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足繁く通う演奏会の感想等でクラシック音楽を追求/面白すぎる台湾/イタリアやドイツの旅日記/「ドイツ留学相談室」併設

おと と おと と Vol.2 小泉詠子(MS)/初鹿野剛(Bar)/朴令鈴(Pf)

2012年05月04日 | pocknのコンサート感想録2012
5月4日(金)おと と おと と Vol.2
やなか音楽ホール


【曲目】
Ⅰ. シュトラウスの歌曲~ ひそやかな誘い、あなたは私の心の王冠、夜、セレナード
Ⅱ. シューマン/歌曲集「ミルテの花」Op.25 全曲
Ⅲ. シェーンベルク/ブレットル歌曲集(キャバレーソング)
【アンコール】
シューマン/愛の庭


【演奏】
MS:小泉詠子/Bar:初鹿野 剛/Pf:朴令鈴


昨年10月に続くこのシリーズ第2弾は、シューマンの「ミルテの花」全曲とシェーンベルクの「キャバレーソング」を中心にした珍しく魅力いっぱいのプログラム。

最初にはシュトラウスの歌曲が置かれたが、これで聴衆はいきなり濃厚なドイツリートの世界に誘われた。高貴な色香に溢れた小泉さんのメゾ、説得力と抱擁力のある初鹿野さんのバリトン、常に音楽に、歌に真摯な朴さんのピアノ、3人の魅力が最初から全開で、ボリュームもたっぷりな演奏会への期待が膨らんだ。

シューマンの「ミルテの花」が一夜の演奏会で全曲聴けること自体珍しいが、僕自身、録音も含めて全曲聴くのは初めて。連作歌曲でもなくひとつのコンセプトのもとに纏められたというわけでもないこの歌曲集はいわば寄せ集めで、曲の紹介をしてくれた朴さんも、「名曲もあれば、なんじゃこれ?と思うような曲もある」というお話。

「とても長いので頑張って聴いてください」と言われ、ある程度覚悟を決めて臨んだが、実際に聴いてみれば、辛くなることも退屈することも全くなく、シューマンの音楽の魅力にどっぷりと浸かり、更には今まで知らなかったこの作曲家の興味深い一面にも触れることができ、本当に楽しめた。それは素晴らしい演奏があってこそのことだろう。それに加えて、朴さんがそれぞれの詩の要旨を自作の詩に託して朗読してくれてイマジネーションが喚起されたのも大きい。

この歌曲集には「献呈」、「くるみの木」、「はすの花」、「きみは花のよう」など、数多くの歌心溢れる名曲が散りばめられている一方で、「酒飲みの歌」、「ハイランド人の離郷」、「将軍の妻」といった叙事的な詩や風変わりな詩に付けられた歌もある。前者の名曲の多くは女声向きのものが多く、これらの多くは小泉さんが担当、「いいとこ取り」をした小泉さんだが、小泉さんはこれらの名曲たちを深く澄んだ極上の美声で、細やかなニュアンスを与えながら格調高く歌い、曲の持つ魅力が香りたつようで、惚れ惚れと聴き入ってしまった。言葉に対する感覚は明晰でかつ思いが込められていて、朴さんがブログに載せてくれている対訳を印刷して、言葉を追いながら聴いていると、一つ一つの言葉がいかに大切に歌に乗せられているかを感じることができた。言葉が心に沁みた歌はたくさんあったが、強いて挙げるなら2曲の「花嫁の歌」の豊かな言葉のニュアンスと歌いまわしが胸にぐっと迫ってきた。

対する初鹿野さんは、有名な曲はあまり受け持てなかったが、それを逆手に取るかのごとく、初めて聴く曲たちをリアルに、面白おかしく、或いは巧みな語り部となって聴かせてくれ、普段は陽の当らない曲の魅力を十二分に伝えてくれた。初鹿野さんの歌を聴いていると、前回のウォルフの歌曲のリアルな歌いまわしが思い出される。相変わらずのネイティヴ並みの発音と機転の利く見事なドイツ語で、言葉と音楽の結びつきの大切さを改めて認識させてくれた。対訳には載っていなかった「なぞなぞ」の答えを最後に囁いたのがわかったときは、思わずニンマリしてしまった。初鹿野さんがオラフ・ベーアと重なった。いや、それ以上かも。

朴さんのピアノも素晴らしい。粒が揃った行き届いたコントロールで歌にぴたりと寄り添い、濁りのないハーモニーを変化させつつ歌の背景作りを見事に演出した。

その朴さんの演出は、キンキラキンの衣装に着替えて登場した次のシェーンベルクで更に威力を発揮。2人の歌い手も歌に相応しく衣替え。小泉さんの熟女のお色気ムンムンの衣装と仕草が余りにもハマッていてただ恐れ入るばかり。歌もピアノも、シューマンの時よりもずっと濃厚な香りづけで振幅も増強し、このホールを古きベルリンの魅惑の社交場に変えてしまった。小泉さん、初鹿野さんの詩の朗読も役者並みに堂に入っている。最後の歌「スローワルツ」で心臓の鼓動を歌う「ブンブンブン」を「みなさんもご一緒に!」の呼びかけで客席も一緒になって歌えたのは楽しかったぁ!3人の名役者ぶりに脱帽!

おと と おと と Vol.1 2011.10.16

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