10月16日(木)ミシェル・ダルベルト(Pf)
~来日30周年記念リサイタル~
紀尾井ホール
【曲目】
1.ベートーヴェン/ピアノ・ソナタ 第14番 嬰ハ短調「月光」Op.27-2
2. シューベルト/楽興の時 D780~第1番ハ長調、第3番ヘ短調、第5番ヘ短調
、第6番変イ長調
3. シューベルト/即興曲 D935~第3番変ロ長調、第4番ヘ短調
4.ラヴェル/ソナチネ
5. フォーレ/即興曲 第3番 変イ長調 Op.34、ノクターン第6番 変ニ長調 Op.63
6. ショパン/ピアノ・ソナタ 第3番 ロ短調 Op.58
【アンコール】
1.ラヴェル/夜のガスパール~オンディーヌ
2.ショパン/前奏曲嬰ハ短調 Op.45
3.?(シューベルト風の短い曲)
ミシェル・ダルベルトは以前NHKの「スーパーピアノレッスン」の講師として、音楽を知的に捉え、そこに熱い感情を注ぎ込む姿勢と明晰なピアニズムに共感を覚えて以来、ずっとライブで聴いてみたいと思っていた。それが今回ようやく実現した。ベートーヴェンで始まり、お得意のシューベルト、フランス物ではラヴェルにフォーレ、最後はショパンのソナタという盛りだくさんのプログラム。ダルベルトが向かったピアノはファツィオーリ。アンジェラ・ヒューイットが使っていたピアノだ。
最初の「月光」は驚くほど速いテンポで始まった。このテンポでサラリと弾き過ぎると思いきや、あちこちでルバートをかけてたっぷり聴かせるところも多く、ちょっと「えっ?」という感じ。メロディーの附点の部分を伴奏型の3連符と合わせるやり方に出くわすのも初めてだが、これは歴史考証に基づいているのだろうか。続く2つの楽章も個性を感じる演奏で、第3楽章のダイナミックな演奏では高いテンションを伝えたが、なんだかそれぞれ独立した曲を3曲聴いた気分で、初めてライブで聴くダルベルトの「正体」を少々測りかねた。
その後、曲を聴き進むうちに感じたダルベルトのピアノの特徴は、とにかくどんな音でも常に芯を捉えてよく鳴ること、音楽のメロディーラインとベースラインに加えて内声の特徴ある動きに光を当て、それを前面に引き出すことで、音楽の構造が立体的に明晰に見えてくること。これは、音楽を構成するパーツを冷静に組み立てて行く知的な作業で、曖昧なものが入り込む余地がない。だから、ダルベルトの演奏でシューベルトにメランコリックな感情を、フランスものにいわゆるフランスっぽい香りを、ショパンに乙女チックな憧憬を聴こうとしても無駄だ。即物的というか叙事的というか、ダルベルトがビアノから引き出そうとしているものは、明晰で硬質な構造だ。スーパーピアノレッスンでの様子が甦ってきた。
こうした演奏で最も共感を覚えたのはシューベルトの、烈しくたたみかける和音が鈍い痛みを伴って胸に突き刺さってきた 「楽興の時」の5番と、舞曲風の特徴あるリズムが鬼気迫るように動きのあるステップを踏み、聴いている方も「踊らされ」た即興曲の4番。このような能動的なアプローチにダルベルトの真骨頂を感じた。
ラヴェルやフォーレでのパリッとした明晰さや、ショパンの響き渡るダイナミズムも訴える力は強いが、感情や感性よりも理が勝っているように聞こえ、「なるほど!」とは思えても心からの共感にまでは至らなかったというのが正直な感想。でも、会場は曲が終わる毎にブラボーと大喝采がわき起こり、予定されていたプログラムが終わったのはすでに9時をまわっていたが、鳴り止まぬ拍手喝采にアンコールが3曲も演奏された。
~来日30周年記念リサイタル~
紀尾井ホール
【曲目】
1.ベートーヴェン/ピアノ・ソナタ 第14番 嬰ハ短調「月光」Op.27-2
2. シューベルト/楽興の時 D780~第1番ハ長調、第3番ヘ短調、第5番ヘ短調

3. シューベルト/即興曲 D935~第3番変ロ長調、第4番ヘ短調

4.ラヴェル/ソナチネ
5. フォーレ/即興曲 第3番 変イ長調 Op.34、ノクターン第6番 変ニ長調 Op.63
6. ショパン/ピアノ・ソナタ 第3番 ロ短調 Op.58
【アンコール】
1.ラヴェル/夜のガスパール~オンディーヌ
2.ショパン/前奏曲嬰ハ短調 Op.45
3.?(シューベルト風の短い曲)
ミシェル・ダルベルトは以前NHKの「スーパーピアノレッスン」の講師として、音楽を知的に捉え、そこに熱い感情を注ぎ込む姿勢と明晰なピアニズムに共感を覚えて以来、ずっとライブで聴いてみたいと思っていた。それが今回ようやく実現した。ベートーヴェンで始まり、お得意のシューベルト、フランス物ではラヴェルにフォーレ、最後はショパンのソナタという盛りだくさんのプログラム。ダルベルトが向かったピアノはファツィオーリ。アンジェラ・ヒューイットが使っていたピアノだ。
最初の「月光」は驚くほど速いテンポで始まった。このテンポでサラリと弾き過ぎると思いきや、あちこちでルバートをかけてたっぷり聴かせるところも多く、ちょっと「えっ?」という感じ。メロディーの附点の部分を伴奏型の3連符と合わせるやり方に出くわすのも初めてだが、これは歴史考証に基づいているのだろうか。続く2つの楽章も個性を感じる演奏で、第3楽章のダイナミックな演奏では高いテンションを伝えたが、なんだかそれぞれ独立した曲を3曲聴いた気分で、初めてライブで聴くダルベルトの「正体」を少々測りかねた。
その後、曲を聴き進むうちに感じたダルベルトのピアノの特徴は、とにかくどんな音でも常に芯を捉えてよく鳴ること、音楽のメロディーラインとベースラインに加えて内声の特徴ある動きに光を当て、それを前面に引き出すことで、音楽の構造が立体的に明晰に見えてくること。これは、音楽を構成するパーツを冷静に組み立てて行く知的な作業で、曖昧なものが入り込む余地がない。だから、ダルベルトの演奏でシューベルトにメランコリックな感情を、フランスものにいわゆるフランスっぽい香りを、ショパンに乙女チックな憧憬を聴こうとしても無駄だ。即物的というか叙事的というか、ダルベルトがビアノから引き出そうとしているものは、明晰で硬質な構造だ。スーパーピアノレッスンでの様子が甦ってきた。
こうした演奏で最も共感を覚えたのはシューベルトの、烈しくたたみかける和音が鈍い痛みを伴って胸に突き刺さってきた 「楽興の時」の5番と、舞曲風の特徴あるリズムが鬼気迫るように動きのあるステップを踏み、聴いている方も「踊らされ」た即興曲の4番。このような能動的なアプローチにダルベルトの真骨頂を感じた。
ラヴェルやフォーレでのパリッとした明晰さや、ショパンの響き渡るダイナミズムも訴える力は強いが、感情や感性よりも理が勝っているように聞こえ、「なるほど!」とは思えても心からの共感にまでは至らなかったというのが正直な感想。でも、会場は曲が終わる毎にブラボーと大喝采がわき起こり、予定されていたプログラムが終わったのはすでに9時をまわっていたが、鳴り止まぬ拍手喝采にアンコールが3曲も演奏された。