5月24日(木)タン・ドゥン指揮 NHK交響楽団
《2013年5月Bプロ》 サントリーホール
【曲目】
1. タン・ドゥン/タン・ドゥン/「The Tears of Nature」~マリンバとオーケストラのための(日本の津波犠牲者の追憶に)(2012)[日本初演]
マリンバ:竹島悟史
2.ストラヴィンスキー/バレエ組曲「火の鳥」(1919年版)
3. タン・ドゥン/女書:The Secret Songs of Women ~13のマイクロフィルム、ハープ、オーケストラのための交響曲(2012/13)[NHK交響楽団、ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団、フィラデルフィア管弦楽団共同委嘱/世界初演]
ハープ:早川りさこ
今月のN響B定期は、作曲家のタン・ドゥンが登場。自らの作品を指揮して世界初演を行うという、B定期ならではのもの。後半に置かれたその世界初演に先だってまず演奏されたのもタンドゥンの作品で、こちらは本邦初演。「無の世界」から鈴を弓で擦る微弱な音が立ちのぼり、オーケストラがゆったりと奏でる流れのなかで、マリンバが瞑想的な調べを綴ってゆく。昨今の中国や日本を襲った大災害に思いを馳せて書かれたパーカッション協奏曲から、今回の本邦初演に際して津波で亡くなった人達への追悼を込めて副題が沿えられたこの第2楽章は、どこまでも静かな祈りの音楽だった。竹島悟史が演奏するマリンバのふくよかで柔らかな音色が、心の琴線に触れた。
次になぜかストラヴィンスキーの「火の鳥」の組曲版が演奏された。こうした「既成の曲」を演奏するときは、拍節感がしっかり刻まれ、武骨で重みがあるのがタン・ドゥンの演奏スタイルの特徴だと思うが、この「火の鳥」では、その特徴がとても効を奏していた。古代の絵巻物をリアルに体感するような臨場感があり、腹の底から力が湧き上がり、雄たけびが大地を揺るがすような「カッチェイ王の魔の踊り」や「終曲」がとりわけ印象的だった。N響の芯があり熱のこもった演奏も見事。
さて、お待ちかねの世界初演曲の「女書」。これは、中国の奥地で昔から女たちの間だけで育まれ、伝承されてきた「女書(ニュウシュー)」と呼ばれる特殊な文字で書かれた詩を吟唱する女達の映像に合わせて、ハープソロとオーケストラが演奏する一種のシアターピース。事前に現地で撮影されて準備された印象的な映像から流れる歌と、生演奏によるコラボが、まさに今生まれてきた音楽のように聴こえる。映像で流れる女たちの歌は、素朴な力強さと妖しげな魅力が混ざりあい、これ単独だけでも心の奥底に響いてくるが、タン・ドゥンの音楽は、このオリジナルの歌を全く邪魔することなく協和し、歌から醸し出されるエッセンスを、更に深遠で幽玄の世界へと運んで行った。
タン・ドゥンが得意ななまめかしい弦のグリッサンド奏法も効果的だし、石を擦りあわせたり打ち鳴らせたり、実際の水滴の音を拡声したりする特殊な音響効果も健在。そして、映像の吟唱とオーケストラの間を軽やかに行き交う早川りさこのハープが、両者の心のコミュニケーションの橋渡しをしているようにも聴こえた。失われつつある「女書」を受け継ぐ女たちの喜怒哀楽や情念、祈りなどが、歌とオケとハープと映像のコラボによって増幅される。N響の柔らかくて色気のある表情や繊細な表現は素晴らしい。
そして圧巻が最終楽章の「女書と水のロックンロール」。金管楽器奏者までマウスピースを掌でバコバコ叩くことで打楽器系に参加し、水の落ちる音も益々勢いを増し、躍動するリズム感のなか、女達の明るく力強い吟唱がオーケストラの歌と呼び交わす。それに合わせて、歌いながら川で炊事洗濯をする女達の映像が目まぐるしく切り替わり、生演奏と一緒に踊り回り、リズムと歌と踊りの饗宴で華々しく曲を閉じた。
素朴な力強さと妖しさを持ったこの音楽は、2曲目に演奏された「火の鳥」とも共通するところがあることに気づいた。「哀悼」と「祈り」の1曲目から始まったこの演奏会のプログラムに大きな統一感がもたらされたのを感じた。
《2013年5月Bプロ》 サントリーホール
