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ヴィオラスペース2013 vol.22 コンサートⅡ

2013年05月29日 | pocknのコンサート感想録2013
5月29日(水)ヴィオラスペース2013 vol.22
≪パウル・ヒンデミット没後50年記念≫ コンサートⅡ ファンタジー“FANTASY”
上野学園 石橋メモリアルホール


関連企画Ⅱ【ヒンデミット:弦楽四重奏曲全曲演奏会】
① 弦楽四重奏曲第6番 変ホ調
Vn:佐原敦子、小杉 結/Vla:阿部 哲/Vc:豊田庄吾
② 弦楽四重奏曲第7番 変ホ調
Vn:毛利文香、山根一仁/Vla:田原綾子/Vc:上野通明

♪ ♪ ♪

1.テレマン/「12のファンタジー」より第7番 変ホ長調
Vla:バーバラ・ブントロック
2.ヒンデミット/ヴィオラとチェロの二重奏曲
Vla:サミュエル・ローズ/Vc:ジョエル・クロスニック
3.モーツァルト/弦楽五重奏曲 第5番ニ長調K.593
ジュリアード弦楽四重奏団/Vla:今井信子
4.ボーエン/4本のヴィオラのための幻想曲
Vla:佐々木亮、岡さおり、市坪俊彦、菅沼準二
5.フンメル/幻想曲 ト短調 Op.94
Vla:ウェンティン・カン/原田幸一郎指揮 桐朋学園オーケストラ
6.ヒンデミット/白鳥を焼く男
Vla:アントワン・タメスティ/原田幸一郎指揮 桐朋学園オーケストラ

昨年に引き続き出かけた「ヴィオラスペース」のコンサート。バロック時代の作品から、今年没後50年を迎えたヒンデミットの作品まで幅広い時代に渡ってヴィオラに光が当てられた多彩な作品が並んだ。

更にプレコンサートとして、ヒンデミットの弦楽四重奏曲が聴けるという嬉しいおまけ付き。最終日の今夜は、7曲あるヒンデミットの弦楽四重奏曲から最後の2曲が演奏された。どちらも「おまけ」というレベルを遥かに超えた素晴らしい演奏だった。まず感じたことは、ヒンデミットのカルテットがバルトークやショスタコーヴィチのカルテットにも匹敵しうる、弦楽四重奏曲の王道を行く優れた作品だということ。張りつめた厳しさが支配する中に柔軟性があり、心に沁みる歌もある。

6番はかなり大規模な曲だったが、これを担当した4人の演奏は、安定感に熱気も加わり、緊迫した雰囲気がよく表現されていたと同時に、チェロに与えられた朗々とした歌などのインパクトも十分で、変化に富んだこの曲の魅力をとてもよく伝えていた。

演奏者が替わってヒンデミット最後のカルテットは、新鮮でインスピレーションに富み、内容的にも凝縮され、輝きがあった。演奏がこうした魅力を引き出していたと言ってもいい。弦楽四重奏曲という室内楽のなかでも最も一体感が求められる編成で、各プレイヤーの集中力が一点に集まり、同じ空気を呼吸し、お互いに働きかけを行いながら、ひとつの生き物のように動きが有機的に連動して、素晴らしい一体感を作り上げていた。演奏への思い切りの良さや、掘り下げて行く姿勢もアクティブで、カルテットならではの醍醐味を堪能した。演奏会のチラシにはプレイヤーの名前しか載っていないが、既にカルテットとしての実績も積んでいるのでは?今後の活動にも注目したい。

プレコンサートだけで既に演奏会のメインを聴いたほどの満足感を得たが、正規のプログラムはここから。ここでは、プログラムと演奏の両面から、ヴィオラという楽器の魅力を余すところなく味わうことができた。

まずテレマンの無伴奏。ブラントロックの演奏は、息の長いフレージングで曲を捉え、大きく包み込むようにまとめてゆく。速いパッセージでもおおらかさは失われることなく、豊かな音量でたっぷりと歌い上げ、ビオラの「歌心」が存分に発揮されていてホレボレした。

続くヒンデミットはジュリアードSQのメンバーによるデュオ。プレコンサートで聴いたヒンデミットは厳しさに支配されていたのに対し、ここでは二人の老大家によって温かみと味わいのある音楽に仕上げられ、ヒンデミットの別の一面を味わうことができた。二人のやり取りはまさしく旧知の間柄を思わせ、懐の深さと「遊び心」が伝わってきた。

そしてジュリアードSQが勢揃いし、今井信子が加わったモーツァルトのクィンテット。さっきのデュオの演奏から、これも味わい深い演奏になるかと思いきや、完全に「攻め」のモーツァルト。全員が一丸となって果敢に突き進み、掴みかかり、メンバー同士が息も切らせぬリアルなやり取りを繰り広げる。次に何が起きるか想像できないほどのスリルがあるモーツァルトで、ライブの魅力が炸裂した。ファーストヴァイオリンのジョセフ・リンが、若さでイニシアチブを取っているように聴こえるが、ずっと歳上の他の4人も負けてはいない。相手の裏をかいて投げた変化球の球筋を読んで打ち返す、と言ったやり取りは熟練の賜物でもある。いずれにしても、これほどアグレッシブなモーツァルトって他では聴けないかも。その一方で、モーツァルト的な典雅さや幸福感とは無縁で、ちょっと落ち着かないモーツァルトに感じた。

演奏会後半の最初のボーエンは、ヴィオリスト4人によるアンサンブル。登場した4人のヴィオラの名手それぞれの個性も楽しめたし、ヴィオラが4つ集まって生まれる濃縮された響きの魅力も堪能。

最後の2曲はヴィオラとオーケストラの共演。フンメルの幻想曲は、モーツァルトのオペラアリアのモチーフなどが散りばめられた明るい作品。ソロのウェンティン・カンのヴィオラは、キリッと引き締まった演奏スタイルに艶と輝きのある音色が魅力で、生き生きとした気品が感じられた。

ヒンデミットの「白鳥を焼く男」は、最初に聴いた弦楽四重奏曲の厳しい世界とも、ヴィオラとチェロのデュオで聴いた味わい深い対話とも違う古典的な潔さを感じる魅力溢れる作品で、ヴィオラ協奏曲と呼んでもいい大作。タメスティの颯爽とした演奏は清々しいだけでなく、深くしっかりと音を刻み、聴き手の心にも印象を焼きつけた。オケとのやり取りも聴きものだった。

「ヴィオラ奏者にとって最も大切な作曲家の一人」とチラシにも書かれたヒンデミットの多くの作品が、アニヴァーサリーイヤーを機に「ヴィオラスペース」で特集されたのは意義深い。これを機会に、ヒンデミットの曲に更に親しみたいと思った。

ヴィオラスペース2012 vol.21 ガラコンサート 2012.6.1 紀尾井ホール

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2 コメント

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ヴィオラ・スペース2013 (一静庵)
2013-06-01 01:53:51
プレ・コンサートから、お聴きになったのですね。

モーツァルトの弦楽五重奏曲、なんだか「すごいっ!」と思ったのですが、自分ではどう表現したらよいか解らずにいました。pocknさんのご感想を読ませていただいて、納得しました
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Unknown (pockn)
2013-06-01 14:48:29
一静庵さん、このモーツァルトは好みとはちょっと違いましたが、確かにすごかったですね。歳を重ねてもこんな活きのいい演奏ができてしまうのもスゴイと思いました。
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