れます。
急いで混ぜ合わせず、片面が焦げ始めるのを待ってほぐし始めます。
鍋にくっつきますし、徐々に焦げ付き始めますが、その焦げ付きこそが出汁の決め手です。
味噌を投入し、味噌とひき肉を焦がしつつ練り上げ、香ばしい肉味噌を作ります。
味噌の焦げる匂いは素敵です。さすがは若先生。
出来上がった肉味噌は、一旦取り出します。
良い感じにこびりついています。間違っても拭き取ったり、洗ってはなりませぬ。
この一見汚れた鍋が、根菜に魔法を掛けてくれるのです。
こちらの魔法のお鍋にお野菜とこんにゃくを投入し、一混ぜしてからお酒を加えます。
そして、先日から冷蔵庫で待機していた利尻昆布の2番だしを加えます。
木べらなどで鍋底や鍋肌をこそげながら、こびりついた旨味をしっかりこそげて下さい。
その後みりんを加え、蓋をして中火で煮込みます。
美味しいお出汁を二度までも提供してくれた昆布氏とも今日でお別れ。
フナーレは、細く刻んで少量の塩と沢山の酢で漬け込む浅漬けに
お野菜が柔らかくなりましたら、取り出しておいた肉味噌を加えます。
10分ほど煮込んで火を止めます。火を止めてから最低でも2時間ぐらいは放置。
時間が食材の旨味を引き出してくれますので、この段階で味を決めてしまわないで下さい。
2時間後には、塩気に頼らなくても良くなるはずです。
食べる直前に味を見て、必要ならばお醤油を補います。
根菜などのお料理は、滋味豊かで素晴らしいのですが、色が茶色い・・・・
ですので、色鮮やかなサイドディッシュを添えます。
冬の生野菜は冷蔵庫で冷やしたものではなく、室温で頂くのがよろしいかと思います。
室温のトマトは冷たいものより甘みを、浅漬けは風味を、より堪能することが出来ます。
寒い季節は特に、テーブルの上のお料理の温度差を小さくすることを心がけます。
バーテンダーが、熱燗で一杯始めた様です。
具沢山の汁物はお酒のお伴としても、とてもよく合うのだそうですよ。
大きな塗り碗にたっぷり盛って、青ネギと七味唐辛子で頂きます。
ひと手間掛けて香ばしい肉味噌に仕立てられたひき肉が美味しい!。
煮込んで尚、味噌の香ばしさを保ち、出し殻のようになっておりません。
若先生!大変結構な御点前でございました。しかと勉強させて頂きました。
さて番組の最後で、先生は笑顔で恐るべき一言をおっしゃいました。
「翌日は、これをカレーに仕立てて召し上がっても美味しいですよー」
まだ食べたそうなバーテンダーを思い留まらせ、
私自身も後ろ髪を引かれつつ、 明日の分を残しましたとも!
若先生の言いつけ通り、カレーに仕立てさせていただきましたデス。
肉味噌根菜カレー、ここに誕生致しました
言葉不要の美味しさでございました。
「楽しみながら工夫して、最後まで味わい尽くす」
これが私の思う、家庭料理の有るべき姿でございます。
親子2代に渡り、私はこの先も先生方のお姿を追って参る所存でございます。
感謝