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バッハのマタイ受難曲(バッハ・コレギウム・ジャパン)

2008年03月21日 | pocknのコンサート感想録2008
3月21日(金)バッハ・コレギウム・ジャパン 受難節コンサート2008
東京オペラシティコンサートホール タケミツメモリアル

【曲目】
バッハ/マタイ受難曲 BWV244

【演 奏】 
T:ヤン・コボウ(福音史家)、パク・スンヒ/B:マルクス・フライク(イエス)、ドミニク・ヴェルナー/S:ハナ・ブラシコヴァ、藤崎美苗/カウンターT:ダミアン・ギヨン、上杉清仁 他
鈴木雅明指揮 バッハ・コレギウム・ジャパン


以前から一度聴きたいと思っていたBCJのマタイ。毎年聴けるということでつい先延ばしにしてしまっていたが初めて聴いた。しかもこの東京公演が行なわれた受難節の聖金曜日はバッハの誕生日と重なった。

オーケストラと合唱から最高の音と究極の表現を引き出す鈴木雅明の隙のないアプローチで「マタイ」がその真の姿を現すのを見たような演奏だった。とりわけこの「マタイ」の演奏で感銘を受けたのは雄弁の極みといった合唱だ。イエスを追い込み、ついには十字架に架けてしまう民衆の声は情け容赦なく何かに追い立てられているようでさえある。それに対してコラールでの合唱はこうした成り行きに怒り、イエスを哀れみ、イエスへの愛を歌い上げる。そして冒頭と終結での、映画で言えばタイトルとエンディングロールを思わせるような存在感の大きさを感じさせる合唱でガッチリと全体をくくる。

これらの合唱は、民衆の声であれコラールであれ、場面場面でテンポやディナミークを大胆に変化させ、そして大切な言葉を殊更に強調し、この受難の物語の1つ1つのシーンをいやがうえにも鮮やかに浮かび上がらせる。その描写・筆致は全て計算され尽くされ、邪念が入り込む余地はない。

そしてBCJの名手達による器楽合奏はアンサンブルとしての音も、研ぎ澄まされた表現も素晴らしく、合唱につき従う。それら1つ1つの表現は鈴木雅明とBCJが真剣勝負で取り組んでいる入魂の姿であり、世界中の人々に感銘を与える所以であろう。

こうした素晴らしい演奏に大いに感銘を受けたのは確かなのだが、、心から共感し、感動したかと言うとそれがちょっと違う感じ… どうしてだろうか、と考えてみて思いつくことといえば、あまりにも出来すぎた隙のないドラマであるために、その中に入れてもらい、一緒にイエスの運命への思いを共有しきれないという感じだろうか。それともあまりに真摯な演奏であることが反ってクリスチャンではない僕に近寄りがたいものを感じさせたのだろうか。涙がじわ~っと湧いてくるような人間臭さとか、何だかわからないけれど感動で胸が一杯になるような「情」に直接訴えてくるものが、あったにしても自分の感覚と共鳴しなかったところがあった。

そんな感覚を一番はっきりと感じたのは第63曲「本当に、この人は神の子だった。」の合唱。近年はここをゆったりとしたテンポで感動的に歌い上げずにサラリとやる演奏が多いが、今夜の演奏からは更に進んで「今まで散々イエスを貶めてきた人達が、イエスが神の子だったなんて素直に感じ、感動するなんてあり得ない。」といったメッセージが含まれているような演奏。これを聴いて、自分はもっと単純に感動し、涙を誘うような演奏を求めていたことに気づいたということかも知れない。

歌手ではソプラノのブラシコヴァのピュアで美しい声と端正な表現が素晴らしかった。とりわけ通奏低音を失った孤独の中で"Aus Liebe will mein Heiland sterben"と歌う崇高なアリアの息を呑む美しさ!それからバスのヴェルナーが歌った僕が大好きなアリア"Mache dich, mein Herze rein"の敬虔な歌も絶品。エヴェンゲリストのコボウも最後まで見事な美声で語り部の役を勤め上げた。出番は少なかったがもう1人のソプラノの藤崎美苗の柔らかく滑らかな美声も印象的でもっと聴きたかった。ただ、カウンターテナーの二人の歌には満足できなかった。ホール中を柔らかく包み込むようなそんな大きさと慈愛に満ちた包容力を求めたり、女声のアルトの方がいいのではなんて言ったら、マタイの本質をわかっていないと叱られるだろうか…

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