9月6日(金)東京二期会オペラ劇場
~シャンゼリゼ劇場、カーン劇場、パシフィック・オペラ・ヴィクトリアとの共同制作~
新国立劇場
【演目】
モーツァルト「コジ・ファン・トゥッテ」
【配役】
フィオルディリージ:吉田珠代、ドラベッラ:小泉詠子、デスピーナ:七澤結、フェルランド:金山京介、グリエルモ:小林啓倫、ドン・アルフォンソ:黒田博
【演奏】
クリスティアン・アルミンク指揮 新日本フィルハーモニー交響楽団/二期会合唱団、新国立劇場合唱団、藤原歌劇団合唱部
【スタッフ】
演出・衣装:ロラン・ペリー/装置:シャンタル・トマ/照明:ジョエル・アダン 他
「コジ・ファン・トゥッテ」は、モーツァルトの代表的なオペラの中では意外と上演の機会が少ない演目かも知れない。他のオペラと比べて有名なアリアが少なかったり、ストーリーが茶番めいていたりすることが原因なのかも知れないが、今日の二期会の上演に接して、このオペラがモーツァルトの紛れもない最高傑作のひとつであることを改めて感じることができた。
まず特筆したいのがオーケストラ。アルミング指揮新日フィルの、瑞々しく繊細でかつ雄弁な演奏が、登場人物の揺れる心、熱い思いといった感情を見事に表現していた。ちょっとしたアクセントや自然な音の膨らみが心の動きを的確に捉え、生き生きと映し出した。艶やかな音色、チャーミングな歌いまわしもホレボレするほどで、クラリネットのソロを聴いて「このオペラにはこんなキレイなクラがあったんだ」と改めて気づくなど、各ソロ楽器の妙技にも惹かれた。
こんなオケと共演できるソリスト達は幸せだ。今日のキャストは甲乙つけがたい上々の出来で、オケの演奏に負けず劣らずの魅力的な歌を聴かせ、いい演技を見せてくれた。フィオルディリージ役の吉田珠代は、最初は少々大味の印象を受けたが、進むに連れてしっくりと役にはまり、2幕のロンドでは揺れる思いに悩む気持ちを心の底から歌い上げた。ドラベッラ役の小泉詠子は、くっきりとした美声で、軽い女というよりは聡明で何事にも本気で向かう女性像を描いた。他の男に心惹かれるのも本気で、今自分が置かれている状況を見据えて人生を前向きに楽しもうという生き様が伝わって来た。2幕のアリア「恋はくせもの」でもそんな本気度が軽妙に表現されていた。演技も自然で美しかった。
この「本気」は小泉さんに限らず、キャスト皆から共通して伝わって来た。変装した2人の男がそれぞれ友人のいいなづけを口説こうとする本気度は、歌からありありと感じられた。そこには優しさや誠意すら感じてしまった。ドラベッラを見事にその気にさせるデュエットでのグリエルモ役、小林啓倫の心の底から甘く語りかける口説きの歌、ドラベッラの浮気に怒り心頭の状況でフィオルディリージを口説くフェランド役、金山京介の歌からも、甘美さと一途さが伝わってくる。そんな一途さはデズピーナも同じ。七澤結の歌は、かわいらしさよりもワイルドで赤裸々に感情を露わにした。変装して声色を使ったおどけた歌と演技も堂に入っていて聴衆を笑わせた。ベテラン、黒田博の斜に構えた歌と演技は含蓄に富んで存在感があった。
それぞれの登場人物にそれぞれの個性があり、どれもが人間的な魅力と優しさを具えていて、このオペラを茶番で終わらせないのがモーツァルトという作曲家の凄いところだろう。この作品にはデュエットから六重唱まで様々な組み合わせのアンサンブルが散りばめられているが、どのシーンでもバランスの良いアンサンブルとなったのは、スタンドプレーに走る歌手がいなかったことも幸いしただろう。こうした歌手陣とアルミング指揮新日フィル、それに3つの団体から構成された合唱団によるパフォーマンスに、最終盤では人間愛がじんわり伝わってきて目頭が熱くなった。これこそがモーツァルトオペラの真骨頂。これを実現した演奏陣に心からの拍手を送りたい。
ロラン・ペリーの演出は、録音スタジオを舞台に、歌手達は台本を見ながら放送用に歌ううちに、だんだんと役に没入して芝居と現実が混同してゆくという流れ。演出の情報は事前に少し伝わっていて嫌な予感はしたけれど、覚悟していたほどオペラの流れを邪魔したり、謎かけだらけで気が散ったりするほどではなかった。ドン・アルフォンソがドン・ジョヴァンニみたいに地獄に堕ちるような最後のシーンはよくわからなかったが。アリアやデュエットでは、スタジオの効果を生かしたスポットライトで歌手がクローズアップされ、歌い手と聴衆を真っ直ぐ繋ぐのに役立っていたと思う。演出はあくまで音楽のサポート役であるべきで、演出が独り歩きするべきではないと思う。
東京二期会オペラ劇場「蝶々夫人」 2024.7.19 東京文化会館
東京二期会オペラ劇場「ルル」 2021.8.31 新宿文化センター
東京二期会オペラ劇場「フィデリオ」 2020.9.4 新国立劇場
♪小泉詠子さんの歌をYouTubeで聴く♪
詩:金子みすゞ「積もった雪」
詩:金子みすゞ「鯨法会」
詩:金子みすゞ「さびしいとき」
MS:小泉詠子/Pf:田中梢
「森の詩」~ヴォカリーズ、チェロ、ピアノのためのトリオ~
MS:小泉詠子/Vc:山口徳花/Pf:奥村志緒美
