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ミシェル・ベロフ ピアノリサイタル

2010年10月12日 | pocknのコンサート感想録2010
10月12日(火)ミシェル・ベロフ ピアノ・リサイタル 
紀尾井ホール
【曲目】
1.シューベルト/ピアノ・ソナタ第21番変ロ長調D.960
2.ヤナーチェク/ピアノ・ソナタ「1906年10月1日、街頭にて」
3.ドビュッシー/ベルガマスク組曲
4.バルトーク/ハンガリー農民の歌による即興曲
【アンコール】
1.シューベルト/ハンガリーのメロディー ロ短調 D.817
2.ドビュッシー/アラベスク
3.ドビュッシー/亜麻色の髪の乙女

手の故障からの復帰以来、明晰なピアイズムでの表現の深度がぐんと増し、レパートリーも広げて活躍するベロフも、今年で還暦を迎える。

多彩なプログラムに引かれて聴いた久し振りのリサイタルの最初に置かれたのが、元々は最後に演奏するはずだったシューベルトの大曲、遺作の変ロ長調のソナタ。行きつ戻りつしながら、ひたすら何かを求めるようにさ迷い、最後に何やら大切なものを見つけたようにも見えるこの意味深長な音楽が、ベロフの演奏からは、その底辺に一貫した定旋律が流れているように感じた。

各声部がくっきり弾き分けられ、それらが調和して進んで行くことでもたらされる安定感と並んで、さ迷うような音楽から時おりのぞくストレートな心の叫びが発せられる度に、それが、一貫して聴こえる定旋律の正体であるような気がした。

後半の最初のヤナーチェクでは、期待するベロフのピアノが聴けた。魂の奥底まで透けて見えるような明晰なタッチで克明に音楽を描き、リアルで厳しい響きを聴かせた第1楽章。一瞬のぶれもない的確なペダリングから生み出される響きの見事な色分けで、痛みを伴った吐息が生々しく訴えてきた第2楽章。これはプログラムの最後に置かれたバルトークの、民族色を一旦明晰に分析したうえで、再び農民達の熱い息吹を吹き込み、スリリングな踊りを鍵盤上で繰り広げた演奏と共に、このリサイタルでの双璧を築いた。

こうなると、その間に置かれた「ベルガマスク組曲」の意味を問いたくなる。ベロフのアプローチは、その前後の演奏とは随分趣きの異なるメルヘンチックとも言えるもので、柔らなベールを纏った音色でファンタジー溢れる演奏。これはこれで、この組曲のひとつの理想的な姿を示したとは思うのだが、その前後の曲の演奏から得た印象と比べるとかなり異質であり、ドビュッシーのビアノ作品のなかでもロマンチックなこの曲を、なぜこの場所に入れたかという疑問と共に、なんだかすっきりしないものを感じた。聴衆のリクエストを募れば絶対選ばれそうにない曲を2つも持ってきたことへのサービス的な選曲と演奏なんてことはないとは思うが…

鳴り止まぬ拍手に応えて演奏されたアンコールピースの名曲オンパレードを聴きながら、リサイタル全体からもっと強烈なメッセージを求めてしまうのは、きっと少数派に違いない。


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