【曲目】
1. タン・ドゥン/タン・ドゥン/「The Tears of Nature」~マリンバとオーケストラのための(日本の津波犠牲者の追憶に)(2012)[日本初演]
マリンバ:竹島悟史
2.ストラヴィンスキー/バレエ組曲「火の鳥」(1919年版)
3. タン・ドゥン/女書:The Secret Songs of Women ~13のマイクロフィルム、ハープ、オーケストラのための交響曲(2012/13)[NHK交響楽団、ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団、フィラデルフィア管弦楽団共同委嘱/世界初演]
ハープ:早川りさこ
今月のN響B定期は、作曲家のタン・ドゥンが登場。自らの作品を指揮して世界初演を行うという、B定期ならではのもの。後半に置かれたその世界初演に先だってまず演奏されたのもタンドゥンの作品で、こちらは本邦初演。「無の世界」から鈴を弓で擦る微弱な音が立ちのぼり、オーケストラがゆったりと奏でる流れのなかで、マリンバが瞑想的な調べを綴ってゆく。昨今の中国や日本を襲った大災害に思いを馳せて書かれたパーカッション協奏曲から、今回の本邦初演に際して津波で亡くなった人達への追悼を込めて副題が沿えられたこの第2楽章は、どこまでも静かな祈りの音楽だった。竹島悟史が演奏するマリンバのふくよかで柔らかな音色が、心の琴線に触れた。
次になぜかストラヴィンスキーの「火の鳥」の組曲版が演奏された。こうした「既成の曲」を演奏するときは、拍節感がしっかり刻まれ、武骨で重みがあるのがタン・ドゥンの演奏スタイルの特徴だと思うが、この「火の鳥」では、その特徴がとても効を奏していた。古代の絵巻物をリアルに体感するような臨場感があり、腹の底から力が湧き上がり、雄たけびが大地を揺るがすような「カッチェイ王の魔の踊り」や「終曲」がとりわけ印象的だった。N響の芯があり熱のこもった演奏も見事。
さて、お待ちかねの世界初演曲の「女書」。これは、中国の奥地で昔から女たちの間だけで育まれ、伝承されてきた「女書(ニュウシュー)」と呼ばれる特殊な文字で書かれた詩を吟唱する女達の映像に合わせて、ハープソロとオーケストラが演奏する一種のシアターピース。事前に現地で撮影されて準備された印象的な映像から流れる歌と、生演奏によるコラボが、まさに今生まれてきた音楽のように聴こえる。映像で流れる女たちの歌は、素朴な力強さと妖しげな魅力が混ざりあい、これ単独だけでも心の奥底に響いてくるが、タン・ドゥンの音楽は、このオリジナルの歌を全く邪魔することなく協和し、歌から醸し出されるエッセンスを、更に深遠で幽玄の世界へと運んで行った。
タン・ドゥンが得意ななまめかしい弦のグリッサンド奏法も効果的だし、石を擦りあわせたり打ち鳴らせたり、実際の水滴の音を拡声したりする特殊な音響効果も健在。そして、映像の吟唱とオーケストラの間を軽やかに行き交う早川りさこのハープが、両者の心のコミュニケーションの橋渡しをしているようにも聴こえた。失われつつある「女書」を受け継ぐ女たちの喜怒哀楽や情念、祈りなどが、歌とオケとハープと映像のコラボによって増幅される。N響の柔らかくて色気のある表情や繊細な表現は素晴らしい。
そして圧巻が最終楽章の「女書と水のロックンロール」。金管楽器奏者までマウスピースを掌でバコバコ叩くことで打楽器系に参加し、水の落ちる音も益々勢いを増し、躍動するリズム感のなか、女達の明るく力強い吟唱がオーケストラの歌と呼び交わす。それに合わせて、歌いながら川で炊事洗濯をする女達の映像が目まぐるしく切り替わり、生演奏と一緒に踊り回り、リズムと歌と踊りの饗宴で華々しく曲を閉じた。
素朴な力強さと妖しさを持ったこの音楽は、2曲目に演奏された「火の鳥」とも共通するところがあることに気づいた。「哀悼」と「祈り」の1曲目から始まったこの演奏会のプログラムに大きな統一感がもたらされたのを感じた。
「女書と水のロックンロール」、ほんとに圧巻でしたね!
自分の目からも水があふれ出して、困りました