9月20日(金)ドレスデン・ゼンパーオーパー オペラ公演
ゼンパーオーパー(ドレスデン国立歌劇場)
【演目】
ワーグナー/「さまよえるオランダ人」![](https://blogimg.goo.ne.jp/img_emoji/kirakira.gif)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/img_emoji/heart.gif)
【配役】
オランダ人:ミヒャエル・ヴォッレ、ゼンタ:ジェニファー・ホロウェイ、ダーラント:ゲオルク・ツェッペンフェルト、マリー:クリスタ・マイアー、エーリク:トミスラフ・ムツェック、舵手:マリオ・レルヒェンベルガー
【演奏】
アクセル・コーバー指揮 ザクセン州立歌劇場管弦楽団/ザクセン州立歌劇場合唱団
【スタッフ】
演出:フロレンティーネ・クレッパー/舞台:マルティナ・セーニャ/衣装:アンナ=ゾフィー・トゥーマ/照明:ベルント・プルクラベク/映像:バスツィアン・トリープ 他
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/2d/49/01d2225ad22feddfe131c33342ad419a.jpg)
ゴットフリート・ゼンパーの設計によるドレスデン王立宮廷劇場が焼失した後、1878年に同じゼンパーの設計で新たな劇場が竣工した。これも第2次世界大戦の大空襲によって瓦礫と化したが、東独政府によって1985年に再建当時の姿に蘇った。その翌年にここで観た「マイスタージンガー」の感動は今も鮮明に残っている。その後、統一後の2002年に観たシュトラウスの「カプリッチョ」も素晴らしかった。今回は3度目のゼンパーオーパー。演目は1843年にここで初演された「さまよえるオランダ人」。
前奏曲が始まる前、霧に煙る暗い断崖での葬列シーンの古い絵画のような美しさに引き込まれた。棺はオランダ人か。前奏曲は引き締まったなかに芳香を放つ。大音響ではない確かな手応え。
歌手が皆素晴らし過ぎた。最も惹かれたのはエーリク役のムツェック。ローエングリンでも似合いそうなヘルデン・テノールと呼びたい力強く輝かしい声を持ち、聴き手をぐいぐい引き込んでいった。ゼンタにふられる哀れな男ではなく、本気でゼンタを愛する熱く逞しい男を体現した。このことでゼンタのオランダ人への思いの強さに説得力が生まれた。
ゼンタ役のホロウェイは、ビブラートが大きいように感じたが、鋼のような凄みのある声が使命を遂行しようとする強い意志をストレートに表現した。オランダ人役のヴォッレも素晴らしい。高貴さと強さを具え、役に相応しい超越した存在感を放っていた。ダーラント役のツェッペンフェルトは権謀術数に長けた味を出していた。マリー役のマイアーの人情味あふれるリアルな声も忘れ難い。舵手のレルヒェンベルガーは張りのある声で、主役が登場する前の幕開けから聴き手をオペラに惹きつけた。
合唱も素晴らしかった。血が通った人間臭さが滲み出て、喜怒哀楽や恐れおののきなどの感情を赤裸々に表現した。幽霊船に何度も呼びかけるシーンでのおぞましい凄みの効いた大合唱には身の毛のよだつほど。そしてオケの力量。こちらも合唱団同様に機能美より人肌の温かみと奥行きがあり、腹の底から湧き上がる情感が伝わってきた。このオケと合唱の両者が一緒になった時の熱量、そこから醸し出される様々な色や匂いが混じりあった、単なる音圧ではない響きが心を震わせた。バイロイトをはじめ、ワーグナーの指揮で定評があるコーバーの力も大きいだろう。
音楽的には大満足の上演だった一方で、演出はわからないことが多かった。ゼンタの影のようにずっと一緒にいた少女はゼンタの分身なのだろうが、何を意味しているのか分からなかったし、冒頭の葬儀のシーンは美しかったが何なのか、第3幕でベッドに横たわる亡骸のオランダ人が起き上がって歌い出すのも分からない。
肝心なゼンタの自己犠牲が描かれるはずの最後の場面で、ゼンタは海に身を投げることもなく、大きな鞄を抱えてステージから立ち去ってしまった。オランダ人が救われる様子も描かれず、ゼンタが命を賭してオランダ人を救済するというオペラの命題を否定する演出だとすれば、作品自体を否定してしまっているのでは。演奏家は作曲家の意図に忠実な演奏を心がけるのに対し、演出家は台本作家や作曲家の意図にお構いなく好き勝手にやるのはどうなんだろう。
ただ、そんな演出でも、演奏の素晴らしさのおかげで心に強く残る「オランダ人」だったことは確かだ。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/5a/5f/ddc35f65575436d3b3a4f52861276f7e.jpg)
