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足繁く通う演奏会の感想等でクラシック音楽を追求/面白すぎる台湾/イタリアやドイツの旅日記/「ドイツ留学相談室」併設

マリア・ジョアン・ピリス ピアノリサイタル

2014年03月07日 | pocknのコンサート感想録2014
3月7日(金)マリア・ジョアン・ピリス(Pf)
サントリーホール

【曲目】
1.シューベルト/4つの即興曲 D.899 Op.90
2. ドビュッシー/ピアノのために
3. シューベルト/ピアノ・ソナタ第21番変ロ長調 D.960
【アンコール】
シューマン/森の情景~予言の鳥

ピリスは僕のお気に入りのピアニストで、CDでも馴染みがあるが、実演を聴いた記録を調べたら02年に王子ホールでデュメイとのデュオを聴いただけだった。そもそも日本でソロリサイタルが行われるのは16年ぶりとのこと。貴重なリサイタルを聴く機会を得た今回、ピリスの魅力を心行くまで味わった。

最初のシューベルトの即興曲の1曲目からすっかり心を奪われてしまった。気高さ、慈愛、情熱といった要素がそれぞれのエッセンスを抽出して、最高のバランスで共存し、この上ない調和を生み出している。美しく生きるために必要な滋養だけを吸収し、それが100%活かされた世界。どのフレーズもどの音も、何からの支配も受けることなく、それぞれが自らの声で自らの歌を奏で、それらがひとつの調和した世界を作り出している姿は奇跡のよう。

メロディーの美しい佇まいは極上の域に達しているし、シューベルトの音楽に欠かせない内面性を表現するための内声やベースラインの表現・色合いの見事さと言ったら!時として聴こえるか聴こえないかという微弱な音なのに、消えることのない影のように確実にそこに存在し、印象派の絵画に描かれた影のように様々な色彩とグラデーションを持ち、音楽に奥深いひだと陰影をもたらす。全ての音が五臓六腑に沁みわたり、心の琴線に共鳴し、幸福感で満たされた。

2つのシューベルトの大作の間に置かれたドビュッシーの「ピアノのために」も素敵だった。主観と客観の間で確かなバランス感覚を保ちつつ、勢いと方向性を与えられた音が生き生きとした生命力を育んで行く。潤いのある滑らかな運びで、自由に気高く羽ばたくドビュッシー!

後半の変ロ長調のソナタ、この遺作の作品には何やらただならぬものが秘められているのを感じるが、ロマンチックな雰囲気にも事欠かないので、憧れとか祈りで全体をまとめることもできるだろう。ピリスの前半の演奏からは、そんなロマンチックな気分に満たされた演奏になるのかな、とも想像したが、ピリスはそうした「平和な」気分も表現する一方で、心の奥底で渦巻く葛藤や衝動、焦燥感といった「平和でない」ものを、平和なものと拮抗する形で並べているのを感じた。

そうすることによって、第1楽章の低音の不気味なトリルや、第2楽章の深い哀しみや、第3楽章中間部の不安な気分や、フィナーレで何度も現れる唐突なフォルテピアノ(fp)のオクターブの打鍵音が、俄然その役割りを明確にして聴き手に迫ってくる。それと同時に、憧憬に溢れたフレーズも襟を正して聴くことを求められる。抑えがたいパトスと、それをコントロールしようとする理性がせめぎあい、演奏全体が緊張感に支配されていた。ピリスの、シューベルトの作品に対する深い洞察と共感が伝わる名演となった。

そんな緊張感を引き継ぐように始まったアンコールのシューマンだが、それが魔法にかけられたように徐々に解かれて夢幻の世界へと導かれ、ひとつのリサイタルが見事に完結した。

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