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足繁く通う演奏会の感想等でクラシック音楽を追求/面白すぎる台湾/イタリアやドイツの旅日記/「ドイツ留学相談室」併設

藤村実穂子 メゾソプラノ・リサイタル

2023年10月08日 | pocknのコンサート感想録2023
9月27日(水)藤村実穂子(MS)/ウォルフラム・リーガー(Pf)
~プラチナ・シリーズ2~
東京文化会館小ホール

【曲目】
◆モーツァルト/静けさは微笑み K152
        喜びの鼓動 K579
        すみれ K476
        ルイーゼが不実な恋人の手紙を焼く時 K520
        夕べの想い K523
◆マーラー/歌曲集「さすらう若人の歌」
◆ツェムリンスキー/メーテルリンクの詩による6つの歌曲 Op.13
◆細川俊夫/2つの子守唄(日本民謡集より「五木の子守唄」「江戸の子守唄」)
【アンコール】
1.ツェムリンスキー/子守唄
2.ツェムリンスキー/春の日
3.ツェムリンスキー/夜のささやき

藤村実穂子のリサイタルを聴き、その道を究めるとはどういうことかを思い知った。これは「非の打ち所がない歌唱」という意味ではなく、歌にとって最も大切なことにとことんこだわり、それを極めるという意味だ。藤村は言葉をひとつひとつ吟味し、どう発音し、どんな声で、どんな勢いに乗せればその言葉が最良の姿で歌になるかを徹底的に追求することで歌を研ぎ澄ませて昇華させる。藤村の声は頼もしい芯を持ちながら、表面はとてもデリケートだ。その強さ・逞しさと、柔らかさを、場面に応じて絶妙な配合で混ぜ合わせ、そこに言葉を乗せて行く。歌曲とは、言葉を発することと、音楽を奏でることを最良の形で融合して生まれる芸術であることを改めて認識した。

これを実現するには、共演のピアニストへの要求も厳しくなる。ヴォルフラム・リーガーはこの意味において掛け替えのないパートナーだ。リーガーは、藤村のどんな小さな息遣いも聞き漏らすまいという細心のアンテナを張り、歌にデリケートで敏感に呼応し、歌と一体となって音を奏でる。まるでリュートを爪弾くように、細心の神経で一音一音を息を潜めて紡ぎ出す姿は、デリケートの極致とも云える。リーガーのピアノがあって初めて実現できる世界だ。

藤村の言葉へのこだわりは、配付パンフレットの歌詞対訳を自ら作成していることからも窺える。僕は歌曲のコンサートでは歌詞対訳が配られるかを確かめ、無い場合は自分で用意する。今回は歌詞対訳は配られたが、文字が小さ過ぎて演奏中の暗い照明では殆ど見えない。後半のツェムリンスキーの歌曲は特に歌詞が大切だ。そのため休憩時間に、コピー機がある不忍口のファミマまで走って拡大コピーをしたのだが、対訳の右ページが大きく空いている見開きが最後だと思ってそこまでコピーしたら、後半の演奏中に次の見開きにも対訳が続くことに気づいた。このためツェムリンスキーの歌曲集の6曲のうち、歌詞を追えたのは前半の3曲だけだった。藤村のドイツ語は明瞭で聴き取りやすいが、文字で確かめないときちんと理解するのは厳しい。

歌詞がわからなければ、歌曲の本当の魅力を味わうことは出来ないと僕は思うのだが、歌詞がわかって聴いている聴衆はごく少数のはずなのに、殆どの聴衆は何も見ずに聴いて満足そうにしているのが不思議で仕方ない。今月ウィーンとベルリンで聴いた歌詞付き作品の公演では、歌詞が会場内に投影されていた。日本もオペラに限らず歌詞がわかる工夫をして欲しい。そんなことを思いながら過去の自分の感想を読み返していたら、2010年にも藤村さんのリサイタルで同じことでコンビニに走ったことが書いてあった。次はちゃんと事前に準備しておかねば!

「月に憑かれたピエロ」/新作能「月乃卯」(MS:藤村実穂子)2022.9.10 八千代座
大野和士 指揮 東京都交響楽団(MS:藤村実穂子)2021.2.22 東京文化会館
藤村実穂子 リーダーアーベント II 2010.11.12 紀尾井ホール

ウィーン&ベルリン音楽の旅(2023)
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