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小菅 優 ベートーヴェン・ソナタ・シリーズ vol.6

2013年09月27日 | pocknのコンサート感想録2013
9月27日(金)小菅 優(Pf) 
~ベートーヴェン ピアノ・ソナタ全曲演奏会シリーズ 第6回~
紀尾井ホール
【曲目】
1.ピアノ・ソナタ 第8番 ハ短調 Op.13「悲愴」
2. ピアノ・ソナタ 第4番 変ホ長調 Op.7
3. ピアノ・ソナタ 第22番 ヘ長調 Op.54
4.ピアノ・ソナタ 第23番 ヘ短調 Op.57「熱情」
【アンコール】
グリーグ/抒情小品集 Op.54~ 夜想曲

小菅優によるベートーベンソナタシリーズの6回目では「悲愴」と「熱情」をやる、ということで、一度小菅優のベートーベンを聴かせたいと思っていた奥さんの分もチケットを予約して出掛けた。

1曲目の「悲愴」は第1楽章がとりわけ印象的。前奏のグラーヴェからただならぬ空気。怖いほどの静寂の中に響く和音の塊は、夜の墓場のような妖しい冷気を運ぶ。休符の沈黙がこれほどの闇を感じさせる演奏がこれまでにあっただろうか。そして主要部が始まる。感情を押し殺し疾走するアレグロのなかで時おり現れる閃光は、暗闇に遠くで光る稲光のよう。何かに追い立てられているような心のざわつき、何が起こるかわからない不安、そんな感情に支配された第1楽章だった。

次の第4番は、ソナタシリーズでなければまず聴けない曲。初期に書かれた大規模な作品で、演奏によってはつかみどころがわからないまま終わってしまう可能性もあるが、小菅はこういう曲で聴衆の心をぐいっと引き付ける。泉のようにこんこんと涌き出てくるように楽想が現れ、歌い、羽ばたく。音たちが嬉しそうに微笑み、踊りへといざなってくるよう。小菅の瑞々しく弾ける感性が全開、次にどんな音が現れるかが楽しみでワクワク気分で聴き進んでいった。はにかむような表情を見せつつ曲が終わると、会場はほんわかした暖かい空気に包まれていた。

そんな暖かい空気は、トッカータとかカプリッチョといった雰囲気の短い22番のソナタでリセットされ、最後の衝撃的な「熱情」が始まると会場の空気は一気に緊迫した。

プログラムノートで小菅はこの曲について「苦しみと訴えに満ちた爆発」「残酷な曲」などと語っているが、これほど徹底的に情け容赦なく攻めてくる「熱情」はこれまでに聴いたことがない。不安に駆られ、追い詰められ、弱ってしまっても攻撃の手を決して緩めない非情な鬼の形相。いつもは「あこがれ」が感じられるわずかなフレーズにも切迫感が漂う。強弱の激しいコントラスト、息もつかせぬアジタート、血流が逆流するような激情が迸り、聴いていて心拍数が上がり、苦しいほど。このところアレルギーでずっと詰まっている鼻がスッと通った。地獄の叫びのような「熱情」に小菅の凄みを思い知った。

そんな激しく熱い「熱情」のあと、アンコールで弾いたグリーグの「夜想曲」は、夜のしじまが全てを包み込み、全ては闇に沈んでいった。次回の「ハンマークラヴィーア」が今から待ち遠しい。

小菅 優 ベートーヴェン・ソナタ・シリーズ vol.5~2013.3.8 紀尾井ホール~

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