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モンテヴェルディ/ポッペーアの戴冠 ~ラ・ヴェネクシアーナ~

2014年10月15日 | pocknのコンサート感想録2014
10月15日(水)クラウディオ・カヴィーナ指揮ラ・ヴェネクシアーナ
東京オペラシティコンサートホール タケミツメモリアル

【演目】
モンテヴェルディ/歌劇「ポッペーアの戴冠」 (演奏会形式)
【アンコール】
ポッペーアとネローネの愛の二重唱より


【配役】
ポッペーア:ロベルタ・マメリ(S)/ネローネ:マルゲリータ・ロトンディ(MS)/オットーネ: ラファエレ・ピ(カウンターT)/オッターヴィア: セニア・マイヤー(MS)/セーネカ: サルヴォ・ヴィターレ(B)/アルナルタ: アルベルト・アレグレッツァ(T)/乳母,兵士,執政官:アレッシオ・トシ(T)/ドルシッラ,美徳:フランチェスカ・カッシナーリ(S)/ヴァレット,運命,ヴェネレ/パッラーデ:アレッサンドラ・ガルディーニ(S)/愛,待女:フランチェスカ・ボンコンパーニ(S)/兵士,ルカーノ,自由奴隷:ラファエレ・ジョルダーニ(T)/メルクーリオ,警史,執政官:マウロ・ボルジョーニ
【指揮】クラウディオ・カヴィーナ 【演奏】ラ・ヴェネクシアーナ

日本では上演される機会がなかなかないモンテヴェルディのオペラを聴けるという興味からチケットを買ったが、このオペラについても、ラ・ヴェネクシアーナという演奏団体についても予備知識ほぼゼロの状態で当日を迎え、今日になって取りあえずオペラのあらすじだけネットで読んで出かけた。

モンテヴェルディは、今世界で上演されている「オペラ」という音楽形態の創始者的な位置付けをされているが、今よく上演されるオペラで一番古い部類のモーツァルトの時代から更に120年も遡るルネサンスの作曲家。公演を聴いて、私たちが普通に考える「オペラ」とは音楽的に異なる点も少なくないが、同時にモンテヴェルディがまさに元祖オペラ作曲家と言える素晴らしい作品をこの世に遺したということを思い知った。

馴染みのオペラとの一番大きな違いは、とにかく「歌」が常に主役であること。上演には小編成の器楽アンサンブルが「オーケストラ」という位置づけで共演するが、このアンサンブルがトゥッティで賑やかに合奏するのは、歌の合間をつなぐ間奏の部分に限定され、歌があるときは、少人数のアンサンブルでごくごく控えめに「音を添える」という感じ。最初はそんな楽器の扱いに物足りなさを感じたが、聴き進むうちに、ひたすら歌に奉仕することの意味が見えてきた。それは、歌にぴったり寄り添い微妙な陰影を与える影のような存在で、とりわけアーチリュート(トテオルボみたいな楽器)が与えるデリケートなニュアンスが絶品!こうした控えめな楽器たちが歌をふわりと浮きたたせ、歌の表現の妙を楽しませてくれる。

そして、出番は少なくても歌の合間に入る、ラ・ヴェネクシアーナによる柔らかでニュアンスに富んだ合奏の表情の素晴らしいこと!演奏会形式でありながら、情景が美しい映像として目に浮かんでくるよう。でもこれとて歌を盛り立てるための演出で、「常に歌が主役、楽器はこれにひたすら奉仕する」ことこそが、オペラの魅力であり、原点なんだということを実感した。その肝心な歌は、多くの部分でレチタティーヴォ・セッコ風の朗唱形式で書かれていて、言葉のリズムや抑揚がとても自然に聴こえる。それがひとたび感情を込めた「アリア」に転じたときの劇的な効果は抜群。

モンテヴェルディはそれぞれの役に相応しい音を付け、歌手達はそれを完璧なまでに見事に表現していく。その深さ、細やかさ、振幅の大きな表現力は驚くほど。これをレチタティーヴォ風の歌で感じさせてしまうところに歌手達の実力の程が窺える。素晴らしい歌手達のなかでも最も心を捉えたのは、バスのサルヴォ・ヴィターレの歌ったセーネカ。懐の深さ、人生を語るような静かな説得力、徳の高さが、心に絡みつくような声の魅力も含めて、忘れ難い名唱を聴かせてくれた。

こうした歌手達の大活躍が効を奏し、この不条理極まりないオペラの、複雑でドロドロとした人間模様が鮮やかに浮かび上がった。何もかも自分の思いのままに人々を操り、その生死まで意のままで、結局不倫相手とハッピーエンドとなるあらすじを公演前に読んだ時は、こんなオペラに感動できるんだろうかと疑ったが、聴き進むうちにどんどん物語に引き込まれていった。悪役のはずのネローネが寛大な名君に思えてしまうだけでなく、かわいそうな運命を背負わされた正妻のオッターヴィアにいまいましささえ覚えてしまうのは、モンテヴェルディの音楽の力であり、それをありありと表現した歌手達の力、そして彼らを見事な筆致でサポートした楽士達の力が合わさった賜物だ。全体をまとめ上げた指揮者のカヴィーナの統率力と感性にも敬服!

最後の、ポッペーリアとネローネによる妖艶で親密な愛のデュエットは、400年の時を超えて今を生きる私達の心にストレートに届くこれぞ究極のラブソングと言いたい!愛の戯れの様子が、深く深く心に滲み渡り、大きな感動へと導かれた。

こんな素晴らしいオペラが普段殆ど上演されないのはいかにも勿体ないが、歌手にとって、むしろ目立たない朗唱に卓越した表現力が求められ、しかもこれを担う歌手の人数がハンパでないことを考えると、今夜ほどのハイレベルの上演というのはそうそうは期待できない。それだけに、今夜の体験は本当に貴重なものとなった。そんな感動を今夜会場に居合わせた聴衆達は一堂に味わう幸運を得たわけで、会場は鳴り止まぬ喝采にブラボー、スタンディングオベーションが続き、あの「愛のデュエット」がアンコールで演奏されるという嬉しいオマケまで付いた。

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