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(拡大可)
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終演後のライトアップされたゼンパーオーパー前でキスシーン♥(拡大可)
ウィーン国立歌劇場公演「さまよえるオランダ人」 2015.9.11 ウィーン・シュターツオーパー
新国立劇場オペラ公演 「さまよえるオランダ人」 2012.3.8 新国立劇場
ティーレマン指揮 ドレスデン国立歌劇場管弦楽団 2023.9.11 ムジークフェアアインザール
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オランダ人:ミヒャエル・ヴォッレ、ゼンタ:ジェニファー・ホロウェイ、ダーラント:ゲオルク・ツェッペンフェルト、マリー:クリスタ・マイアー、エーリク:トミスラフ・ムツェック、舵手:マリオ・レルヒェンベルガー
【演奏】
アクセル・コーバー指揮 ザクセン州立歌劇場管弦楽団/ザクセン州立歌劇場合唱団
【スタッフ】
演出:フロレンティーネ・クレッパー/舞台:マルティナ・セーニャ/衣装:アンナ=ゾフィー・トゥーマ/照明:ベルント・プルクラベク/映像:バスツィアン・トリープ 他
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ゴットフリート・ゼンパーの設計によるドレスデン王立宮廷劇場が焼失した後、1878年に同じゼンパーの設計で新たな劇場が竣工した。これも第2次世界大戦の大空襲によって瓦礫と化したが、東独政府によって1985年に再建当時の姿に蘇った。その翌年にここで観た「マイスタージンガー」の感動は今も鮮明に残っている。その後、統一後の2002年に観たシュトラウスの「カプリッチョ」も素晴らしかった。今回は3度目のゼンパーオーパー。演目は1843年にここで初演された「さまよえるオランダ人」。
前奏曲が始まる前、霧に煙る暗い断崖での葬列シーンの古い絵画のような美しさに引き込まれた。棺はオランダ人か。前奏曲は引き締まったなかに芳香を放つ。大音響ではない確かな手応え。
歌手が皆素晴らし過ぎた。最も惹かれたのはエーリク役のムツェック。ローエングリンでも似合いそうなヘルデン・テノールと呼びたい力強く輝かしい声を持ち、聴き手をぐいぐい引き込んでいった。ゼンタにふられる哀れな男ではなく、本気でゼンタを愛する熱く逞しい男を体現した。このことでゼンタのオランダ人への思いの強さに説得力が生まれた。
ゼンタ役のホロウェイは、ビブラートが大きいように感じたが、鋼のような凄みのある声が使命を遂行しようとする強い意志をストレートに表現した。オランダ人役のヴォッレも素晴らしい。高貴さと強さを具え、役に相応しい超越した存在感を放っていた。ダーラント役のツェッペンフェルトは権謀術数に長けた味を出していた。マリー役のマイアーの人情味あふれるリアルな声も忘れ難い。舵手のレルヒェンベルガーは張りのある声で、主役が登場する前の幕開けから聴き手をオペラに惹きつけた。
合唱も素晴らしかった。血が通った人間臭さが滲み出て、喜怒哀楽や恐れおののきなどの感情を赤裸々に表現した。幽霊船に何度も呼びかけるシーンでのおぞましい凄みの効いた大合唱には身の毛のよだつほど。そしてオケの力量。こちらも合唱団同様に機能美より人肌の温かみと奥行きがあり、腹の底から湧き上がる情感が伝わってきた。このオケと合唱の両者が一緒になった時の熱量、そこから醸し出される様々な色や匂いが混じりあった、単なる音圧ではない響きが心を震わせた。バイロイトをはじめ、ワーグナーの指揮で定評があるコーバーの力も大きいだろう。
音楽的には大満足の上演だった一方で、演出はわからないことが多かった。ゼンタの影のようにずっと一緒にいた少女はゼンタの分身なのだろうが、何を意味しているのか分からなかったし、冒頭の葬儀のシーンは美しかったが何なのか、第3幕でベッドに横たわる亡骸のオランダ人が起き上がって歌い出すのも分からない。
肝心なゼンタの自己犠牲が描かれるはずの最後の場面で、ゼンタは海に身を投げることもなく、大きな鞄を抱えてステージから立ち去ってしまった。オランダ人が救われる様子も描かれず、ゼンタが命を賭してオランダ人を救済するというオペラの命題を否定する演出だとすれば、作品自体を否定してしまっているのでは。演奏家は作曲家の意図に忠実な演奏を心がけるのに対し、演出家は台本作家や作曲家の意図にお構いなく好き勝手にやるのはどうなんだろう。
ただ、そんな演出でも、演奏の素晴らしさのおかげで心に強く残る「オランダ人」だったことは確かだ。
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