1月24日(金)小川典子リサイタル ~フィリップ・スミスを迎えて~
日本の作曲家2014 第3夜
サントリーホールブルーローズ
【曲目】
1.大政直人/ダンス・ミュージック
2.川島素晴/ピアノのためのポリエチュードⅣ「ノンポリ」(2010)
3.安川黙磷/水かげろう
4.中川俊郎/19の展開(一部連弾)(世界初演)
5.金子仁美/《時の層Ⅲ》ピアノ独奏のための
6.岡坂慶紀/松韻(高千穂・天岩戸神社にて)-ピアノのために-
7.菅野由弘/「アンドロメダ銀河」ピアノ4手連弾のための(世界初演)
【演奏】
Pf:小川典子(2,4,5,7)、フィリップ・スミス(1,3,4,6,7)
日本作曲家協議会主催による「日本の作曲家」シリーズは、今年で40年目を迎えるという息の長いプロジェクト。全3夜のうち、第3夜のピアノソロとデュオのための演奏会を聴いた。僕の好きなピアニストである小川典子が、彼女のパートナーのフィリップ・スミスと共に会員から集まった作品から今夜の演奏会のために選んだ7作品が演奏された。様々なタイプの多彩な作品が集まったこと、それらが優れたピアニストによって素晴らしい演奏で再現されたことで、とても聞き応えのある充実した、そして楽しい演奏会となった。
1曲目の大政さんの作品は、古き良きニューオリンズのジャズとかロックンロールのスピリットが現代に蘇ったような、味のある楽しい曲。スミスさんのインプロビゼーション的なセンスが冴えた第1曲、歌心あふれる第2曲、作曲者が「ジミヘン風の」と解説した第3曲では、ピアニストが独りで繰り広げる正確なジャブの応酬に聴き手はノリノリ気分になった。
2曲目の川島さんの「ノンポリ」は、ショパン生誕200年の年に書かれたというショパンへのオマージュ的作品。ショパンの有名な曲の断片が14個繋ぎ合わされ、それが様々な変奏を伴いながら全部で4回演奏される。トーンクラスターバリバリの小川のアグレッシブで情熱的な演奏で、手に汗握るスリリングな演奏が繰り広げられた。変奏を重ねる度に原曲が現代的に、攻撃的に変貌を遂げて行くのだが、面白かったのは、どんなにゲンダイオンガク的にアレンジされても、原曲の持つ「価値」がしっかりと保たれ、息づいていたこと。全くの別物、と見なされ勝ちなロマン派の音楽と現代の音楽は意外に共通する部分が多いのでは、なんて感じた。
3曲目は、安川さんの「水かげろう」。できるだけ少ない音でシンプルな音楽を目指したというこの作品は、ゆらりゆらりと揺らめく陽炎のイメージが、曲名がなくても伝わってくる。空間の広がりや奥行きが感じられ、ミニマルミュージックのような独特な静謐感を醸し出していた。スミスさんのピアノからは、プリペアドピアノを思わせる音色なども聴こえ、多楽器によるアンサンブルを聴いているような多彩な音色を曲から引き出していた。
前半最後は中川さんの「19の展開」。全19曲から今夜は10曲を第1集として発表した。中川さんはサプライズのある作品を発表しているというが、今回も前衛的な音楽に突然ロマンチックな調性音楽が引用されたり、突然照明が真っ暗になって沈黙の暗闇が襲ってきたり(まわりから「どうしたんだろう」と囁く声が)、予測不可能なパフォーマンスが仕掛けられたスリリングな楽しさがある音楽。
後半の1曲目、金子さんの《時の層Ⅲ》は、巨獣がのたうちまわるようなモチーフとそれを傍観するようなモチーフの執拗な繰り返しで始まった。全曲を通してアグレッシブな音楽に小川さんが渾身のエネルギー全開の演奏で立ち向かい、スリリングなシーンを展開した。
次の岡坂さんの「松韻」は、神話の郷、高千穂をイメージしたという曲。ピアノの高い音域を活かして、淡い光に揺らめく雅な情景の前後部分と、妖精が躍り回るような中間部から成る和の心を感じる作品。これをスミスさんが多彩な音色で実にデリケートな表情で伝えた。
最後は、演奏会の司会で打ち解けた雰囲気作りにも貢献した菅野さんの「アンドロメダ銀河」。壮大な宇宙空間をイメージした音楽は、SF映画のようにスケールが大きく、ファンタジーに溢れ、ドラマを感じた。計り知れない大きさの天体にあるに違いない別の生命との生きたコミュニケーションを思わせるワクワク感を伝えていた。小川&スミスの連弾は明晰でエモーショナルで頼もしく、演奏会の取りに相応しいドラマチックなクライマックスを築いた。
