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足繁く通う演奏会の感想等でクラシック音楽を追求/面白すぎる台湾/イタリアやドイツの旅日記/「ドイツ留学相談室」併設

ルターと音楽 ~鈴木雅明とバッハ・コレギウム・ジャパン~

2017年11月14日 | pocknのコンサート感想録2017
11月11日(土)鈴木雅明/バッハ・コレギウム・ジャパン
~第29回獨協インターナショナル・フォーラム
ドイツ文化とルター ―その今日性をめぐって― <宗教改革500周年記念>より~

獨協大学天野貞祐記念館大講堂
【講演】「ルターと音楽」木村佐千子
♪ ♪ ♪

【演奏会】「ルターと音楽」
《ルター作の3つのコラールを元にした音楽》
◎コラール「私たちの神は堅い砦」
♪オリジナルの形での演奏
♪アグリーコラ編
♪ヴァルター編
♪カルヴィジウス編
♪トゥンダー編

◎コラール「高き天より」
♪カルヴィジウス編
♪グンペルツハイマー編
♪シャイン編
♪J.G.ヴァルター編(オルガン独奏)

◎コラール「キリストは死の縄目につかれた」
♪オジアンダー編
♪ツァッハル/コラール「キリストは死の縄目につかれた」によるミサ曲
♪バッハ/「キリストは死の縄目につかれた」による幻想曲 BWV695(オルガン独奏)
♪バッハ/カンタータ第4番「キリストは死の縄目につかれた」BWV4
【演奏】鈴木雅明(指揮&Org)/バッハ・コレギウム・ジャパン

毎年、タイムリーなテーマを掲げ、その道の第一線で活躍する専門家を国内外から招き、講演や議論を通してテーマを多角的に考察する獨協インターナショナルフォーラム、今年は宗教改革500年にちなみルターが取り上げられた。ルターの宗教改革がもたらした影響についての講演の中で、「音楽」に焦点を当てたバッハ研究家の木村佐千子先生による講演と、鈴木雅明氏とバッハ・コレギウム・ジャパンによる演奏会についてレポートする。

木村先生の講演は、ルターがいかに音楽を特別な存在として重んじていたかという話から始まり、コラール(讃美歌)の創始者であるルターがどのぐらいの数のコラールの作詞や作曲に携わったか、そこでは言葉(ドイツ語)と音楽にいかに密接な関係が与えられたか、そして、バッハがいかにルターを重視し、作曲の中にルター作のコラールをいかに多く取り入れたかを明らかにしていく大変興味深い内容だった。

宗教改革によって、礼拝での言語がラテン語から一気にドイツ語に替わったと思っていたが、実は変化はゆっくりと進み、急速な変革よりもしっかりと改革の精神が根付いたという話は興味深かった。また、ルターがドイツ語と音楽に密接な関係を与えたことが、後のシューベルトなどのドイツリートに決定的な影響を与えたということ、バッハとルターが、「信仰」というところで深くつながっていたという話も印象深かった。

♪ ♪ ♪

この講演を踏まえて、今度は鈴木雅明氏のレクチャーを交えたバッハ・コレギウム・ジャパンによる演奏が行われた。演奏会では、ルターが作曲した3つのコラールをクローズアップし、これらのコラールを定旋律として用い、時代を超えて様々な様式と編成で書かれたいくつもの編曲が紹介された。鈴木氏によれば「これほど地味なプログラムはない」とのことだが、話は興味深く、音楽も演奏も大変素晴らしく、何よりも、今回のフォーラムに合わせた特別プログラムを組んでくれたのが嬉しい。

鈴木氏のレクチャーでとりわけ興味を引いた話を2つ。一つは、コラール旋律というのは人の手で生み出されたというより天から与えられた不可侵のもの、という意識が強く根付いていたため、編曲においてもコラール旋律には手を付けず、常にオリジナルの形で現れるというもの。これは、聖書が神の声そのものである、という考えに通じるものがある。二つ目は、ルターが始めた宗教改革が、ドイツではなく、例えばフランスで起こったとしても不思議はないが、仮にそうだったら、その後のヨーロッパの音楽史は全く異なるものになっていただろうという話。木村先生の話とも通じて、ルターがもたらした計り知れない影響について認識した。

演奏会で最初に取り上げられたコラール「私たちの神は堅い砦」では、言葉の抑揚やストレスがリアルにわかる最もオリジナルの形での演奏が最初にあり、言葉が実に生き生きと躍動していることが実感できた。ルターによるコラールの様々なアレンジを聴いて感じたのは、コラールの存在が、いかに多くの作曲家に様々なインスピレーションを与えたかということ、そして、これほど多様なアレンジが書かれるというのは、オリジナルのコラール旋律がいかに世の中に認知され、深く根付いていたかという証であろうということ。「コラールは天与の存在」という鈴木氏の言葉が強く思い起こされた。

こうして様々なアレンジを聴いたあとに最後にバッハのカンタータを聴いて、バッハの音楽はやはり何といっても雄弁この上ないと感じた。コラール・カンタータ形式で書かれたこの曲は、全ての楽曲にルターのコラール「キリストは死の縄目につかれた」が定旋律として用いられているが、それぞれの曲にあてがわれた歌詞によって全く違う表情を見せる。例えば、キリストの復活を喜び、感謝する第2曲の合唱では、厳粛ななかに能動的に神を讃えるアクティブなアプローチが支配し、次の第3曲のデュエットでは、死を前にしてすっかり萎えてしまった魂の弱々しい姿が浮かび上がり、続く第4曲は、死と果敢に闘う様子がリアルに描き出されるという具合。

コラール旋律がどんなに複雑なテクスチュアで装飾されても、どの声部に置かれても、オリジナルのコラール旋律に常に光が当たり、はっきりと聴き手の耳に届いてくるのは、秀でた演奏による効果もあろうが、信仰に生きたバッハが、いかに優れた手腕で「天与の旋律」を音楽の中に刻印したかを改めて窺い知ることにもなった。

会場の小さなステージに合わせ、普段よりもコンパクトな編成で臨んだ演奏だったが、そこから伝わるエネルギーは通常の編成と比べて何ら遜色はないどころか、少数ならではの緊張感と熱気が伝わってきて、すっかり心を奪われた。

ルターについて、それぞれの分野でここまで深く掘り下げ、このようなすぐれたプログラムと演奏によるコンサートまで行われた本フォーラムは、他にも多くあるであろうルターと宗教改革にちなんだレクチャーの中でも、一際優れた催しとなったに違いない。

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