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作曲家の個展II 2017 湯浅譲二×一柳慧

2017年11月06日 | pocknのコンサート感想録2017
10月30日(月)杉山洋一指揮 東京都交響楽団
~サントリー芸術財団コンサート 作曲家の個展II 2017~
サントリーホール

【曲目】
1.一柳 慧/ピアノ協奏曲第3番「分水嶺」(1991)
Pf:木村かをり
2.湯浅譲二/ピアノ・コンチェルティーノ(1994)
Pf:児玉 桃

♪湯浅譲二/オーケストラのための『軌跡』より(2017)
3.湯浅譲二/クロノプラスティクⅡ-エドガー・ヴァレーズ讃-(1999/2000)
4.一柳 慧/ヴァイオリンとチェロのための二重協奏曲(2017・世界初演)
Vn:成田達輝/Vc:堤 剛

湯浅譲二と一柳慧と言えば、僕にとっては日本の作曲界の最も輝いていた時代の中心的存在だ。2人と同世代の作曲家の殆どは既に鬼籍に入ったなかで、今も現役で曲を書き続けているこの2人に焦点を当て、新作を委嘱し、発表の機会を設けたサントリー芸術財団は偉い!

前半は両作曲家のピアノ協奏曲。一柳の作品は、プログラムノートからドラマチックな作品を想像して聞き耳を立てた。木村かをりのピアノが一柳らしい硬質な結晶を思わせる響きを奏でたが、聴き進めば、旋律やリズムがしっかりあって、テクスチュアや響きも極めてまとも。「世界に起きている痛ましい状況への鎮魂」という第2楽章も、もうひとつインパクトに欠け、一柳でなくても書けそうな曲という印象だった。昨年の「コンポージアム」で聴いたピアノ協奏曲第6番の好印象があったたけにちょっと期待外れ。

続く湯浅のピアノ小協奏曲は、演奏が始まるやピアノとオーケストラの間で光が反射し合うような響きに引き付けられた。音楽の印象は、清新な煌めき、柔らかな浮遊感、研ぎ澄まされた美しさ、そして全体が気品に満ちた佇まいを醸し出していた。児玉桃のピアノは艶やかで雄弁、聴き手に向かって大切なメッセージを語りかけてくるようだった。きめ細かく柔らかなタッチで広がりのある都響の響きも素晴らしく、未知の美しい世界に入り込んだ気分になった。

後半では湯浅と一柳への委嘱作品が初演として並ぶ予定だったが、チケットを予約した際、湯浅が体調を崩して新作の発表はなくなったと聞いていた。湯浅氏は演奏会自体来られるかと心配していたが、元気な姿を見せてくれただけでなく、当初予定されていた新作「オーケストラの為の軌跡」の冒頭部分をオケの演奏で聴くことができた。ほんの2分程度の演奏だったが、緻密でかつ生気に溢れ、それがホール全体に静かに広がって行き心を掴まれた。これがどのような「軌跡」を描いて行くのか、全曲が完成して初演される日が待ち遠しい。

初演曲の代わりにプログラムに乗った湯浅作品は、サントリーホールが以前に委嘱したもの。「ヴァレーズ讃」という副題がついているも、ヴァレーズをよく知るわけではないが、眩いばかりの光の粒子が集団となって飛び込んでくるところがヴァレーズへのオマージュなのだろうか。清新さとエネルギー溢れる緻密な音楽だった。

最後は一柳への委嘱作の初演。これは成田と堤による雄弁なソロが印象に残った。旋律には深いところから高みへと昇るデリケートで伸びやかな「歌」があり、芯のある美しい音も格別。オーケストラのエネルギーの充溢ぶりに、80歳を過ぎても全く枯れることのない一柳の創作力の充実ぶりを感じたが、少々長いとも感じた。

会場には空席も目立ったが、現代日本の作曲家の演奏会でこれだけ集まれば上出来だろう。しかも聴衆は皆新しい音楽を熱心に聴き入り、会場は2人の老大家に敬意と感動を込めた熱い拍手で包まれた。

ところで、今夜のような演目のコンサートをやるのはオペラシティだと思い込んで向かっている途中でサントリーと気づいて方向を変え、開演5分前に到着。危うく遅れるところだった。「現代音楽の企画はオペラシティ」という思い込みがあったが、サントリーホールもこうして新作の委嘱と発表も続けている功績を改めて思った。
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