9月22日(土)トレヴァー・ピノック指揮 紀尾井シンフォニエッタ東京
道を究めた名匠たち ~第86回定期演奏会~
紀尾井ホール
【曲目】
1.モーツァルト/交響曲第36番ハ長調 K.425「リンツ」
2.モーツァルト/クラリネット協奏曲 イ長調 K.622
Cl:パトリック・メッシーナ
3.モーツァルト/交響曲第39番 変ホ長調 K.543

ピノックは、イングリッシュ・コンサート結成間もない1970年代から聴く機会の多かったアーティスト。いつでも元気溌剌な演奏をするイメージが強いが、名手の揃った紀尾井シンフォニエッタとのモーツァルトプロでも、きっと瑞々しく元気で、しかも「巧い」演奏を聴けると期待。
今日の曲目は超お気に入りな曲ばかり。最初の「リンツ」は期待通りに瑞々しく活きのいい序奏で始まった。それに引き継がれる主要部の、無理のないテンポと自然な息遣いもいい。伸びやかで嬉々としたファーストヴァイオリンに、心憎い合いの手を入れるセカンドヴァイオリン、両者の間で呼吸に潤いを与えるヴィオラと、リズムを息づかせる低弦。こうした素晴らしい弦楽合奏に、表情・彩り・アクセントを加える管楽器とティンパニ。アンサンブルが一体となって、第1楽章は上々の開始だった。ただ、第2楽章では更にデリケートさや匂やかな香り付けが欲しかったし、僕が一番好きな第4楽章では、元気のよさに加えて、宙に舞い上がるようなふわっとした柔らかな感触が欲しかったという点では注文もつけたい気分が残った。
メッシーナをソリストに迎えての、僕が愛して止まないクラリネットコンチェルトでは、オーケストラには元気よりもデリケートな表現の表出に重点が置かれた。それでもなお、メッシーナが随所で聴かせる、息を飲むようなデリケートな微弱音の問いかけに対し、オーケストラには更に細心の繊細さで応答して欲しいと思うところがあった。メッシーナのクラリネットは、そうした細やかな表情と、大胆とも言える溌剌とした表現の振幅が大きく、ワイルドと感じるところもある演奏で聴き手を楽しませた。ただ、僕がこの曲に感じる、微笑みの奥にある涙は伝わって来なかった。
最後に置かれた39番のシンフォニー、これがこの日の演奏の白眉。瑞々しさ、伸びやかさ、活き活きしたエネルギーの発露といったものに止まらず、内面的な豊かな表現力という点でも秀でたものを感じた。ピノックはオーケストラを強引にドライブするようなことは決してせずに、知らず知らずのうちにオケを乗せ、心の奥底から自然に沸き上がってくる素直な感動を伝えていた。
隅々までジューシーで充実した第1楽章はフレッシュの極み、第2楽章ではじんわりした温もりが伝わり、中間部の短調の場面では、1小節ごとに低弦をズーンと腹の底に響かせつつテンションを上げていった。第3楽章は節度を保ちつつ、心躍る軽やかなダンスが楽しい気分を盛り上げた。そしてフィナーレ、キッチリしたなかに柔らかな「遊び」があり、この「キッチリ」と「遊び」の両者が手を取り合って階段を上って行き、見る見る熱を帯びてくるという感じ。アンサンブルが完璧にかみ合って、激しく動くほどにその結束力が益々緊密になり、素晴らしいフィナーレを演じた。これぞピノックの真骨頂と言える。
今日の席は普段滅多に座ることがない最前列だった。あまり上手でないオケだとアラも目立ってしまうところだが、紀尾井シンフォニエッタの場合は、つくづく上手いなぁ、と余計にその腕前に恐れ入るばかりだった。腕前だけでなく、興に乗って心から楽しそうに奏でる姿からも、ライブならではの臨場感を共有させてもらった。
道を究めた名匠たち ~第86回定期演奏会~
紀尾井ホール
【曲目】
1.モーツァルト/交響曲第36番ハ長調 K.425「リンツ」

2.モーツァルト/クラリネット協奏曲 イ長調 K.622
Cl:パトリック・メッシーナ
3.モーツァルト/交響曲第39番 変ホ長調 K.543


ピノックは、イングリッシュ・コンサート結成間もない1970年代から聴く機会の多かったアーティスト。いつでも元気溌剌な演奏をするイメージが強いが、名手の揃った紀尾井シンフォニエッタとのモーツァルトプロでも、きっと瑞々しく元気で、しかも「巧い」演奏を聴けると期待。
今日の曲目は超お気に入りな曲ばかり。最初の「リンツ」は期待通りに瑞々しく活きのいい序奏で始まった。それに引き継がれる主要部の、無理のないテンポと自然な息遣いもいい。伸びやかで嬉々としたファーストヴァイオリンに、心憎い合いの手を入れるセカンドヴァイオリン、両者の間で呼吸に潤いを与えるヴィオラと、リズムを息づかせる低弦。こうした素晴らしい弦楽合奏に、表情・彩り・アクセントを加える管楽器とティンパニ。アンサンブルが一体となって、第1楽章は上々の開始だった。ただ、第2楽章では更にデリケートさや匂やかな香り付けが欲しかったし、僕が一番好きな第4楽章では、元気のよさに加えて、宙に舞い上がるようなふわっとした柔らかな感触が欲しかったという点では注文もつけたい気分が残った。
メッシーナをソリストに迎えての、僕が愛して止まないクラリネットコンチェルトでは、オーケストラには元気よりもデリケートな表現の表出に重点が置かれた。それでもなお、メッシーナが随所で聴かせる、息を飲むようなデリケートな微弱音の問いかけに対し、オーケストラには更に細心の繊細さで応答して欲しいと思うところがあった。メッシーナのクラリネットは、そうした細やかな表情と、大胆とも言える溌剌とした表現の振幅が大きく、ワイルドと感じるところもある演奏で聴き手を楽しませた。ただ、僕がこの曲に感じる、微笑みの奥にある涙は伝わって来なかった。
最後に置かれた39番のシンフォニー、これがこの日の演奏の白眉。瑞々しさ、伸びやかさ、活き活きしたエネルギーの発露といったものに止まらず、内面的な豊かな表現力という点でも秀でたものを感じた。ピノックはオーケストラを強引にドライブするようなことは決してせずに、知らず知らずのうちにオケを乗せ、心の奥底から自然に沸き上がってくる素直な感動を伝えていた。
隅々までジューシーで充実した第1楽章はフレッシュの極み、第2楽章ではじんわりした温もりが伝わり、中間部の短調の場面では、1小節ごとに低弦をズーンと腹の底に響かせつつテンションを上げていった。第3楽章は節度を保ちつつ、心躍る軽やかなダンスが楽しい気分を盛り上げた。そしてフィナーレ、キッチリしたなかに柔らかな「遊び」があり、この「キッチリ」と「遊び」の両者が手を取り合って階段を上って行き、見る見る熱を帯びてくるという感じ。アンサンブルが完璧にかみ合って、激しく動くほどにその結束力が益々緊密になり、素晴らしいフィナーレを演じた。これぞピノックの真骨頂と言える。
今日の席は普段滅多に座ることがない最前列だった。あまり上手でないオケだとアラも目立ってしまうところだが、紀尾井シンフォニエッタの場合は、つくづく上手いなぁ、と余計にその腕前に恐れ入るばかりだった。腕前だけでなく、興に乗って心から楽しそうに奏でる姿からも、ライブならではの臨場感を共有させてもらった。