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足繁く通う演奏会の感想等でクラシック音楽を追求/面白すぎる台湾/イタリアやドイツの旅日記/「ドイツ留学相談室」併設

ピアニスト 若林顕さんを囲んで

2015年06月13日 | pocknのコンサート感想録2015
6月13日(土)ピアニスト 若林顕さんを囲んで ~サロンの集い~
uraku AOYAMA
~演奏~
1. ベートーヴェン/熱情ソナタ~第1楽章
2.ショパン/幻想即興曲
3.ドビュッシー/アラベスク第1番
4.ワーグナー/リスト編/イゾルデ愛の死
【アンコール】
服部隆之編/ムーンリバー

~茶話会~

お誘いを受けて会員制のサロンコンサートに参加させて頂いた。ゲストは世界的に活躍するピアニストの若林顕さん。30人分ほどの椅子が並んだおしゃれな空間に置かれたピアノは木目調で小ぶりのスタインウェイ。古野千秋さんの司会進行による親密な雰囲気のなかで、若林さんは得意のベートーヴェンやショパンなどのピースを聴かせてくれた。

「熱情」ソナタでのがっしりとした硬質なフォルムと重量感のある熱いパンチや、香り高く滑らかで優美に舞ったショパンの幻想即興曲など、プライベートな場所に置かれたピアノは少々弾きにくかったかも知れないが、短いコンサートのなかでピアニスト若林顕の魅力を堪能した。

とりわけ印象に残ったのは「イゾルデ愛の死」。ワーグナーの濃密で壮大な世界をピアノ一台のためにリストが編曲したピースを、振幅と「深幅」の大きな演奏で表現。終盤の最大のクライマックスではグヮングヮンととてつもなく大きなうねりを増幅させ、部屋全体が揺すられているようなパワーと情熱で聴き手を圧倒した。

♪ ♪ ♪

演奏の後は部屋のレイアウトを変更して、若林さんを囲んでの茶話会が開かれた。参加者一人ずつが若林さんに質問や感想を述べるコーナーがあり、世界的なピアニストの横顔に触れ、音楽やピアノに対する思いを聞けたのはとても興味深く有意義だった。「へぇ!」と思ったお話をいくつか挙げると…

あまりに完璧に調律された楽器より、多少の「ズレ」があった方が創造力や冒険心が刺激されておもしろい、と調律について話してくれたこと、大ホールでコンチェルトを弾いた翌日に、小さなホールで弾くと、無意識に音が大きくなってしまうことがあるということ、或いは、これまでに電撃的な衝撃を受けたピアニストや気に入ったピアニストのやり方は積極的に取り入れている、といったエピソード。

僕が伺ったのは、「プレイエルやエラールといった歴史的なピアノが最近注目され、多くのピアニストがその魅力を語っているけれど、こうしたピアノをどう思いますか。また逆に現代のピアノの魅力は何でしょう。」という質問。歴史的なピアノの魅力について聞く機会は多い一方で、特に古楽器畑の演奏家は、現代のピアノを大きな音を出すためにピアノ本来の魅力を捨てた、みたいに語る人が多いが、古い楽器の魅力はもちろんあるにせよ、多くの芸術家や職人が育ててきたはずの今の楽器をけなされると大いに反論したくなる。そこで、主に現代のピアノで活動する若林さんから、今の楽器の魅力について聞きたかった。そのお答えは実に示唆に富み、目から鱗のものだったので簡単に紹介したい。

「一旦発せられ音は減衰して消えて行ってしまうのがピアノという楽器の宿命。このため、ピアニストは消え行く音たちをいかに繋げ、豊かなニュアンスを与えるかに心と技を砕いていて、例えば1枚の水彩画で、くっきりしたタッチの隣りに「ぼかし」を入れるなど、様々な手法を隣り合わせて空気感や遠近感を作っていくような感覚をピアノで表現しようとすることは、現代のピアノでしかできない。」(若林さんのお話を自分流に解釈しているので正確な表現ではありません)

若林さんのコンサートは恥ずかしながらこれまで殆ど聴いていないのだが、今でも忘れられない演奏に、チェリストのヨハネス・モーザとのデュオリサイタルがある。武満徹の「オリオン」を、清澄で微妙なグラデーションに富んだ音色で「静」なる世界をピアノで描いていたことを、このお話から改めて思い出し、若林さんのピアノ演奏にもっと向き合いたくなった。

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