「それじゃあ行きます!」
疲れてるだろうけど、ただ海坊主を縛り付けるだけでは意味がない。今のままだとどうやら幾代の力で拘束をしてる……と言う状態らしい。あれだけの巨体を拘束するだけの力があるなんて小頭は凄いと思った。そしてさらに幾代は詠唱を続ける。
「これを」
「これは……魔除けだ」
「魔除け?」
詠唱をして目的の事をやろうとしてる幾代へと鬼男があるものを差し出す。それは彼の角である。小頭は思った。
(彼らにとっての角っていったい……)
――とね。だってなんかとても気軽なのだ。体の一部だし、作品によっては角というのは力の象徴とか、鬼にとっては角こそが力の権化であって発露みたいな場所のような描写だってある。
(けどそれらはきっとフィクションで、こっちがノンフィクションなんだよね)
複雑な思いが小頭の胸に宿る。だって格好いいのはフィクションのほうだと思えてしまうのだ。鬼女も鬼男も自身の角をポキポキ折るから! 鬼にとってその角は大切じゃないのか? と思わずにはいれらない。それにさらにいうと
(魔除けって)
――である。魔はあんたたちの方でしょ!? ――という事を突っ込みたくなった。けど鬼男も真剣なのだ。それは小頭にもわかる。それに幾代も今は大変なのだ。それなのに一番楽してる小頭が――
「ぷぷぷ、魔除けってあんたが魔でしょ?」
――とか言える訳もない。鬼男は見た目と違って優しいが、だからっていっていい事と悪いことがあるだろう。それに本来なら体の一部を与えるなんて事は信頼とかがないとできないはず。だから……真剣なんだ。と思って何も言わない。
「ありがとう」
そういって幾代はありがたく受け取ってた。それを一体どうするのか……と小頭は見てたけど、とりあえず詠唱を続けて、拘束してある海坊主の周囲に結界みたいなのが見えるようになった。まるで海坊主が一つの柱になったみたいな? そんな感じだ。そしてとりあえず「ふうー」と幾代は息をはく。そしてふと思い出したように鬼男から受け取った角を見る。するとそれを波がギリギリ届かない場所に刺した。そしてさらに――「ふん!」――と足で踏みつけて浜におしこんでた。
「これでよし」
ほんとに? ほんとにそれでいいの? と小頭は思った。ゴミを処理した……わけじゃないよね? という疑問がぬぐえない。