「紅葉」
MS:小泉詠子/Vc:山口徳花/Pf:奥村志緒美
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クリスティアン・アルミンク指揮 新日本フィルハーモニー交響楽団/二期会合唱団、新国立劇場合唱団、藤原歌劇団合唱部
【スタッフ】
演出・衣装:ロラン・ペリー/装置:シャンタル・トマ/照明:ジョエル・アダン 他
「コジ・ファン・トゥッテ」は、モーツァルトの代表的なオペラの中では意外と上演の機会が少ない演目かも知れない。他のオペラと比べて有名なアリアが少なかったり、ストーリーが茶番めいていたりすることが原因なのかも知れないが、今日の二期会の上演に接して、このオペラがモーツァルトの紛れもない最高傑作のひとつであることを改めて感じることができた。
まず特筆したいのがオーケストラ。アルミング指揮新日フィルの、瑞々しく繊細でかつ雄弁な演奏が、登場人物の揺れる心、熱い思いといった感情を見事に表現していた。ちょっとしたアクセントや自然な音の膨らみが心の動きを的確に捉え、生き生きと映し出した。艶やかな音色、チャーミングな歌いまわしもホレボレするほどで、クラリネットのソロを聴いて「このオペラにはこんなキレイなクラがあったんだ」と改めて気づくなど、各ソロ楽器の妙技にも惹かれた。
こんなオケと共演できるソリスト達は幸せだ。今日のキャストは甲乙つけがたい上々の出来で、オケの演奏に負けず劣らずの魅力的な歌を聴かせ、いい演技を見せてくれた。フィオルディリージ役の吉田珠代は、最初は少々大味の印象を受けたが、進むに連れてしっくりと役にはまり、2幕のロンドでは揺れる思いに悩む気持ちを心の底から歌い上げた。ドラベッラ役の小泉詠子は、くっきりとした美声で、軽い女というよりは聡明で何事にも本気で向かう女性像を描いた。他の男に心惹かれるのも本気で、今自分が置かれている状況を見据えて人生を前向きに楽しもうという生き様が伝わって来た。2幕のアリア「恋はくせもの」でもそんな本気度が軽妙に表現されていた。演技も自然で美しかった。
この「本気」は小泉さんに限らず、キャスト皆から共通して伝わって来た。変装した2人の男がそれぞれ友人のいいなづけを口説こうとする本気度は、歌からありありと感じられた。そこには優しさや誠意すら感じてしまった。ドラベッラを見事にその気にさせるデュエットでのグリエルモ役、小林啓倫の心の底から甘く語りかける口説きの歌、ドラベッラの浮気に怒り心頭の状況でフィオルディリージを口説くフェランド役、金山京介の歌からも、甘美さと一途さが伝わってくる。そんな一途さはデズピーナも同じ。七澤結の歌は、かわいらしさよりもワイルドで赤裸々に感情を露わにした。変装して声色を使ったおどけた歌と演技も堂に入っていて聴衆を笑わせた。ベテラン、黒田博の斜に構えた歌と演技は含蓄に富んで存在感があった。
それぞれの登場人物にそれぞれの個性があり、どれもが人間的な魅力と優しさを具えていて、このオペラを茶番で終わらせないのがモーツァルトという作曲家の凄いところだろう。この作品にはデュエットから六重唱まで様々な組み合わせのアンサンブルが散りばめられているが、どのシーンでもバランスの良いアンサンブルとなったのは、スタンドプレーに走る歌手がいなかったことも幸いしただろう。こうした歌手陣とアルミング指揮新日フィル、それに3つの団体から構成された合唱団によるパフォーマンスに、最終盤では人間愛がじんわり伝わってきて目頭が熱くなった。これこそがモーツァルトオペラの真骨頂。これを実現した演奏陣に心からの拍手を送りたい。
ロラン・ペリーの演出は、録音スタジオを舞台に、歌手達は台本を見ながら放送用に歌ううちに、だんだんと役に没入して芝居と現実が混同してゆくという流れ。演出の情報は事前に少し伝わっていて嫌な予感はしたけれど、覚悟していたほどオペラの流れを邪魔したり、謎かけだらけで気が散ったりするほどではなかった。ドン・アルフォンソがドン・ジョヴァンニみたいに地獄に堕ちるような最後のシーンはよくわからなかったが。アリアやデュエットでは、スタジオの効果を生かしたスポットライトで歌手がクローズアップされ、歌い手と聴衆を真っ直ぐ繋ぐのに役立っていたと思う。演出はあくまで音楽のサポート役であるべきで、演出が独り歩きするべきではないと思う。
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詩:金子みすゞ「積もった雪」
詩:金子みすゞ「鯨法会」
詩:金子みすゞ「さびしいとき」
MS:小泉詠子/Pf:田中梢
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MS:小泉詠子/Vc:山口徳花/Pf:奥村志緒美
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MS:小泉詠子/Vc:山口徳花/Pf:奥村志緒美
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