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スウェーデン放送合唱団

2015年10月20日 | pocknのコンサート感想録2015
10月20日(火)ペーター・ダイクストラ指揮 スウェーデン放送合唱団
東京オペラシティコンサートホール タケミツメモリアル


【曲目】
1.バッハ/モテット第1番「主に向かいて新しき歌を歌え」BWV225
2.ペルト/トリオディオン(1998)
3.シェーンベルク/ちには平和を Op.13
4. ブラームス/祭典と記念の格言 Op.109
5.マルタン/二重合唱のためのミサ曲

【アンコール】
1. ホーガン編/ジェリコの戦い
2.アルヴェーン/「そして乙女は輪になって踊る」
3.スウェーデン民謡「すべての山と谷をめぐり」


スーパーコーラスとして世界的に名高いスウェーデン放送合唱団の演奏会を 5 年ぶりに聴き、感銘を新たにした。この合唱団の最大の持ち味は、驚異的とも言えるピュアな響き。この持ち味を「武器」に、作曲家が作品を通して伝えようとしているメッセージを緻密に、生き生きと、そして熱く歌い上げ、音楽の深淵に迫って行くプロ中のプロと言える合唱団だ。

「 1 パートの人数が増えれば、響きはそれに反比例して濁る」という言葉はこの合唱団には当てはまらない。少人数の声楽アンサンブルならまだしも、 30 人を超える合唱団でこんな深い水底がくっきりと見えるほど透明で静謐な響きを聴かせ、しかも少人数のアンサンブルでは到底実現できないパワーを持ち合わせているのは驚きだ。

「地には平和を」は、國土潤一氏のプログラムノートによると、シェーンベルクにとって「後の作品の先駆となる」斬新なハーモニーやポリフォニーを駆使した作品だったが、当時の合唱団のレベルでは到底作曲者の意に沿う演奏ができず、シェーンベルクはいたく失望したというが、スウェーデン放送合唱団の演奏は精巧な工芸品のような気高い匠の技を感じさせた。非和声音を多く含む複雑なハーモニーも驚くほど透明な響きを聴かせ、不協和音の持つ独特の美しさが心に響いてきた。歌のなかで 4 回繰り返される「地上に平和を!」のフレーズが深い祈りであったり、悲痛な叫びであったり、リアリティに富んだドラマとして伝わってきた。

ペルトの「トリオディオン」から伝わってきたものも深い祈り。呟くように繰り返される各節の最後の言葉が、今にも消え入りそうでいながらも浄化されていくようだった。

ブラームスの「祭典と記念の格言」は、学生時代に歌ったこともある思い出のお気に入りの曲。当時、気合いと思い入れを込めて歌ったが、これをなんと自然でデリケートな表情で聴かせてくれたことか。「子々孫々まで」変わることのない信じる心の、強く美しい姿を示してくれた。

今夜の演奏会でもとりわけ感銘深かったのは、プログラムの最後に置かれたマルタンのミサ。前に聴いたことがあるように思って帰宅後に調べたら、5年前の演奏会でも取り上げられていた。ミサの典礼文というのはクリスチャンでない僕にとっては面白いものではないが、その言葉と音楽が実に密接にリンクしたマルタンの音楽に引かれ、それをリアルに表現する演奏の素晴らしさに魅了された。

透明で静謐感漂う美しいハーモニー、デリケートな祈りから決然とした信仰告白までのダイナミックス、心が締め付けられるような磔刑の緊迫感、「イエスが葬られた」と歌われるときの世界の終焉を表すような最弱音、陽気なほどの復活を喜ぶワクワク感、天上からなだれ落ちてくるような「オザンナ!」の超自然的なパワー、そして「アニュス・デイ」が何度も繰り返されたあとに、たった一度「我らに平安を」と歌われるくだりで感じた、悟りが開かれたような境地については、5年前の感想でも書いていた。

残念だったのは最初にやったバッハのモテット。ピリオド演奏を意識しているようにも感じたが、細部をいじりすぎてよくわからない演奏になってしまった。ピリオド演奏はその道の専門家に任せ、もっと現代的なアプローチをした方がこの合唱団の本領を発揮できる気がした。バッハの音楽には、どんなアプローチでも許容する普遍性があるのだ。

アンコールの「ジェリコの戦い」を聴いて、この驚異的なアンサンブルが実現する秘密がわかった気がした。それは、とても細かいディナミークやテンポの変化を、指揮者が脇へ退いて何もしなくても自然に表現していたこと。この合唱団は、それほどまでに敏感にお互いの声と息遣いを感じ合い、それを一つの音楽として形作っている証だろう。やはりスウェーデン放送合唱団は「プロの中のプロ」だ。

スウェーデン放送合唱団演奏会(2010.6.18 東京オペラシティタケミツメモリアル)

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