開高健の人生相談④～淋病～

（問）

常々巨匠は、その国を知りたければ
タクシーの運ちゃんと娼婦と
仲良くなれとかいておられますが、
小生、その言にしたがい実践しておりましたところ、
スペイン旅行の折、
淋病をもらってしまい、
それを女房にもうつして、
散々な目に遭いました。
そこで巨匠にお伺いしますが、
巨匠はどのようにして、
その危険を避けておられるのですか。
それとも、巨匠も小生と同じような目に
遭っておられるんですか。

（答え）

フランスの諺に
「卵を割らないでオムレツをつくることはできない」
という言葉があるな。
何かを手に入れるには、何かを失わねばならない
という鉄則にわれわれは拘束されている。
したがって、
君はスペインを旅行して楽しかったけれども、
リンちゃんをいただいて、女房にまでうつしてしまう
というのは、手落ちだったなあ。
完全な手落ちである。
奥さんも少し暢気すぎるのではないの。



日本のコンドームをすすめておく。
これは世界に冠たるものであって、
ヨーロッパのコンドームと比べた日には、
もうお話にならない、
まさに芸術品と言いたいくらいのものだな。
コンドームだけですべてが解決すると思わないし、
素朴実存主義者の君には耐えがたいかもしれないが、
しかし、これを本当のスキンシップというのである。
対象と無媒介でベタベタ、ベタベタと一緒になること、
これは哲学用語で融即というが、君は融即派やな。
しかし、や。
スキンをかぶっていても入ってくることはありうるのであって、
これはもう、交通事故だと考えるしかあるまいテ。