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新国立劇場オペラ公演「魔弾の射手」

2008年04月10日 | pocknのコンサート感想録2008
4月10日(木)新国立劇場オペラ公演
新国立劇場

【演目】
ウェーバー/「魔弾の射手」

【配役】
オットカール侯爵:大島幾雄、クーノー:平野忠彦、アガーテ:エディット・ハッラー、エンヒェン:ユリア・バウアー、カスパール:ビャーニ・トール・クリスティンソン、マックス:アルフォンス・エーベルツ、隠者:妻屋秀和、キリアン:山下浩司、花嫁に付き添う四人の乙女:鈴木愛美、田島千愛、高橋絵理、中村真紀、ザミエル:池田直樹
【演出】マティアス・フォン・シュテークマン
【美術】堀尾 幸男
【衣装】ひびのこづえ

【演奏】
ダン・エッティンガー指揮 東京フィルハーモニー交響楽団/新国立劇場合唱団

いろいろなクラシック音楽の演奏会に通い続けていながら、超有名なオペラ「魔弾の射手」に実演・録画を問わずこれまで一度も接することがなかった。それが今夜初めて「魔弾の射手」を観て、たちどころにその魅力に引き込まれてしまった。

ドイツオペラの元祖とか言われ、ドイツを象徴する「森」がテーマと聞くと、真面目、正義、禁欲… といった「フィデリオ」にも通じるようなおカタいイメージを勝手に抱いていたのだが、実際に接した「魔弾の射手」はそんな勝手に作り上げたイメージを打ち砕いた。楽しく、ファンタジックでスリリングな筋書きには、単純なようでいて様々な人物の描写も見事で、飽きさせるところが全くなくわくわくドキドキした。最後の場面では「魔笛」を思わせるような人間愛の賛歌に思わずじーんとくる。

そしてこのストーリーや登場人物につけたウェーバーの音楽の素晴らしいこと!有名な序曲に続く目の覚めるような鮮やかな合唱、いくつものソロのアリアやアンサンブル… 魅力的な音楽が次々と続く。どれも素敵なハーモニーに溢れ瑞々しく活き活きと登場人物のキャラクターや情景を個性豊かに描く。

声だけじゃない。情感溢れるオーケストラによる歌心いっぱいのフレーズが次々と登場。弦や管のソロが主役達の歌手の歌といっしょにそれぞれの歌を奏でる。普段よく演奏されるのが序曲と狩人達の合唱だけなんてあまりにもったいない。こんな素晴らしいオペラを今まで知らないでいたことがもったいなくもあるが、遅まきながらお宝に出逢えた喜びも大きい。

そしてここまでこのオペラの素晴らしさを感じたのは、この公演自体が素晴らしかったからだと思う。とにかく美しくてファンタジー溢れる舞台だった。書き割り的なシンプルな装置を基調にそれらを照明や影などを巧みに駆使して、深い森や谷底、おどろおどろしい妖怪の世界などを描き出す。人々の衣装や格好も一見ポップアート的でありながら全体の調和がとてもとれていて、群集の動きも含めて絵のように美しい。巨大で不気味なクモや数々のお化けの虫たち、リアルに欠けてゆく月食の月、空飛ぶ鳥や火車… 「魔笛」的なメルヘンチックな世界にわくわくする。

序曲の前に隠者とアガーテのダイアローグを置いたのは演出のアイディアか、もともとのものかは知らないが、全体を通して「これはいったい何を意味するの?」といった無駄な謎解きに惑わされることなく安心して物語に身を委ねられ入り込めるシュテークマンの演出は実にいい。

ウェーバーの素晴らしい音楽を実際の音として体現したオーケストラ、合唱、そしてソリスト達の活躍は言うまでもない。オケは完璧なアンサンブルというわけではないが、心の底から湧いてくるような温かさと情感たっぷりの歌を随所に聴かせて魅了した。各ソロ楽器の腕の見せ所でも大健闘。合唱は艶やかなハーモニーで表情豊か、ボリュームもたっぷりで聴き応え十分。この公演の一番の主役かも知れない。

歌手もみんな粒ぞろい。最も良かったのはマックス役のエーベルツ。大きな表現力で安定した歌を聴かせた。少々荒削りのところが却ってこの奔放な若者のキャラクターを良く出していた。エンヒェンを歌ったバウアーは茶目っ気たっぷりでチャーミングな演技と同様に瑞々しく気の利いた当意即妙の歌が引きつける。一番の拍手喝采を受けていたアガーテ役のハッラー、容姿、貫禄、気品といったこの役に求められる要素を持ち合わせ、滑らかでたっぷりとした歌は色香をたたえていて確かに魅了するが、僕としては音程のあまさがどうも気になった。

この公演でもう一人光っていたのは隠者を歌った妻屋秀和。底まで澄み切った高貴さや徳の高さは「魔笛」のザラストロとか弁者のような風格で舞台上の人々だけでなく劇場に居合わせた観客の心も確実に捉えていた。4人の乙女の艶やかで活きのいいアンサンブルも見事。

こんな具合で舞台も演奏も抜群の公演で初めての「魔弾の射手」を体験できたことはこのオペラとの理想的な出逢いだった。この先またどんな素敵な「魔弾の射手」に出会えるか、楽しみだ。

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