日本の作曲家2014 第3夜
サントリーホールブルーローズ
【曲目】
1.大政直人/ダンス・ミュージック
2.川島素晴/ピアノのためのポリエチュードⅣ「ノンポリ」(2010)
3.安川黙磷/水かげろう
4.中川俊郎/19の展開(一部連弾)(世界初演)
5.金子仁美/《時の層Ⅲ》ピアノ独奏のための
6.岡坂慶紀/松韻(高千穂・天岩戸神社にて)-ピアノのために-
7.菅野由弘/「アンドロメダ銀河」ピアノ4手連弾のための(世界初演)
【演奏】
Pf:小川典子(2,4,5,7)、フィリップ・スミス(1,3,4,6,7)
日本作曲家協議会主催による「日本の作曲家」シリーズは、今年で40年目を迎えるという息の長いプロジェクト。全3夜のうち、第3夜のピアノソロとデュオのための演奏会を聴いた。僕の好きなピアニストである小川典子が、彼女のパートナーのフィリップ・スミスと共に会員から集まった作品から今夜の演奏会のために選んだ7作品が演奏された。様々なタイプの多彩な作品が集まったこと、それらが優れたピアニストによって素晴らしい演奏で再現されたことで、とても聞き応えのある充実した、そして楽しい演奏会となった。
1曲目の大政さんの作品は、古き良きニューオリンズのジャズとかロックンロールのスピリットが現代に蘇ったような、味のある楽しい曲。スミスさんのインプロビゼーション的なセンスが冴えた第1曲、歌心あふれる第2曲、作曲者が「ジミヘン風の」と解説した第3曲では、ピアニストが独りで繰り広げる正確なジャブの応酬に聴き手はノリノリ気分になった。
2曲目の川島さんの「ノンポリ」は、ショパン生誕200年の年に書かれたというショパンへのオマージュ的作品。ショパンの有名な曲の断片が14個繋ぎ合わされ、それが様々な変奏を伴いながら全部で4回演奏される。トーンクラスターバリバリの小川のアグレッシブで情熱的な演奏で、手に汗握るスリリングな演奏が繰り広げられた。変奏を重ねる度に原曲が現代的に、攻撃的に変貌を遂げて行くのだが、面白かったのは、どんなにゲンダイオンガク的にアレンジされても、原曲の持つ「価値」がしっかりと保たれ、息づいていたこと。全くの別物、と見なされ勝ちなロマン派の音楽と現代の音楽は意外に共通する部分が多いのでは、なんて感じた。
3曲目は、安川さんの「水かげろう」。できるだけ少ない音でシンプルな音楽を目指したというこの作品は、ゆらりゆらりと揺らめく陽炎のイメージが、曲名がなくても伝わってくる。空間の広がりや奥行きが感じられ、ミニマルミュージックのような独特な静謐感を醸し出していた。スミスさんのピアノからは、プリペアドピアノを思わせる音色なども聴こえ、多楽器によるアンサンブルを聴いているような多彩な音色を曲から引き出していた。
前半最後は中川さんの「19の展開」。全19曲から今夜は10曲を第1集として発表した。中川さんはサプライズのある作品を発表しているというが、今回も前衛的な音楽に突然ロマンチックな調性音楽が引用されたり、突然照明が真っ暗になって沈黙の暗闇が襲ってきたり(まわりから「どうしたんだろう」と囁く声が)、予測不可能なパフォーマンスが仕掛けられたスリリングな楽しさがある音楽。
後半の1曲目、金子さんの《時の層Ⅲ》は、巨獣がのたうちまわるようなモチーフとそれを傍観するようなモチーフの執拗な繰り返しで始まった。全曲を通してアグレッシブな音楽に小川さんが渾身のエネルギー全開の演奏で立ち向かい、スリリングなシーンを展開した。
次の岡坂さんの「松韻」は、神話の郷、高千穂をイメージしたという曲。ピアノの高い音域を活かして、淡い光に揺らめく雅な情景の前後部分と、妖精が躍り回るような中間部から成る和の心を感じる作品。これをスミスさんが多彩な音色で実にデリケートな表情で伝えた。
最後は、演奏会の司会で打ち解けた雰囲気作りにも貢献した菅野さんの「アンドロメダ銀河」。壮大な宇宙空間をイメージした音楽は、SF映画のようにスケールが大きく、ファンタジーに溢れ、ドラマを感じた。計り知れない大きさの天体にあるに違いない別の生命との生きたコミュニケーションを思わせるワクワク感を伝えていた。小川&スミスの連弾は明晰でエモーショナルで頼もしく、演奏会の取りに相応しいドラマチックなクライマックスを築いた。